『悔恨の日』発売

2018-02

『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ - 2018.01.31 Wed

ヒギンズ,ジャック
鷲は舞い降りた
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ(ハヤカワ文庫NV)

ヒトラーの密命を帯びて英国東部ノーフォークの一寒村に降り立ったドイツ落下傘部隊の精鋭たち。彼らの任務はこの地で週末を過ごすチャーチル首相を誘拐することだった。指揮官は歴戦の勇士シュタイナ中佐。見方は軍情報部の女スパイとIRAの兵士。 イギリス兵になりすましたシュタイナたちは着々と計画を進行させていく……世界の命運を左右する極秘作戦の成否は? 戦う男たちの勇気と闘志を謳いあげる冒険小説の最高傑作!(本書あらすじより)

2017年は、『赤い収穫』『利腕』『寒い国から帰ってきたスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『ロウフィールド館の惨劇』などの「何か名作って言われてるしすごいんだろうけど、ほっといても読まなそうな作品群」を倒すことが出来たのですが、そろそろ2018年の目標も立てなければならないのです。というわけで、2018年の目標がこちら。

マスト︰『鷲は舞い降りた』『死の接吻』『さむけ』
準マスト:『さらば愛しき女よ』『初秋』『千尋の闇』『わたしを離さないで』『荊の城』
新規:『Zの悲劇』『警察署長』『クリスマスに少女は還る』『チャイルド44』

マストは2016年から、準マストは2017年から読まねばと言い続けているので、そろそろ何とかせねば……。
というわけで、有言実行、今回はジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』の不完全版です。完全版を読もうか迷ったのですが、とりあえず最初に日本で受け入れられた方、かつ薄い(ここ大事)、ということで。『女王陛下のユリシーズ号』(1955)のマクリーン、『深夜プラス1』(1965)のライアル、『高い砦』(1965)のバグリイ、『ジャッカルの日』(1970)のフォーサイス、『鷲は舞い降りた』(1975)のヒギンズ、で「英国冒険小説読んどけ群」感がないですか。ないですか、そうですか。この中で唯一の未読が『鷲』。
読んでみると、えっ、意外とドンパチする小説だったんだ、というのがビックリ。面白かったのですが、色々な点で不満も感じました。

チャーチル誘拐という、無茶な指令がヒトラーからくだり、これが様々な人間によって実行されるまでの物語。前半はひたすらドイツ側の準備が、後半はその作戦、およびイギリス側や作戦現場の村の人たちの対応が描かれます。
ポイントは、作戦が上手くいっていないことでしょうか。もちろん、ヒトラー誘拐は失敗するわけです(ということは冒頭から作者ヒギンズによって述べられています)。ですから、冒険小説としては『女王陛下のユリシーズ号』のように「失敗の物語」に入ります。ドイツ側の無茶な作戦の準備をじっくり描写し、それが一気に瓦解し、男(と女)たちが華々しく散る、避けようのない失敗を見せてくるのは上手いし、十分楽しめます。
ただ、その失敗が、ヒムラーというダメ上司の余計な介入などを原因としているのが楽しくないんですよ。中間管理職はつらいのです。そのつらさを書こうとしているのも分かるんですが、作戦の失敗をバカ投入により引き起こす冒険小説はどうも気に入らないんだよなぁ。ガチでやってガチで失敗してほしいじゃないですか。
あと、やっぱり自分は捜査小説が好きなんだなぁ、と。緻密な作戦を、これまた頭脳で迎え撃つような作品。『ジャッカルの日』や『エニグマ奇襲指令』みたいなやつです。実際はミスや偶然での失敗の方が多いんでしょうけど、やっぱり頭脳戦を見たいなって……。

なんだかんだ重くなりすぎないヒギンズの書き方は結構好きです。ドイツ側の反ナチス(戦争やヒトラーに嫌気がさしている様)っぷりをちょっと強調しすぎかなと思いましたが、ドイツ側に英独どちらでもないIRAのデヴリンという存在を投入しているおかげで、そこまで気になりません(どっかのイギリス人は知らん)。キャラクターが良いだけに、失敗ありきの作戦をもう少し上手く書いたものを読みたかったです。

ところで、最後のチャーチルのやついるか?とか、生き残った人々のその後(の生死)をちょっとでもいいからエピローグ的な感じで教えて欲しいよなぁ、というかそれを作中のヒギンズが言わない意味が分からないよなぁ、などと思って続編『鷲は飛び立った』のあらすじを見たら……えええええええ、こんなんありかよぉぉぉぉぉ案件だったんだけど、どうなんでしょうかこれは。面白いの?
あと、『ジャッカルの日』や『鷲は舞い降りた』のように、史実に隠された事件、という体裁を取っていて、最後にその作戦が成功し、まさかのパラレルワールドであったことが明らかになる衝撃の結末の冒険小説はないんですか……と聞こうと思ったんですが、これ聞いた時点でネタバレになるやつじゃん。映画では1作聞きましたが、小説を知りたいなぁ。

原 題:The Eagle Has Landed(1975)
書 名:鷲は舞い降りた
著 者:ジャック・ヒギンズ Jack Higgins
訳 者:菊池光
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 263
出版年:1981.10.31 1刷
     1994.10.31 28刷

評価★★★★☆

『タイタニック号の殺人』マックス・アラン・コリンズ - 2018.01.24 Wed

コリンズ,マックス・アラン
タイタニック号の殺人
『タイタニック号の殺人』マックス・アラン・コリンズ(扶桑社ミステリー)

1912年4月10日。出航したタイタニック号の船上には、多くの著名人にまじって推理作家フットレルとその妻の姿もあった。華やかに繰り広げられる社交の影で暗躍する謎の男。やがて勃発する殺人事件。汽船会社社長と船長の要請を受けて、フットレルは航海中に事件を解決すべく、調査に乗り出すが……。フットレルの娘が語る、歴史のはざまに秘められた驚くべき事件の真相とは? 「運命の日」前夜の船上を舞台に、登場人物全員が実在の乗員乗客という離れ業に挑む、巨匠の野心作。(本書あらすじより)

マックス・アラン・コリンズは結構手広くいろいろなものを書いている作家なのですが、その中でも「大惨事」シリーズと呼ばれる、歴史上の事件を舞台に、実在の人間を探偵役にして描いたシリーズがあります。その第1作がこちら。邦訳は第2作『ヒンデンブルク号の殺人』(レスリー・チャータリスが登場)で止まっていますが、以降本国では『真珠湾の殺人』(エドガー・ライス・バローズが登場)、『ルシタニア号の殺人』(S・S・ヴァン・ダインが登場)、『ロンドン大空襲(ブリッツ)の殺人』(アガサ・クリスティーが登場)、『ラジオドラマ「宇宙戦争」の殺人』(オーソン・ウェルズが登場)と、6作出ているようです。ヴァン・ダインとかクリスティーとか訳されて欲しかった……。
もちろん、『タイタニック号の殺人』では、思考機械シリーズの作者ジャック・フットレルが探偵役となります。タイタニック号の乗客であった彼は、奥さんを救命ボートに乗せ、自らは思考機械の新作原稿と共に海の底に沈んだ……というのは有名な話ですが、実は航海中に殺人事件が発生しており、フットレルがそれを解決していた、という設定です。

被害者も容疑者も実在の人物(主として名士たち)という、名誉毀損すれすれな作品を書いた、という点は大いに評価できます(笑)。フットレルだけでなく、作中の登場人物は全て実在した人間なのです。また、タイタニック号を舞台にしているにもかかわらず、安易にパニック物にしなかったのも良いですね。……というか、読む前はてっきり、沈みゆく船の中で殺人と謎解きがあるのかと思っていたのですが、よくよく考えたらあの数時間にそんな余裕があるわけなかった……。
黄金時代風の舞台設定(映画『タイタニック』と違って終始一等船客が中心なので、とりあえず色々豪華)のわりに、謎解きはかなりストレートと言うか、まぁないようなものですが、ジャック・フットレルの名探偵無双っぷりは楽しめるので良しとします。「元新聞記者であるため、話している相手が嘘をついていたら分かる」と豪語するジャック・フットレル、強い。

Wikipediaでタイタニック号の項目を見ると、著名な乗客一覧に乗っているような人がぞろぞろ登場し、かつ彼らのプロフィールに忠実に物語を作り上げています(偽名で乗船している二等船客が登場するのですが、これも実話だったことにはびっくりしました)。あくまで実話だ、と見せようとする作者の試みとしては、かなり成功している部類ではないでしょうか。ただ、次々に登場する大富豪たちの描き分けは、ちょっとつらいかなと思います。ある程度読者が知っていることを前提にしているのかもしれません。

結局のところ、歴史上の事件を舞台にしたエンタメ、という点では無難な出来なのですが、タイタニック号を舞台にしている時点で、もうずるいのです。なにしろ、登場人物が「アメリカに着いたら○○するんだ!」とか言っているだけで感慨深いものが生まれちゃうんですよ! せこいだろうが!!(褒めてる) 読み物としてまぁまぁ楽しめるため、謎解きとしてではなく、あくまでタイタニック号の1つの物語として評価したい作品です。

原 題:The Titanic Murders(1999)
書 名:タイタニック号の殺人
著 者:マックス・アラン・コリンズ Max Allan Collins
訳 者:羽地和世
出版社:扶桑社
     扶桑社ミステリー コ-1-2
出版年:2007.04.30 1刷

評価★★★★☆

『リトル・ドリット』チャールズ・ディケンズ - 2018.01.21 Sun

ディケンズ,チャールズ
リトル・ドリット1 リトル・ドリット2 リトル・ドリット3 リトル・ドリット4
『リトル・ドリット』チャールズ・ディケンズ(ちくま文庫)

中国帰りの資産家アーサーは、母親の家でお針子として働いている、か細い身体つきでひどく怯えた顔をした若き女性リトル・ドリットに会った。興味を持ったアーサーは、ある夜尾行し、マーシャルシー監獄へ入って行く彼女の姿を見た……。19世紀、華やかなロンドンの裏にひそむ悲惨な生活、社会の矛盾や不正のしわ寄せを背負いこまされる貧しい者、弱い者たちの姿を鋭い観察眼で描いた『リトル・ドリット』を全4冊で刊行する。(本書1巻あらすじより)

毎年恒例、年越しディケンズ。『大いなる遺産』『二都物語』『バーナビー・ラッジ』と来て、今年は『リトル・ドリット』に挑戦です。4巻もある……『荒涼館』並みに長い……。
と思ったら、序盤が手こずりやすいディケンズにしては最初から最後までかなりスラスラと読めました。『荒涼館』には及ばないとは言え、読んでいてずっと面白かったという点では、『荒涼館』(1巻前半がややきつい)を上回るかもしれません。やったぞ、今年は当たりだ。

あらすじは、ざっくり言えば、中流階級であるスーパー鈍感中年アーサー・クレナムと、父親が債務者監獄に閉じ込められている貧しくも若き天使リトル・ドリットの恋物語、なんでしょう。第1部である1、2巻と、第2部である3、4巻で、状況は大きく変わるのですが、それは読んでのお楽しみ、ということで。
その中で、とある悪人の行動が一貫した謎を提示しており、これがラストで登場人物間の意外な関係と共に明かされる……というのはまさにディケンズらしい推理小説。それ以外にも、いくらか死人が(事件性はないとは言え)出てきたり、色々壊れたりするので、この長さですがなかなか飽きさせません。

というか、マジで全4巻ずっと面白かったのです。キャラクター製造名人ディケンズによってえげつないほどクセのある個性を与えられた登場人物が、縦横無尽に物語の中で動き回るため、むしろこの分量でも足りないくらいです(読んでいてイライラするほど人間性に問題がある人がぞろぞろ出てくるのもいつものディケンズ)。最初は無関係だった50人くらいのキャラクターたちが、次第に様々なところで関係を持つことで、ちょっとしたサプライズのあるエンディングへと話が動いていきます。アーサー・クレナムとリトル・ドリットの関係が、ベタながらも1巻と4巻で見事に対比を見せており、このへん連載作家としてのディケンズの本領発揮と言えるのではないでしょうか。あとは訳者解説が懇切丁寧この上ないので、そちらもぜひご参照ください。

登場人物の関係が複雑に張り巡らされ、作者の掌の上で読者が楽しく踊らされるという点では、ガッツリ殺人という推理小説要素もある『荒涼館』の方が圧倒的に傑作だしオススメです。ですが、『リトル・ドリット』は分かりやすく面白いエンタメとして評価したいですね。『荒涼館』のように、登場人物大量のがっつり長編タイプのディケンズを読みたい方には大いにおすすめです。来年のディケンズも楽しみ。
今まで読んだもので順位をつけるなら……『荒涼館』>『大いなる遺産』>『リトル・ドリット』>『二都物語』>>『バーナビー・ラッジ』、でどうでしょう。


ところで、こちらのサイトで、ディケンズ長編の語句数がまとめられています。以下はそれをコピー&ペーストしたもの。

1. David Copperfield: 357,489
2. Dombey and Son: 357,484
3. Bleak House: 355,936
4. Little Dorrit: 339,870
5. Martin Chuzzlewit: 338,077
6. Our Mutual Friend: 327,727
7. Nicholas Nickleby: 323,722
8. The Pickwick Papers: 302,190
9. Barnaby Rudge: 255,229
10. The Old Curiosity Shop: 218,538
11. Great Expectations: 186,339
12. Oliver Twist: 158,631
13. A Tale of Two Cities: 137,000
14. Hard Times: 104,821
15. The Mystery of Edwin Drood: 96,178 (first 6 of 12 parts only)

このうち、3、4、9、11、13を倒したわけなので、もう怖いものはないぞ。『ドンビー父子』と『ニコラス・ニクルビー』を買える日は来るのかなぁ。

原 題:Little Dorrit(1855~1857)
書 名:リトル・ドリット
著 者:チャールズ・ディケンズ Charles Dickens
訳 者:小池滋
出版社:筑摩書房
     ちくま文庫 て-2-12,13,14,15
出版年:(1巻)1991.01.29 1刷
     (2巻)1991.02.26 1刷
     (3巻)1991.03.26 1刷, 2002.08.20 2刷
     (4巻)1991.04.25 1刷

評価★★★★☆

『ハニーと連続殺人』G・G・フィックリング - 2018.01.16 Tue

フィックリング,G・G
ハニーと連続殺人
『ハニーと連続殺人』G・G・フィックリング(ハヤカワ・ミステリ)

海から引き揚げられた全裸の女─見るかげもなく水ぶくれしたその女はミス二十世紀の最有力候補と目されていたグラマー美人だった! 世界の美女を一堂に会して美を競うミス二十世紀美人コンテストを舞台に進行する恐怖の殺人劇! 胸のすくような活躍と、並みいる美人を圧倒するお色気をみせるハニー・ウェストに喝采を!(本書あらすじより)

なんじゃこのあらすじは。
ル・カレが重すぎたので、次は軽いものを……と、フィックリング夫妻によるハニー・ウェストシリーズです。ほぼ1年前に読んだ『ハニー貸します』はめちゃ面白かったのですが、その前に読んだ『ハニー誘拐事件を追う』はダメだったという、なかなか信用できないシリーズ。今回は……おぉ、やったぞ、当たりだ。

ミス二十世紀の最有力候補と思われる水死体が発見された。ハニー・ウェストが捜査を開始したが、コンテスト主催者は事件を否定。犯人はコンテストの候補者の中にいるのか、はたまた別なのか? 真相を追い求めて、ハニーはメキシコに向かうが、そこで思わぬピンチに……。

いつもと比べると、サスペンス味が強めです。ハニー・ウェストのお色気もやや抑え目でしょうか。ミス二十世紀をめぐるゴタゴタを、とにかく手を変え品を変え国境すら越えて、死体を5つくらいゴロゴロ(時に無意味に)転がしつつ、200ページで読み物としてまとめあげるという、思ったよりこなれた書きっぷりが心地よいですね。
ハニー・ウェストシリーズって、基本的に本格ミステリ志向じゃないですか。今回も、まぁここまで来たら犯人誰でもいいんじゃねぇか、なタイプの作品ではありますが、最後の犯人を明かすやり方にはかなり驚かされました。こ、これが真の「ラスト一行の衝撃」ってヤツか……(違う)。冗談はさておき、このラストの処理の仕方には結構感心しました。サスペンス重視とはいえ、やることはやっているのです。
登場人物全員が何かしらの形で殺人に関わっていることもあり、話はややこしいことこの上ないのですが(とりあえず複雑に作っときゃいいや、という考えな気もする)、それなりに読み進めて行くだけでもしっかり説明されていくのですから、やはりこの手の軽ハードボイルドは侮れません。カーター・ブラウンしかり。ちなみに本作を「『ハニーと連続殺人』は俗っぽい『俳優パズル』」と評している方が Twitter におられましたが、まさに言い得て妙。

ところで、ミス二十世紀の候補者である、日本代表サムシ・ノトガ(どっちが名字で名前で漢字はどう書くんだ)なる女性が登場します。彼女が原爆について、「あの爆弾が落ちなかったら、もっと犠牲者がふえたかもしれないとでも思えば、まあ――」と言うシーンがあるのですが、このへん当時の(現在でも?)アメリカの限界を感じます。

結論:『貸します』>『連続殺人』>>『誘拐事件』。個人的には『ハニー貸します』のカオスっぷりと雑っぷりの方が好きですが、本作も十分楽しめました。カーター・ブラウンともども、疲れたら読みたいシリーズに入れましょう。いや、その前に作品を確保しなくてはだけど……。『Gストリングのハニー』『ハニーは闘牛がお好き』『血とハニー』『ハニー、ナチスに挑戦!』を依然として探索中です。誰か!

原 題:Honey in the Flesh(1959)
書 名:ハニーと連続殺人
著 者:G・G・フィックリング G.G. Fickling
訳 者:平井イサク
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 935
出版年:1966.05.15 1刷

評価★★★★☆

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕』ジョン・ル・カレ - 2018.01.12 Fri

キャリスン,ブライアン
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕』ジョン・ル・カレ(ハヤカワ文庫NV)

英国情報部“サーカス”の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーは、困難な任務を託された。二重スパイはかつての仇敵、ソ連情報部のカーラが操っているという。スマイリーは膨大な記録を調べ、関係者の証言を集めて核心に迫る。やがて明かされる裏切者の正体は? スマイリーとカーラの宿命の対決を描き、スパイ小説の頂点を極めた三部作の第一弾。著者の序文を付した新訳版。(本書あらすじより)

12月にジョン・ル・カレ御大の最新作『スパイたちの遺産』が発売されましたが、なんとこれが『寒い国から帰ってきたスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の続編だと言うじゃないですか。『寒い国』は読んでいたので、いざ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』に挑戦する日が来たわけなのです。
『ティンカー、~』と言えば、とにかく分かりにくい読みにくい本で有名です(映画版『裏切りのサーカス』を先に観ろ、という意見もよく聞くし)。新訳版の方が圧倒的に分かりやすいということなので、当然新訳版を手に取ったわけなのですが……いくら忘年会などで忙しい時期とは言え、なんと、読み終わるのに11日もかかってしまいました。つ、疲れた。
で、まぁ、『寒い国』の方が、圧倒的に読みやすいし分かりやすいんですよね……。英国読了後モヤモヤ小説が苦手な自分としては、例えばレジナルド・ヒル『骨と沈黙』なんかと同じく、すごいけど全然ハマれない……というタイプの作品になりました。

英国情報部内の裏切り者を見つけ出すべく、既に引退している元スパイ、ジョージ・スマイリーが密かに上層部を調べる、というのが大まかなあらすじです。おぉ、冷戦時代のスパイ小説の王道っぽい。そしてそこに、ル・カレらしい、スパイの悲哀、正義とは、主義とは、みたいなテーマなどが絡むわけです。というわけで、一見非常に単純な話のように見えるのですが。

話の筋は理解できるのですが、どうしても描写が頭に入って来にくいのです。だから、なかなか進まないし、基本的にはじっくり型の地味地味捜査小説なので、最後以外盛り上がりもないし、いったいこの取っ掛かりのない山にどう取り組めばよいのかが難しいんですよ。自分は地味な捜査小説が好きなんだとこれまで思っていたのですが……ち、違ったのかな……。
また、作者も当然のように不親切。何しろ、容疑者4人(本当は5人)にそれぞれ「ティンカー」「テイラー」「ソルジャー」「プアマン」というあだ名が付けられる、というのは知っていたのですが、そのコードネームが出てくるのが400ページくらいのところですからね。入り組んだ陰謀がすこーしずつ語られていきますが、誰も整理してくれないので、やっぱり読者が頑張るしかない、という。
ちなみに、「このタイトルじゃ4人目がスパイって分かるじゃないかバカなの」と今までは思っていましたが、要するに童謡で sailor のところに spy を入れただけだ(つまりレン・デイトンの『トゥインクル・トゥインクル・リトル・スパイ』と同じ)ということが分かりました。そりゃそうか。

もちろん、ストーリーは見事に仕上がっていますし、かなりの長さの割には全く退屈しませんでしたから、読ませる力は相当なものです。ただ、個人的な感想としては「のれなかった」につきます。メンデル元警部がめっちゃ好きなので、その他のキャラクターを見るためにも、スマイリー三部作とか『スパイたちの遺産』にも取り組んでみたいとは思いますが……とりあえず、連続でジョン・ル・カレはしんどい……。キャッチーさ、分かりやすさ、単純な面白さから見れば、『寒い国から帰ってきたスパイ』がまず代表作としてあげられるのも当然かな、と思います。

原 題:Tinker, Tailor, Soldier, Spy(1974)
書 名:ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕
著 者:ジョン・ル・カレ John le Carré
訳 者:村上博基
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 1253
訳 者:2012.03.25 1刷

評価★★★☆☆

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ヨッシー

Author:ヨッシー
クリスティ、デクスター、グライムズ、ディヴァインが好きな、ヨッシーことTYこと吉井富房を名乗る遅読の新社会人が、日々読み散らかした海外ミステリ(古典と現代が半々くらい)を紹介する趣味のブログです。ブログ開始から7年になりました。ちなみにブログ名は、某テンドーのカラフル怪獣とは全く関係ありません。
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