お嬢さま学校にはふさわしくない死体
『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』ロビン・スティーヴンス(コージーブックス)

一九三〇年代英国、お嬢さまたちが通う厳格なディープディーン女子寄宿学校。転校生ヘイゼルと、学校一の人気者で頭脳明晰の美少女デイジーは、二人でひそかに探偵倶楽部を結成した。でも起きる事件といえば、他愛もない校内の盗難事件ばかり。そんなとき、ヘイゼルは誰もいない夕方の室内運動場で女性教諭の死体を発見! ところが人を連れて戻ってみると、どういうわけか死体は消えていた。探偵倶楽部はまたとない大事件に色めきたつ。ときに校則を破り、ときに寮母の目を盗んで、勝手知ったる校内を大捜査。嘘つきな教師たち、割られた窓ガラス、幽霊の噂―あまりにもこの学校には秘密が多すぎて!? 賢く可憐な少女探偵たちが繰り広げる、英国で人気白熱中のシリーズ第一弾!(本書あらすじより)

お嬢さま学校にはふさわしくない死体2
見てください、この訳者あとがきを。本書の作者とコリン・デクスターとのあれこれが書いてあります。これだけでもう読む価値があるってなもんじゃないですか。
というアバウトな理由で読み始めたのですが、これが案外掘り出し物の良コージー本格ミステリでした。思ったよりちゃんと本格ミステリしていて、何だこのやろう面白ぇじゃねぇか、という完敗の気分。

女子寄宿学校を舞台に、ホームズ役の美少女デイジーとワトスン役の香港からの転校生ヘイゼルが、死体なき教師殺人事件に挑みます。1934年当時のアジア系の扱いとかも、ちらっとだけどちゃんと描いているあたり、海外のYAはさすがです。

さて、主役のホームズ役デイジーなのですが、この子がまぁすごいのです。めちゃくちゃ頭良いのに女子学校で上手くやっていくために頭の良さを隠しお調子者を装い……くらいは普通にありそうな設定です。ところがデイジーちゃん、基本的に人の死を悼むとか感情を慮るみたいな能力がゼロなのです。マジでシャーロックかよ、みたいなサイコパス味があります。おまけに、「見て! これは地衣類よ。どこに生えているか、わたしはちゃんと知ってるわ。へんてこなオレンジ色をした菌類の一種なんだけど、オークショットの森のはずれでしか成長しないの。ここから、すくなくとも八十キロは離れてるところでしか、ね」って、お前はどこのホームズなんだいい加減にしろ。
ちなみにデイジーはミステリオタクでもあるのですが、舞台となる1934年当時の黄金時代のミステリを読む描写が多数登場します。本書ではクリスティ『邪悪の家』、アリンガム『ミステリー・マイル』、セイヤーズ『誰の死体?』、テイ『列のなかの男』を読んでいました。女性作家ばっかりだ。

海外のコージーらしく、ゆるふわ女学校だけで話は終わりません。先生たちの関係が出世や恋愛を巡って実はドロドロ……ぐらいは当たり前。まずデイジーとヘイゼルの関係がもうどう考えてもうまくいっていないのです(100%デイジーのせい)。このへんが、並のバディ物ではないというか、手抜きなく少女探偵を書いているなぁという感じで好印象(読んでいる分には不快だけど)。
どんでん返しぃ!みたいのはなくても、推理を試行錯誤しつつ、ダミー犯人を間違えて追い、ちゃんとそれなりの伏線を回収(現代海外ミステリ本格好きは、ちょっと伏線があるだけですぐに感心する)し、きちんと動機を提示する、そんな全然堅牢ではない本格ミステリ風な海外ミステリが私は好きなのです(伝われ)。意外な犯人を演出するためのミスディレクションもちゃんとやってるし。

というわけで、いやー良いじゃないですか。今年のダークホースとなりうるか。シリーズ2作目の翻訳も期待しています。
ところで人生初コージーブックスだったんですが、字の大きさとページのすっかすかっぷりに動揺しました。良いとか悪いとかではなく、何はともあれ動揺しました。こちらからは以上です。

原 題:Murder Most Unladylike(2014)
書 名:お嬢さま学校にはふさわしくない死体
著 者:ロビン・スティーヴンス Robin Stevens
訳 者:吉野山早苗
出版社:原書房
     コージーブックス ス2-1
出版年:2017.04.20 初版

評価★★★★☆
名探偵は嘘をつかない
『名探偵は嘘をつかない』阿津川辰海(光文社)

「ただいまより、本邦初の探偵弾劾裁判を開廷する!」彼が本当に嘘をついていないのか、それは死者を含めた関係者の証言によって、あきらかにされる!
名探偵・阿久津透。その性格、傲岸不遜にして冷酷非情。妥協を許さず、徹底的に犯人を追い詰める。しかし、重大な疑惑が持ちあがった。それは、彼が証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したというものだった──。(本書あらすじより)

大学で所属していた文芸サークル・新月お茶の会の後輩が、光文社の新人発掘プロジェクト、カッパ・ツー(ノベルスで行われていたカッパ・ワンを継ぐものです)でデビューしました。で、生まれたのがこちら『名探偵は嘘をつかない』。生まれて初めて新刊国内ミステリを買いましたよ、わたし。というわけでマジメに感想書きます。

舞台は近未来?の、「名探偵」が制度化された日本。名探偵・阿久津透の不正を暴くべく、現在の、そして過去の事件に遡り、史上初の探偵弾劾裁判が開廷します。

本格ミステリに求める「読書」としての楽しさって、「謎や手がかりが魅力的であること」と「ストーリーが魅力的であること」の2点があると個人的には考えているのですが、その両方を十分に満たしてくれる作品でした。個人的には満足です。ただし、良い意味でも悪い意味でも、逆転裁判リスペクトが強い作品ではあります。

前者については、過去の事件(複数)、現在の事件それぞれで工夫が凝らされていて非常に楽しいです。ゲームで証拠品を集めるかのごとく、とりあえず後で使えそうな手がかりを片っ端から読者に見せとくぜ!骨付きステーキとか!みたいなノリでざくざく伏線が張られていくので、本格ミステリを読むとき特有のモヤモヤがすごいわけですよ。謎解きのカタルシスを最後だけに持っていくのではなく、何度も推理が行われるので気持ちよく本格ミステリを楽しめます(この点、法廷ものって便利だ)。これだけのロジックをそろえるのはさぞかし大変だったろうなぁ。
それから後者については、名探偵という職業が確立し「探偵の弾劾裁判」が行われるという世界観、さらに死者の世界を巻き込んだ特殊設定ミステリとしての舞台設定によって楽しさが保証されています。というかこのへんに逆転裁判味が一番強いですね。序審法廷制度と霊媒的な。

本格ミステリとしての意外性、どんでん返しという点ではやや残念。特に2日目夜の事件の真相や、阿津川が隠そうとしていた真相については、100パーセントは無理にしても大筋が読みやすいかなと思います(後者については『逆転裁判』ですげぇ見たことあるだけになおさら)。また6つの訴訟理由、ということで使われたメインとならない2つの事件については、結局あの2人を出すためという理由くらいしかないのももったいないですね。やりたいことをやるための設定づくりが少々強引かなと。

とはいえ、ある人物との再会、フレイの再登場のところでは普通にビックリしたので、やっぱり組み立ての上手さというか、これだけの量の作者がやりたいネタを注ぎ込みながらもきちんと長編としてまとめあげたというところに一番感心します。次作も期待しています。買います。あとどこか短編で榊裁判官を主人公にしたスピンオフとか書いたりしませんかね……しないだろうな……。

書 名:名探偵は嘘をつかない(2017)
著 者:阿津川辰海
出版社:光文社
出版年:2017.06.20 初版

評価★★★★☆
コードネーム・ヴェリティ
『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン(創元推理文庫)

第二次世界大戦中、イギリス特殊作戦執行部員の女性がスパイとしてナチスの捕虜になった。彼女は親衛隊大尉に、尋問をやめる代わりに、イギリスに関する情報を手記にするよう強制される。その手記には、親友である女性飛行士マディの戦場での日々が、まるで小説のように綴られていた。彼女はなぜ手記を物語風に書いたのか? さまざまな謎が最後まで読者を翻弄する傑作ミステリ。(本書あらすじより)

今年の作品の中ではかなりの話題作となっている『コードネーム・ヴェリティ』を読んでみました。なるほど、これは実に良い「ありうる話」です。

第1部は第二次世界大戦中にドイツ軍に囚われたある女性スパイが書いた手記、第2部は女性飛行士として活躍するマディがその女性を救うべく奮闘する手記、という構成になっています。
第二次世界大戦を描いた戦争小説としてじっくり読ませはするのですが、とはいえ第1部は非常に地味。地味なんだけど、読んでいてところどころのよくわからなさにモヤモヤするのです。自分のことはあまり語らず、ひたすら親友マディについた手記で語り、イギリスの情報をドイツに密告し続ける彼女は、いったいぜんたい何が目的なのか?……と思っていたら第2部になってしまい、どういう話なのかが依然としてさっぱり見えません。

小説としての魅力は、女性2人が軍の中で次々と活躍していく様を描いた第1部の方が上かなと思います。しかしながら第2部では、終盤の第1部の見事な謎解き、そして何より主人公2人の友情の物語が素晴らしいのです。なんとなく、第1部の書かれた目的みたいなものは、伏線の張り方からして予想できなくもないのです。ただそれをどう使うんだろうと思っていたら、予想以上に自分が第1部に騙されていたことが分かってほぇぇぇぇぇとなりました。

というわけで、かなり地味ではありますが、巧みな構造に、戦争小説としての魅力と冒険小説としての面白さと友情物語としての感動を入れ込んだ、実に良い作品です。これがYA小説として売られている海外の状況がうらやましい……。翻訳ミステリー大賞にノミネートされる予感。

原 題:Code Name Verity(2012)
書 名:コードネーム・ヴェリティ
著 者:エリザベス・ウェイン Elizabeth Wein
訳 者:吉澤康子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mウ-24-1
出版年:2017.03.24 初版

評価★★★★☆
アイアマンガー三部作2 穢れの町
『アイアマンガー三部作2 穢れの町』エドワード・ケアリー(東京創元社)

月桂樹の館で暮らす男の子ジェームズ。ある日館を逃げ出したジェームズは、フィルチングの町で、決して使うなと言われていた金貨でパンを買ってしまう。それがとんでもない事態を招くとも知らず……。物の声を聞く能力をもつクロッド・アイアマンガーと、勇敢な召使いのルーシー。世にも奇妙で怖ろしい運命に見舞われた二人の未来に待つのは? 堆塵館に何が起きているのか。著者本人によるイラスト満載。『堆塵館』で読書界に衝撃を与えた三部作第二部。(本書あらすじより)

前作同様面白いです。面白いっていうか、わくわくしてしまうのが、このシリーズの最大の魅力かなと思います。
とりえあえず第1作『堆塵館』の完全な続編であり、そちらを先に読まないと何も意味がありません。未読の方はとりあえず読むのです(超おすすめですし、言いたいことはそっちの感想記事で全部書いたし)。一応ネタバレには配慮しますが、結構ぎりぎりです。

さて、1作目『堆塵館』が嵐の前の静けさである「静」だったとすれば、今回はひたすら登場人物も物もゴミも動き続ける「動」の巻。1巻のような「どどどどういうこと?!」みたいな謎はありませんが、そのかわり「ななななんてことだ!」みたいな展開が続くのでやっぱりべらぼうに楽しいのです。

前作のラストで示されたルール、というかこの世界の仕組みが、今作では前面に出てくることになります。すなわり、人と物の関係を皆が知っている下層民の町、「穢れの町」ことフィルチングで、前作の主人公クロッドとルーシーが別個に行動し、それぞれの戦いを開始します。一族の運命に抗おうとするクロッドと、そのクロッドに寄り添いつつ自分の生まれ育った町フィルチングを守ろうとするルーシー。ついにクロッドとアイアマンガー一族との全面対決が始まるのです。うひゃあ激アツ。
2巻のラストは衝撃の、というより、ここで終わるなんて!そんなケアリーさん殺生な!!みたいな感じ。このあと3巻でどういう混乱が起きるのか、そしてどう収拾をつけるつもりなのか、全く予想できません。

要するに『堆塵館』が『パインズ』だとしたら、『穢れの町』は『ウェイワード』なわけですよ。ということは12月邦訳発売予定だという待望の3作目は『ラスト・タウン』なわけですね!(適当だけどあながち間違ってもいない気がしてきた)
前にも言いましたがアイアマンガー三部作を読んでいる時や次作を待っている時ののわくわく感って、自分にとってはバーティミアスとかダレン・シャンとかサークル・オブ・マジックとかネシャン・サーガを待っている時のそれに近いんです。小中学生の頃を思い出すわけです。というわけで皆さん、12月を楽しみに待ちましょう。

ちなみに、ジャンルの壁を途中から越えてくるタイプのミステリはちょっと苦手なのですが、最初からかっ飛ばしているタイプの作品なら思いっきり楽しめるので好き、というワガママ。だから最初からファンタジーだとはっきり分かるのであればちゃんと楽しめるのかなと。逆にクーンツとかキングとかは終盤とかにさ……ねぇ?

原 題:The Iremonger Trilogy Book 2 : Foulsham(2014)
書 名:アイアマンガー三部作2 穢れの町
著 者:エドワード・ケアリー Edward Carey
訳 者:古屋美登里
出版社:東京創元社
出版年:2017.05.31 初版

評価★★★★☆
屠所の羊
『屠所の羊』A・A・フェア(ハヤカワ・ミステリ文庫)

失業中のドナルド・ラムは、求人広告をたよりにバーサ・クール探偵事務所に飛び込んだ。大女バーサの毒舌をかわすうち、見事採用が決定したが、本人にとって、果たして幸せだったのか不幸せだったのか? かくして彼はアメリカのミステリ史に初登場することになった。が、この新米私立探偵、ありようはまさに屠所にひかれていく羊にほかならなかった。吝嗇な大女バーサと、小柄だが頭脳明晰なドナルドの〈なれそめの記〉。(本書あらすじより)

数年前の千葉読書会の二次会にて、猟奇の鉄人様がこうおっしゃるのです。「ガードナーはすごい。そしてA・A・フェア名義もすごい。特に『屠所の羊』はあの手のトリックの最初ではないかと思う」
で、読んでみたら、ペリイ・メイスンと似ているのかと思いきや全然違くてびっくりしました。話のタイプが違うのではなくて、語り口、読み口が全然違うのです(もちろん翻訳も)。かなり正統派ハードボイルドっぽさがあるのですが、でも正統派ハードボイルドではない、ってのがまたいいのです。

なんやかんやでバーサ・クール探偵事務所の所員となったドナルド・ラム。ラムが最初に扱うことになったのは、離婚訴訟の召喚状を離婚するまいと逃走中の夫に届ける、というものだった。しかしながら別の組織の介入や夫の謎の企みにより、バーサ・クール探偵事務所はもめ事に巻き込まれてしまう。

ラム君の一人称による行動派駆け引き私立探偵小説で、ラム君の心情についてはあまりくどくどと描かれず、ひたすら会話と行動で話が進行していきます。ラムのキャラクターが絶妙で、地味なタフさと(ずるがつきそうな)賢さが両立しているのが特徴です。落ちぶれた元弁護士、ってあたりからして、ダークサイドに落ちたペリイ・メイスンみたいな雰囲気とでもいいましょうか。
ドナルド・ラムとバーサ・クールの関係もまた絶妙。要するにぱっと見バーサの方が上の立場っぽいのですが、ラム君が一切引かないしバーサとも積極的に交渉するし、事件においてもラム君はバーサに何も言わず勝手に行動して勝手に解決しています。面白いなぁ。

ところでこのコンビを見ると、必然的に思い出してしまうのがこれより発表年が前のネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィン。例えばバーサ・クールとネロ・ウルフの共通点を考えてみても、
・太っている
・金にうるさい
・部下使いが荒い
・食事を愛する
・食事の時間に厳しい
・駆け引きがうまい
・取り引きをさせたら無敵
などなど。
ところが、ラムとアーチーは似ているようで完全に別物。ラム自身が主人公並に動くし騙しますからね。ここらへん、通り一遍のバディ物の私立探偵小説を書くまいとするガードナーの意地が感じられて面白いです。

終盤の法律の抜け道云々はペリイ・メイスン的ですが、さすがに抜け道すぎて読者にピンと来るはずもないものなので、実を言うと特に何も思いませんでした。むしろ中盤で使われたトリックのさりげない上手さ(伏線多し)とか、殺人の真相(犯人はどうでもいいんだけどそれを導くロジックが良い。伏線多し)なんかにガードナー/フェアのプロっぷりを感じます。鉄人様の言っていたトリックというのも、おそらくこの中盤のやつですね。

こうした事件の真相を明かす過程を、法律の抜け道云々を利用したラム君の奮闘劇に落とし込んでスマートに小説としてさらっと仕上げているのが、本当に上手いなぁと。2作目以降またどのような事件を取り扱うのか興味もありますし、職人作家であるガードナーの技を楽しめる第2のシリーズとして、今後も読んでみたいなと思います。

原 題:The Bigger They Come(1939)
書 名:屠所の羊
著 者:A・A・フェア A.A. Fair
訳 者:田村隆一
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 4-1
出版年:1976.07.31 1刷
     1987.06.30 2刷

評価★★★★☆