夢果つる街
『夢果つる街』トレヴェニアン(角川文庫)

吹き溜まりの街、ザ・メイン。いろんな人間たちが破れた夢を抱えて生きている。ラポワント警部補は毎日パトロールを欠かさない。ここは彼の街であり、彼が街の“法律”なのだ。そしてラポワントにも潰えた夢があった……。それは奇妙な死体だった。胸を一突きされて、祈るような格好で路地にうずくまっていた。イタリア系らしい若い男だった。街を知りつくしたラポワントは、難なく最初の手がかりをつかんだ。だがやがて浮かびあがるのはまったく意外な犯人、そしてそこにも街の悲しい過去があるのだった――。(本書あらすじより)

角川文庫ミステリチャレンジ第五弾です。吹き溜まりの街、ザ・メインで起こった殺人事件を、街の警察官ラポワントが淡々と捜査する物語。ひたすら街と人々が描かれるだけなのに、この切ない、胸を打つ感動は何なんでしょう……つまり、あれです、これは傑作です。素晴らしい。

ラポワントは街を知り尽くしていて、捜査の途中会う人会う人に声をかけていきます。そのたびに、彼ら彼女らの過去のエピソードがぽつりぽつりと語られていくのです。これがいちいち切ないんですよね。どん底の人たちが暮らすザ・メインという街がこうしてじっくりと描き出されていくのです。

そしてその街を知り尽くしたラポワントに、殺人事件捜査のため、勉強を兼ねて新米の刑事ガットマンがつくことになります。最初は、古臭い考えで捜査をする刑事と若くて大学出の刑事がコンビを組んで対立するパターンねはいはいよくあるよくあると思っていたんですが、この組み合わせが本当に良いんですよ。どちらも自分の信念というものがあり、かつ少しだけ影響されあっていきます。そのつかず離れずの関係が微妙に揺れ動いていく様の描写がもう抜群に上手いというか。若い刑事に説明していく形で街と人を示していくというやり方もベタながらスムーズ。最後の方の二人の関係とかね、なんかもう泣けちゃいます。

真相は私立探偵物のように手がかりを順繰りにたどっていくと出て来るもので、この真相がちょっと浮いている気がしなくもないんですが、それでもこの寂しさを募らせる叙情性がたまりません。特に真相発覚後の孤独感の強烈さ。くぅぅぅこれはキます。この雰囲気を出すための500ページなんです。
あと1000ページでも読んでいられると思わせる独特な空気感に見事にやられてしまいました。これは傑作でしょう。やっぱり、ラポワントだけではなく、街が主人公の小説だったんだなと。

ところで、東西ミステリーベスト100にランクインしているトレヴェニアンの作品は、これではなく『シブミ』なんですよね。一冊ごとに作風が大きく異なる作家さんのようなので、こちらも楽しみです。

書 名:夢果つる街(1976)
著 者:トレヴェニアン
出版社:角川書店
    角川文庫 ト-5-2
出版年:1988.04.25 初版
    1998.09.05 9版

評価★★★★★
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