ジャック・リッチーのあの手この手
『ジャック・リッチーのあの手この手』ジャック・リッチー(ハヤカワ・ミステリ)

撲殺体の額には、口紅でAの文字が書かれていた。さらに額にBの文字のある死体が…(「ABCの連続殺人事件」)。大学で二人の天才学生が同部屋になる。一方は13歳、一方は57歳。少年は最近、年長者を殺害したがり始めた(「学問の道」)。いま飛び降り自殺をしようとする男が自分の駄目さを嘆く、が、説得する刑事自身が自分の駄目ぶりを話し出す(「下ですか?」)。巧みな展開と伏線、おとぼけなユーモアセンス、してやられたと感嘆する結末が待ち受ける!――あらゆる手段を用いた絶品23篇収録のオリジナル短篇集。(本書あらすじより)

目次は以下の通り。

第一部 謀之巻
「儲けは山分け」(1981)
「寝た子を起こすな」(1971)
「ABC連続殺人事件」(1980)
「もう一つのメッセージ」(1981)
「学問の道」(1971)
「マッコイ一等兵の南北戦争」(1967)
「リヒテンシュタインの盗塁王」(1983)
第二部 迷之巻
「下ですか?」(1965)
「隠しカメラは知っていた」(1961)
「味を隠せ」(1964)
「ジェミニ74号でのチェス・ゲーム」(1966)
第三部 戯之巻
「金の卵」(1982)
「子供のお手柄」(1967)
「ビッグ・トニーの三人娘」(1966)
「ポンコツからアイをこめて」(1965)
第四部 驚之巻
「殺人境界線」(1966)
「最初の客」(1965)
「仇討ち」(1954)
「保安官が歩いた日」(1974)
第五部 怪之巻
「猿男」(1955)
「三つ目の願いごと」(1981)
「フレディー」(1974)
「ダヴェンボート」(1979)

いやもうジャック・リッチーは大好きで、高校の頃にどはまりして『クライム・マシン』『10ドルだって大金だ』『ダイアルAを回せ』と立て続けに読みまくったものです。『カーデュラ探偵社』は読んでいないんですけどね、カーデュラあんまり好きじゃないので。そんなジャック・リッチーの短編を、小鷹信光さんの編集のもと、全編初邦訳作品で固めたのがこちら。
最初は、なんだこのタイトルながいわヘンリイ・セシルかよ、おまけに帯の文句のセンスもないな、とか思いましたが、一読してなるほど納得、これはリッチーの短編の多種多様さを示す短編集なのでした。既存の短編集とは方向性が異なるため、やや期待とずれる面もあったのですが、しかしやっぱり楽しめました。いやぁいいねぇリッチー。

ジャック・リッチーの短編は、肩肘張らずに、すっと始まり気持ちよく終わり、読了後何にも残らないところが長所かなと。頭空っぽにしても読める単純さ。この特徴はリッチーのあらゆる短編に共通していて、本短編集でもその気軽に楽しめる感じを存分に味わえます。
今までの短編集はクライムノベルというか、まぁミステリで固められていたのに対し、今回はミステリ、普通小説、恋愛小説、ファンタジーだかSFだか、と実に幅広くまとめられているのが特徴でしょう。ミステリ系の品揃えに関してはさすがに既短編集には負けるんですが、それ以外の系統の作品が優れているので問題ありません。ハートウォーミングな作品に優れたものが多かったかなと思います。良かったもののタイトルをあげると、「学問の道」「リヒテンシュタインの盗塁王」「下ですか?」「ビッグ・トニーの三人娘」「猿男」「三つ目の願いごと」あたり。”いい話”を書くのが上手いんですよね。そう言う意味ではあんまりミステリを求めて読まない方がいいかもしれません(ターンバックル部長刑事ものの出来がいまいちだったこともあるので。リッチーのミステリを読みたいなら普通に『クライム・マシン』から入るのが一番いいんじゃないかな)。

全部で5部に分けられていて、編集の小鷹さんがいろいろやっているのですが、まぁ正直この区分はあんまり意味はないです。小鷹さんの編集で一番意味があるのが、「ダヴェンボート」を最後に持ってきたことでしょう。ある人の受け売りですが、まさに人を食った話、で締めたところがユーモアなんじゃないかと。なるほどねぇ。

というわけで、リッチーの底力を感じられる一冊。しかしもう訳す作品は残っていないんじゃないかな……。

書 名:ジャック・リッチーのあの手この手(1954~1983)
著 者:ジャック・リッチー
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ 1877
出版年:2013.11.15 1刷

評価★★★★☆
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