第八の日
『第八の日』エラリイ・クイーン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハリウッドからの帰途一軒の店に立ち寄ったエラリイは、奇妙な風体の老人と若者を見かけるが、その老人の高貴な風貌にはなぜか人の心を惹くものがあった。再び車を駆る彼はネバダ砂漠のとある村落に迷い込んでしまった。そこは、先刻出逢った老人を教師とし、聖書さながらの生活を営む一団の人々の共同体であった。あらゆる文明社会から隔絶し、犯罪という概念すら持ち合わせないこの社会でエラリイは奇妙な殺人に出くわした。自分の生活圏とはまったく異なる世界で起きた数奇な犯罪に、エラリイは単身挑んで行く。中期の異色力作!(本書あらすじより)

解説には書いていませんが、これはアヴラム・デイヴィッドスン代作と言われているものです。とはいえ、フレデリック・ダネイがプロットを考えて、デイヴィッドスンがマンフレッド・リーの代わりに執筆した、ということなので、あまり大きな意味は無いのかもしれませんが……でもまぁ、ちょっとSFっぽい舞台設定だよなぁと思ってしまうんですけどね(笑)

それにしても……いやはや、こりゃあすごい作品ですよ。読み終わってモーレツに感動してしまいました、わたし。クイーンやばい。後期クイーンを読めば読むほど面白さにのめり込んでいくんですけど。もう国名シリーズとか悲劇シリーズとかどうでもいいね(ちゃんと読んでいない人)。

さて、ストーリーは大まかにあらすじの通りです。戦争中、ハリウッドで仕事をさせられていたエラリイは、酷使されまくったあげく倒れてしまい、朦朧とした頭で帰途につきます(この部分がさっそく幻想的というか妄想的な記述でいきなりいつもと違うなという感じ)。途中、なんやかんやあって外界には全く知られていない閉鎖的な村にエラリイはたどり着きます。原始的な共同生活を送る彼らのほとんどは外界に一度も出たことが無く、奇妙に発達した言語を用いて実に古代的で旧約聖書的な生活を送っているのです(ほらさっそくおかしいでしょ)。
なぜか「我々が長い間待ち望んでいた方が来た!」という扱いを受けたエラリイは、この村への興味から滞在を続けることになります。「犯罪」という概念すらない平和的な村ですが、しかしある日殺人事件が発生してしまいます。せっかくの共同生活を壊したくない彼は、外部の者を呼ばず、内密で事件を解決しようとしますが……。

そしてまぁ、神のごとき名探偵ぶりを発揮するエラリイは、犯人に気付き、犯罪捜査というものを知らない村人に対して(やや上から目線で)悩みながらも犯人を指摘するのです……が、あまりに楽勝な推理なので、こりゃあエラリイ間違ってるっしょ、後期クイーンだし、と読者の大半は分かるでしょうね。でまぁ言っちゃうと、実際間違っている訳です(こいつ本当に進歩ないな)。そのことからとんでもない悲劇が生まれ、エラリイは村を後にすることになります。

本格ミステリとしては、はっきり言って全然大したことはありません。展開も、ここで遠慮なくあらすじを長めに書いてしまうくらいには予想の範囲内。しかしこの閉ざされた、奇妙で、キリスト教の教えに満ちた集落の雰囲気がまずたまらなく良く、全編謎の幻想感にあふれた様は何とも言えません。『第八の日』というタイトルは、神が七日で世界を創造したことにちなんでおり、八日間、エラリイは村に滞在するのですが、この設定がまた強烈な感動を読者に与えます。第八の日に描かれる実に皮肉な真相と描かれない作品のその後の強烈な印象ったらないですね……。そもそもエラリイはシリーズ探偵で、当然またこの村を出なきゃ行けませんし、さらにこれは第二次世界大戦中なので言わば過去譚であることを考えると、作者はずいぶん思い切ったことをしたなぁと思ってしまいます。

キリスト教徒とか興味ないしよく知らない、探偵とは何かみたいな後期クイーン問題も興味ない、という自分ですが、それでもこれだけ楽しめたので、とにかく妙に惹き付ける何かを持つ作品だとは言えるでしょうね(そもそも自分は『まるで天使のような』みたいな閉ざされた非現実的な集落物が好きということもありますが)。決して万人にオススメ出来るほどクオリティの高い作品ではありませんが、この独特の雰囲気をぜひ味わってもらいたいところ。薄いのですぐ読めますしぜひぜひ。

書 名:第八の日(1964)
著 者:エラリイ・クイーン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 2-6
出版年:1976.6.30 初版
    1989.11.30 10刷

評価★★★★★
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