HHhH
『HHhH―プラハ、1942年』ローラン・ビネ(東京創元社)

ナチにおけるユダヤ人大量虐殺の首謀者ハイドリヒ。〈金髪の野獣〉と怖れられた彼を暗殺すべくプラハに送り込まれた二人の青年とハイドリヒの運命。ハイドリヒとはいかなる怪物だったのか?ナチとはいったい何だったのか?登場人物すべてが実在の人物である本書を書きながらビネは、小説を書くということの本質を自らに、そして読者に問いかける。「この緊迫感溢れる小説を私は生涯忘れないだろう」──マリオ・バルガス・リョサ(本書あらすじより)

お久しぶりです。おとといようやく帰国しました。ハンガリー、オーストリア、ドイツ、という小旅行だったのですが、まーやっぱ海外は楽しいです。なぜ俺は日本に戻らなきゃならないんだという気になってきますからね(授業が始まるので現実逃避的な意味合いが強いにせよ)。ついでに各地でちょこちょことクリスティなんかを買ってきたので、いつかこのブログでも簡単に紹介したいです……と言って紹介したことがないような。

さて、今年東京創元社から出た小説の中で、おそらくもっとも話題になっているであろう『HHhH』です(これは小文字と大文字どっちが正しいんだ?)。ミステリではなく、強いて言えば、ナチス・ドイツにおいてチェコ統治にあたり、ユダヤ人大量虐殺を行ったハイドリヒの暗殺事件を描いた、ノンフィクション……ということになるのでしょうか。歴史学科に持って行って無理やりこれを読ませて感想を聞いてみたいところ。
しかしこれは、ノンフィクションなんですよ、ノンフィクションなんですけど、やはりフィクションなのです。訳者も書いていましたが、こういう小説の書き方があったんだなあというところに感動すら覚えました。個人的には大傑作です、素晴らしいじゃありませんか。

ナチスに全く興味のない自分がハイドリヒとかいう聞いたこともない人物の物語になぜこんなにも惹かれたかって、そりゃあ話の内容もあるんですけど、やっぱり「語り」なんですよね。作者「僕」が遠慮なく前面に出た歴史叙述。自分ごときでは上手く説明できないので、とりあえず読んでみてとしか言えないところが悲しいのですが、とにかくこの「語り」が読んでいてとーっても面白いんです。どんなに緊迫した場面でもちょっとしたユーモアを忘れず、物語はどんなに盛り上がっていても勝手に中断され、時間軸は平気で前後し、作者の回想が唐突に挿入される……というこのむちゃくちゃ感がめちゃくちゃ心地良いというか。こういうクスッと笑える文章が書ける人って羨ましいですよ、いやほんと。悪く言えばダラダラしているんですけど、その流れに身を任せるのが楽しくて楽しくて。っていうかあれはどの程度ダラダラしているんでしょうかねぇ。結構計算が入っているんじゃないかって気もしますが(まあそんなことはどうでもいい)。

話の内容は過去に様々な作家や監督が取り上げてきた題材なだけあって言わずもがな面白いんですけど、やーっぱりあれですね、事実ってのは下手な創作よかよっぽど読ませるもんなんですね(もちろんその読ませ方・見せ方にビネさんがむちゃくちゃ長けているということなんですが)。あくまで内容はノンフィクションですが、作者による事実の取捨選択、その描き方により、フィクションとして仕上がっている……っていえばいいのかなこれは。ハイドリヒの生涯、その台頭、非情なナチスの政策、ハイドリヒ暗殺のために差し向けられた二人の暗殺者の孤独な戦い、チェコのレジスタンスの命がけの活動、これらすべての背景となる1942年という舞台――こうしたものすべてが怒涛の勢いで読者に襲いかかってくるのです。それも重苦しくなく。稀有な作品ですよねぇ、ほんと。

というわけで、大いに褒めちぎってしまいました。いやほとんどビネさんの語りかっけえしか言っていない気もしますけど、まぁあちこちでいろいろ書評があるから良いよね!(良くない) 好き嫌いが分かれるようですが、個人的にはお薦めしたい作品です。

書 名:HHhH―プラハ、1942年(2009)
著 者:ローラン・ビネ
出版社:東京創元社
出版年:2013.6.28 初版

評価★★★★★
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