青雷の光る秋
『青雷の光る秋』アン・クリーヴス(創元推理文庫)

ペレス警部は婚約者のフランを両親に紹介するべく、ふたりで故郷のフェア島を訪れていた。だが、島のフィールドセンターでひらかれた婚約祝いパーティの直後、センターの職員アンジェラが殺される。折からの嵐でシェトランド本島との交通が途絶したため、単身捜査を開始した警部だが、奮闘むなしくついには第二の殺人が──現代英国ミステリの至宝〈シェトランド四重奏〉最終章。(本書あらすじより)

さて、ついに出てしまいました最終章。うううう2年に1冊ペースでだらだら刊行しているだけなのにもうかよ……いや実は四重奏の最終章なんだ、ってことは知っていたんですけど(意味深)。
自己紹介に「クリーヴス」って書くくらいこのシリーズが大好きなのであえて厳しい意見を言いますが、いつものクリーヴスらしさに大きく欠けており、これまでの作品と比べて大きく劣るように思います。シリーズとしては成功していても単品としては失敗かなと。
以下かなり既読者向けにグチるので、作品の中身が全然伝わってこないかと思いますが、まあ許してくださいね。あと長めです。

まずシリーズとしてみると、明らかに四部作としてしっかりまとまっており、最初から想定されていた結末ではないかという気がします。舞台だけ見ても、「シェトランド島の一般的な生活(&アップ・ヘリー・アーの祭)」→「シェトランド島の田舎(&芸術家)」→ウォルセイ島→フェア島、と、シェトランド諸島を次第に広げていっていますし、主人公ペレス警部とフランの関係も四作かけてしっかり描いていっています。で、この衝撃のラスト(アレよりも最後の最後の方がエグい)はまさに衝撃という他なく、これはクリーヴスさん偉いと思うんですよね。

問題は、そのラスト以外の部分があまりにしょぼいことですよ、ええ(今日は手厳しくいきます)。地元民をほとんど事件に関わらせなかったことでいつもの良さが失われていること、動機・犯人の行動がありきたりな古典本格のようで味気ないこと、登場人物の親子関係などにいつもの葛藤らしきものがなくありきたりであること、視点人物のうちの一人はあまりに魅力的だけどああで、もう一人はあまりに魅力的でないこと、とある人物の行動・セリフや、事件の設定などによりクリスティっぽい本格さを演出するもそれが結果的にマイナスに働いてしまっていること、などなど。欠点がかなり目立っているように思えるのです。
例えば、事件現場が閉鎖されておらず、被害者と関係のあった地元民なんかが登場していたら、良かったのかなと思うんですよ。ところがあくまで登場人物は観光客がメイン。観光客を扱ったミステリにろくなものがないというのは大昔から言われていることです(嘘です)。閉鎖空間によりクリスティお得意”アイデンティティの偽装”が機能していますが、これってどうしてもこの作品にいる要素なのかなぁと感じてしまいます。

そう考えると、あの人がああなるのはシリーズ初のあれがああなることなので驚いた人が多いと思うんですが、あれはある意味ラストで邪魔になっちゃうからなんですよね。いたらあんなことにならないでしょう。で、(あらかじめラストを決めてあったらしいだけに)少々無理のある処理。ところが問題は、あの人は序盤で大いに読者を惹きつけてしまうということなわけで。その他の登場人物との落差をどうしても感じてしまいます。

言ってみれば、事件そのものに深みがなく、単純で、(色々な意味で)ありきたり、ラストに縛られたせいで全体的にまとまりに欠け、いつもの心理描写が上手く働いていないということでしょうか。少々言いすぎですけどね。
もちろんクリーヴスは上手いです。だから思いっきり楽しめたし、一気に読めたし、満足しましたよ、自分は。ラストもこれしかないもので肯定します。でも、自分は地味で滋味ないつものクリーヴス節が見たかったのになぁ、と、こう、贅沢な不満を言ってしまうのでした。

というわけで、実にもったいない、というか悔しい作品でした。『青雷の光る秋』はちゃんと面白いだけに、こう、もったいないのです。うむむむむ。しかしこうなると、女警部ヴェラシリーズも訳してくれませんかね、東京創元社さん……ダメですか……。

書 名:青雷の光る秋(2010)
著 者:アン・クリーブス
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-13-4
出版年:2013.3.22 初版

評価★★★★☆
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