赤く微笑む春
『赤く微笑む春』ヨハン・テオリン(ハヤカワポケミス)

エーランド島の石切場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルネル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るよう求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。なぜこんな事件が起きたのか? 娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる――。エルフとトロールの伝説が息づく島で、人々の切ない記憶と過去が交錯する。北欧の注目作家が贈る深い余韻が残るミステリ(本書あらすじより)

うぅん、テオリンいいなぁ。
もはや職人芸かと言いたくなるくらいのどうしようもない地味さ(滋味さ?)。だがそこがいいんです。一応人が死ぬんですけど、どこか遠い感じで、あまり作品の前面にグイグイと出てくることはありません。じゃあ何が描かれるかと言えば、イェルロフとその隣人たちの生活と悩みと過去が綴られるだけ。それなのに読者を物語に一気に引き込んでしまうのです。うむむむむむ、面白い。

テオリンは物語に空想上の事物を密接に絡ませていくのが好きな作家ですが、今作もその点はいつもどおり。物語の核となる登場人物(ペールとヴェンデラ)を共にエーランド島の過去と結び付けることで、思う存分島のエルフ・トロール伝説を描き、しっかりと物語に組み込ませています。特にエルフは、終盤、「伝説」としての合理性と人間関係に話をつなげていくところが非常に上手いですね。
スウェーデンのポルノ産業を事件の根幹に置くところはザ・北欧ミステリという感じ(適当)ですが、テオリンさん、もはやちゃんと伏線張るとかそういうこと考えてない(気がする)し、果たして事件と伝説のどっちがメインなんだかよく分かりません。その曖昧さが魅力の一つだとも言えると思いますが、両者が全然関係ないのはちょっともったいなかったかなと感じました。

ま、しかし、とにかくテオリンは読んで浸って心温まって幸せになる感じですからね、殺人事件とかどうでもいいんですよ、はい。ちなみに今作は『冬の灯台が語るとき』よりはるかに読みやすかった印象があります。シリーズとは言え読む順番にこだわる必要は全くないので、一番あらすじに惹きつけられるものから読んでいけば良いのではないでしょうか。今作もおすすめです。

……と偉そうに語ってきましたけど、実を言えば第一作『黄昏に眠る秋』をまだ読んでいないんですよね、自分。どうかと思うわ……文庫化されたことですし早いとこ読まないと。

書 名:赤く微笑む春(2010)
著 者:ヨハン・テオリン
出版社:早川書房
    ハヤジャワ・ポケット・ミステリ 1870
出版年:2013.4.15 1刷

評価★★★★☆
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