キマイラの新しい城
『キマイラの新しい城』殊能将之(講談社NOVELS)

「私を殺した犯人は誰なんだ?」欧州の古城を移築して作られたテーマパークの社長が、古城の領主の霊に取り憑かれた!? 750年前の事件の現場状況も容疑者も全て社長の頭の中にしかない。依頼を受けた石動戯作も中世の人間のふりをして謎に迫る。さらに、現実にも殺人が!石動はふたつの事件を解明できるか。(本書あらすじより)

サークル企画用に殊能将之を読みました。追悼企画です。この間亡くなられたのですよね。
海外ミステリ読みにおすすめの作家らしいのですが、なるほど、これは確かに良いですね。非常に楽しみながら読むことができました。話の作りが全体的にエンタメ臭に溢れているんですよね。作者の作品の中でもそこそこ人気の高い一冊らしいですが、それも当然でしょう。
(ちなみに殊能将之の作品を全て読む場合は、発表順に読まれることを強くおすすめしておきます。数作品のトリックが意味なくなってしまいますからね、たしか)

以下、サークルに提出したレビューをコピペします。後半からネタバレになるので注意。まあネタバレ感想と言いつつ、本格ミステリとしての出来に一切触れず、作品内のどうでもいいことについて妄言を並べるという適当なレビューとなっております(笑)




 2004年に発表された、最後の長編である。
 舞台は剣と魔法のファンタジーランド、千葉の山奥に作られた「シメール城」。中世フランスで実際に使われていた城を、そのままヨーロッパから運び込みテーマパークとしている。ある日、運営する江里アミューズメントの社長、江里陸夫が突然幽霊にとり憑かれてしまった?! とり憑いたのは、シメール城を建てたかつての城主、第七回十字軍にも参加したエドガー・ランペール卿。現代に蘇った中世の騎士は、自身を殺した犯人を解き明かすよう申し付ける。エドガー卿は750年前、密室で殺されたというのだ。かくて名探偵が呼ばれ謎解きにあたるが、やがて現代でも殺人が―――!
 というあらすじからも分かる通り、かなりぶっ飛んだ内容だ。過去と現在の二つの密室殺人事件が主軸となり物語は進む……はずなのだが、不可能犯罪ものとしての側面は弱め。むしろ印象に残るのは、エドガー卿の一人称で語られる彼の回想シーンだろう。十字軍に従軍した気高きキリスト教徒である彼の戦いと苦悩が、それはそれはリアルに語られる。迫力に満ちた馬上槍試合やエジプトでの戦闘シーンが熱い。この生き生きとした描写こそ、本書の見所なのだ。
 熱いのは回想シーンだけではない。後半では、もろもろあってトキオーン(もちろん東京のことだ)のロポンギルズ(もちろん六本木ヒルズのことだ)に殴り込みをかけたエドガー卿(もちろん周りから見れば江里社長だ)が、ヤクザと即席の槍でバトりまくるという、笑撃の展開が待っている。中世の人間によるネクタイやバイクなどの描写・解釈は笑いを抑えられないほどに面白い。大昔の人間が現代に蘇りテレビにビックリ、なんてのはお決まりパターンだが、こんな斬新な調理の仕方があったのかと感心してしまった。
 本格ミステリとしても、ユーモアミステリとしても、バカミスとしても、さらにはファンタジーとしても一級品、文句なしの傑作だろう。



以下、本作品に関してネタバレスレスレの話をするので、未読の方はご注意を。



 といっても、エドガー・ランペールという名前の元ネタが江戸川乱歩だとか、登場人物の名前はほとんどエターナル・チャンピオンシリーズから取られているとか、作中でベタ褒めされている『ビロードの悪魔』(現代人が中世の人に乗り移る話)はこの作品と対をなしているとかはネタバレではないし。作者HPのreading diary(2004年12月9日、現在は読めない)によると、献辞の「ふたりのマイクル」とは、マイクル・イネスとマイクル・ムアコックを指すようだ。本書の発想源はイネスの未訳作品The Daffodil Affair(1942年発表、ロンドンの幽霊屋敷が盗まれて南米に再建される話)なのだという。
 なお、本書のタイトルは『キマイラの新しい城』だ。すなわち「キマイラ」が所有する「新しい城=シメール城」である。城の持ち主であるエドガー卿&江里社長=キマイラ、ということだろう。本書のキマイラは頭と胴体はライオン、背中には山羊の頭、尻尾は蛇なので、さしずめエドガー卿がライオン、次の持ち主である狡猾な江里社長が悪魔を表す山羊といったところか。そして今後の持ち主であろう大海永久の名前は、竜(つまり蛇)使いのディヴィム・トヴァーから取られているのである。ちなみにキマイラはしばしば「上品な外見を装った淫売」を意味するが、これはイゼルダのことだろうか?
 十字軍でライオンといえば、第三回十字軍に参加した獅子心王リチャード一世が思い浮かぶ。城主の長子ながら戦争に出向いたエドガー卿と、イングランド王として初めて十字軍に参戦したリチャードには共通点が多い。リチャードが十字軍に参戦して捕虜となっている間、イングランドではリチャード死亡の噂が流れ、弟のジョンが王位を継ごうとする事件が起こった……というのはまさにエドガー卿の話そのもの。博識な作者がいかにして本書を構成していったかが垣間見える。




書 名:キマイラの新しい城(2004)
著 者:殊能将之
出版社:講談社
    講談社NOVELS シL-06
出版年:2004.8.5 1刷

評価★★★★☆
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