列車に御用心
『列車に御用心』エドマンド・クリスピン(論創海外ミステリ)

人間消失、アリバイ偽装、密室の謎。名探偵フェン教授が難事件に挑む。「クイーンの定員」にも選ばれたロジカルな謎解き輝く傑作短編集。(本書あらすじより)

何て短い公式あらすじだ。
さて、論創社がツイッターでの希望をもとに出してしまったクリスピンの傑作短編集です。論創海外ミステリは一体誰を相手に商売しているんでしょう。いや本当に。あ、自分みたいな人か。
ちなみにクリスピンはまだ『消えた玩具屋』しか読んでいません。『お楽しみの埋葬』が欲しいよー……って言う前に絶版になっていない本を読むべきでした、はい。

全16編、粒ぞろいという感じで、とにかく1話1話のクオリティの高さに驚かされます。本格ミステリとしてのしっかりした出来もさることながら、どの話でも物語としての工夫がなされている点がしっかりと印象に残る理由なんでしょうね。満足満足、これはお腹一杯です。
フェン教授とハンブルビー警部の会話などはもう英国ユーモアに飾られまくっていて、どれも読みやすく、短編らしい軽妙さを堪能できるもの。短編集としてバラエティに富んでいるのも嬉しいところです。ただし犯人のバラエティは何だか妙に偏っているような気がするんですけど……うぅむ、なぜでしょう。
基本的にはパズル的なトリックが多いのですが、登場人物やシチュエーション、その解決方法によって多種多様に味付けしているため、某不可能犯罪大好き短編の巨匠的退屈さは微塵もありません。特にオチの付け方のこだわりようには執念すら感じます。フェアプレイに関しても作者が意識しまくっているところが面白いですね。個人的には名探偵コナンっぽいなぁと思うのですが、どうでしょう。

本格ミステリファン全てにおすすめ出来る好短編集だと思います。いやはや、良いものを読むことが出来ました、ありがとうございます。
以下、個別のコメントをちょこっと。どれも20ページくらいの長さしかないので、あらすじは省略。前情報なしに読んだほうが楽しめますしね。特に印象に残ったのは、「エドガー・フォーリーの水難」「すばしこい茶色の狐」「決め手」あたり。

「列車に御用心」
システマティックに解けるよう(そんな上手くいかないことを作者がネタにしつつ)作られた出来の良いパズラー。なるほど、よくあるクラシック不可能犯罪短編集とは一味違うっぽいな、と思わせてくれ、出だし好調。

「苦悩するハンブルビー」
これは結局どういうことなんだろうなぁ、って思わせた時点でクリスピンの勝ちなんでしょうね。フェン教授、ただただ意地の悪い人じゃないですか(そうです)。

「エドガー・フォーリーの水難」
素晴らしい。非常に単純な事件に、ひとひねり加えるだけで、こんなに面白くなってしまうとは。本短編集の前半に配置されているからこそ面白い、とも言えます(読了してから考えると、ですが)。

「人生に涙あり」
不可能犯罪物としてはまずまずの出来ですが、ややありふれている感はあるかな。過去語りの形で笑いを誘っているあたりに、ありふれた短編量産作家でないところが伺えます。

「門にいた人々」
んーむ、ちょっと専門知識過ぎるというか、小品過ぎるというか、まぁそれほどの話ではないですかね。

「三人の親族」
名探偵コナン(コナンです(めっちゃコナンです(コナンの3話解決の典型っぽいやつです)))。

「小さな部屋」
きっかけが少々しょぼい気もしますが、これは立派な日常の謎ですよ。こういう結末に、クリスピンは一筋縄ではいかないことがよく現れていると思います。

「高速発射」
かなり専門性の高い知識を要求されますが、謎解きとしては非常に鮮やかな好編です。

「ペンキ缶」
専門性はないですが、「高速発射」と同様、一点に気付けるかどうかがカギとなっているのですが、少々パズル的過ぎるように思えました。

「すばしこい茶色の狐」
非常に出来が良い作品。ダミー推理からひっくり返していく、ロジカルな展開が実によく練られています。ぶっちゃけ一箇所よく分からないところがあるんですが……まぁいいか。

「喪には黒」
読み始めた直後、去年出た某作品に妙によく似ているなぁと思ったのですが、実際かなり似ていてビックリしました。推理自体はやや簡単かなとも思いますが、この短編集の中でこの作品を読むと、フェン教授の犯罪に対する考えがどことなく見えてきて面白いです。

「窓の名前」
典型的密室トリックもの。偶然が重なりすぎている感はありますが、クリスピンがフェアプレイのためにはしょうがないでしょと開き直っているので、ま、しょうがないです。

「金の純度」
本格ミステリとしてはこの短編集の中では小粒過ぎると言わざるを得ませんが、物語性をしっかり加えているため単なるパズルに留まっていません。といって小粒なのですけどね。

「ここではないどこかで」
トリックは大したことありませんが、えげつすぎるブラックユーモアのせいで妙に印象に残る作品です。

「決め手」
notフェン物。こ洒落た雰囲気が非常に心地好く、こ洒落たオチも上手く決まっていて楽しい作品です。短編の名手の作品のようですね。ただ、この手がかりは分かりませんよねぇ、しょうがないですが。

「デッドロック」
クリスピン曰く、本短編集の中で唯一「未知なる物語との刹那の出逢い」ではなく「作品が醸しだす雰囲気を堪能すること」が魅力となっている短編。結局フェアプレイで非常にロジカルな本格ミステリでもあるのですが、確かにこれは16編の中では明らかに異色作でしょう。この人のこういうノンシリーズ作品をもっと読みたいと思わせられます。


全体的に、序盤の方が褒めてますね……。


書 名:列車に御用心(1953)
著 者:エドマンド・クリスピン
出版社:論創社
    論創海外ミステリ 103
出版年:2013.3.25 初版

評価★★★★☆
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