跡形なく沈む
『跡形なく沈む』D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

憎き母が死んだ。何一つ秘密を漏らさないまま――。父を知らずに育ったルース・ケラウェイは、母の遺品から手掛かりを得て小都市シルブリッジへ渡った。父親を捜す傍ら、なぜか数年前の協議会議員選挙の不正も探ろうとするルースの不可解な行動は、人々の不安を煽り、ついに殺人事件まで発生する。複雑な人間関係を操り、鮮やかなフーダニットを演出する円熟期の傑作。本邦初訳。(本書あらすじより)

いやぁ、相変わらずディヴァインは面白いですねー。というか、この作品、かなり出来が良いように思います。この間の『三本の緑の小壜』が個人的にもうダメダメだったのでもはや未訳作に大した作品は残っていないんじゃないかと思っていましたが、いやいやなかなかどうして、まだまだストックがあるじゃないですか、東京創元社さん。

いつも以上に地味な話ではあるんですが、なぜかグイグイ読ませる面白さ。ルースという(共感を呼びにくい)人物の企みの謎と、それによってかなり多くの人間が(否応なく)動かされていく様が楽しく、読者の関心が尽きません。ディヴァインはもともと人間心理を描いていくのが上手いと言われてきましたが、本作はその点はトップレベルではないでしょうか。……つまり本格ミステリとかどうでもいいってことなんですが(笑)
400ページという長さの中で、ディヴァインはシルブリッジという舞台となる町全体をいつも以上にじっくり描きたかったようです。で、結構成功しているんじゃないでしょうか。地味な登場人物が地味に生き生きとしているのはまさにディヴァインの本領。「町」の「過去」と「現在」を描いていくという部分から、『ロイストン事件』の延長戦上にある印象を受けます。ずばり人間模様、という感じ。

そちらに力を入れているせいか、フーダニット面、特に伏線はやや弱いし、決め手に欠けているところもあるんですが、正直どうでもいいというか。犯人が明かされる場面も結構凝っていて印象深いですしね(しかも犯人に気付いた人が結構多いらしいんですけど、自分は全然見当違いの人だと確信していて普通に驚けてしまったので、フーダニット面でははっきりいって文句言えません、はい)。丁寧な英国ミステリをしっかりと堪能出来ました。いやはや満足。

ちなみに、ディヴァインの作品を数作読めば気付くと思うのですが、彼の作品はほぼ全作に共通するオチというか、まぁそういう話の展開があります。そこを知って勘ぐると、例えば『ロイストン事件』とかでは(あくまでフーダニットとして)その共通のオチが欠点になるのですが、逆に今作ではプラスに働いているような気がしました……あくまで個人的にそう思うだけですが。

というわけで、安定のディヴァインでした。まだまだ未訳作は4作ありますからね、ばっちこい。自分は邦訳作品のうち未読は『こわされた少年』だけです……ちゃんと積んでいるので、年末くらいに読みたいところですねぇ。

書 名:跡形なく沈む(1978)
著 者:D・M・ディヴァイン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mテ-7-7
出版年:2013.2.28 初版

評価★★★★☆
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