黄金の蜘蛛
『黄金の蜘蛛』レックス・スタウト(ポケミス)

その夜も、ピートは35番街と9番通りの交叉点で車の窓拭きに精を出していた。赤信号で止まった車に駆け寄り、ぼろ布で窓をひと拭き─運がよければ、10セントのチップをはずむ運転手もいる。だが、そのキャディラックは様子が変だった。運転席に坐った女は声を立てず、口をしきりに動かしてピートに訴えかけた─「助けて。警官を呼んで……」ピートが呆然としているうちに、異変に気づいた同乗の二人の男はピストルらしきもので女をこづき、車はそのまま走り出してしまった。女の頬にあったかすり傷と、耳につけた大きな金の蜘蛛のイヤリングの強烈な印象だけを残して……。
12歳の少年ピートが訪ねてきた夜は、たまたまネロ・ウルフの虫の居所がよくなかった。フリッツのつくったつぐみ料理が珍しく気に入らなかったのだ。ウルフとアーチーは、ピートの話をまともに聞きもせず少年を帰してしまった。そして翌日、ピートが車にはねられて死んだというニュースが伝えられた。しかも、少年をはねて逃走した車のナンバーは、昨夜少年がひかえておいたキャディラックのナンバーと完全に一致していた!貯金箱の4ドル30セントをネロ・ウルフへの依頼料に、と言い残して死んだ少年。蜘蛛のイヤリングをつけた謎の女をめぐる連続殺人に、美食と蘭を愛する名探偵ウルフと、その助手アーチー・グッドウィンが挑む!(本書あらすじより)

久々のネロ・ウルフです。この本、何度か版を重ねているのにそこそこいいお値段することが多いので、安く見つけられた方は買った方がいいかもしれませんね。自分は浜松の時代舎古書店にて300円で購入しました(という微妙な自慢)。
ちなみに『黄金の蜘蛛』は、日本で最初に紹介されたネロ・ウルフ物のようです。まぁ確かに、ポケミス177番ですし。2年前にアメリカで出た話題作を、ってところでしょうか。

良くも悪くもネロ・ウルフ物は非常に安定した面白さを供給してくれるなということを実感させられた一冊でした。ユーモアありアクションあり一同会しての謎解きあり。ただしネロ・ウルフはいくらアーチーの一人称私立探偵小説であってもハードボイルド的ではない、ということがまた分かる一冊でもあるのかな、と。
基本的にウルフの依頼料は法外な値段なのですが、今作のウルフは今までで最も安い依頼料で事件に取り組むことになります。相談に来た少年の死に突き動かされて独自に捜査を始め……という冒頭はめちゃくちゃカッコイイ。少年の死を聞く場面、母親が訪れる場面なんかもう超泣かせますよ。

……という冒頭なら、普通、少年の依頼に対して適当な態度を取ってしまったことを悔やみ、復讐のため捜査するネロ・ウルフ、ってなりそうじゃないですか。なりそうなんですよ、確かに、途中までは。ところが最終的には、その熱い動機がどっかに行ってしまうのです。これが実にもったいないんだなぁ。
結局のところウルフはなんかかんやでガッツリお金をせしめ、アーチーは軽口を叩き、本格ミステリとしても水準以上の出来栄え……という、いつものウルフ物なのです。せしめた金を母親にやるみたいな感動エピソードなんて当然ありません。終盤、少年のことがほとんど言及されないことがどうしても引っかかってしまうんです。冒頭の展開はあくまで魅力的な導入に過ぎない、ということなのでしょうねぇ。

面白いし、十分に楽しめたのですが、どうしても何か足りないなぁと思わずにはいられない一冊でした。ちなみに、思い出補正をかけまくっていますが、『編集者を殺せ』が今のところ一番好きです……という記憶はあるんですが。話はほとんど覚えてないけど。ってそもそもまだ5冊しか読んでませんでした。

書 名:黄金の蜘蛛(1953)
著 者:レックス・スタウト
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ポケット・ミステリ 177
出版年:1955.6.15 初版
    1985.6.15 3版

評価★★★★☆
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