まるで天使のような
『まるで天使のような』マーガレット・ミラー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

オゥゴーマンは五年前に死にました――ある宗教団体の尼僧から、オゥゴーマンという男の身辺調査を頼まれた私立探偵クインは、意外な言葉にぶつかった。事務員だった故人は、嵐の晩に車で出かけたまま戻らず、川に落ちた車だけが見つかったという。妙なのは事件だけではなかった。どうやら過去を暴かれたくない者がいるらしいのだ……多くの謎をはらむ事件の真相とは?心理サスペンスと私立探偵小説を融合させた代表作!(本書あらすじより)

えー、突然ですがちょっとドヤ顔したいのですけどね、2月16日(すでに2ヶ月前)、茨城のブックオフで『パリは眠らない』を、蒲生の某古書店で『緑のダイヤ』を購入した後、向かった渋谷のブックオフで、わたくしとんでもないものを目にしたのでありました。
ミラーなど
ハヤカワ・ミステリ文庫から出ているマーガレット・ミラー4作品が全て105円コーナーに並んでいるではないですかっ!!!!!!!!
というわけで、『鉄の門』が手に入ったんだぜ、げへへへへ(その時は『まるで天使のような』だってマケプレで1000円はしていたのにいつの間にか500円を切りやがって)。まぁこういう収穫があれば、今まで読んでこなかったミラーを読まなきゃいけないじゃないですか。というわけで、早速、非常に評判の良い『まるで天使のような』を読んでみたわけです。
ちなみにこの表紙(旧版のもの)ですが、どう見てもロード・オブ・ザ・リングに登場するナズグルではないかと……あ、修道士だったのね、これは失礼。


いやぁ堪能しました。こっれは素晴らしいです。現実社会と宗教共同体、理性と狂気の世界を行ったり来たりしながら、全貌の見えにくい事件がゆっくりと解きほぐされていきます。つかみの良い冒頭からラストまで一貫して漂う異様な雰囲気に引き込まれます。
体裁は真っ当な私立探偵小説で、主人公クインの行動によりもともと不安定だった関係者の心情が揺さぶられ、やがて状況が変化していく……というもの。「祝福尼の依頼」がきっかけとなり、一切無駄なく、なおかつ先行きの見えなさと意外性を保ちながら、粛々と物語が進んでいくのです。上手いなぁ。
新興宗教の信者たちが暮らす「天使の塔」と、それ以外の現実世界が交互に描かれていくのですが、それに伴い作品の空気が切り替わっていく様が実に見事ですね。特に「天使の塔」における、舞台・登場人物の幻想と狂気の描写は恐ろしいまでに秀逸。とは言え、どんなに奇妙でも、非現実的ではない……そのバランスが実に絶妙なのです。

ところで、本書を紹介する際にしばしばラストの意外性が云々とか言っているものを見かけるのですが……いやね、はっきり言って、そんなものは果てしなくどうでもよいのです(だいたい作者は隠す気ないでしょ、これ)。そんなものより、最後には、私立探偵目線から離れて、狂人の危うさが、必要最小限の言葉で語られるのです。最後まで読んできてコレですよ。これ以外にないという結末じゃないですか。


というわけで、初ミラーでした。読み始めて、「えっ、ミラーって旦那さんと同じく私立探偵物書く人だったの?!」と思い、解説を読んで「なんだ、これは異色作なのか……」と思ったりも。私立探偵物三部作、みたいなのがあるんですねぇ。まぁしかし、この作品を単なるハードボイルドとして片付けるのはあまりに狭い見方でしょうね(ってかそう思う人はあんまりいないでしょう)。傑作です。



「人間というのは、たしかに傑作だ!
……その行動はまるで天使のよう!
その知力はまさに神のようだ!
しかもなお、わたしにとって、この本質的に塵にすぎないものがなんだというのだ?
男はわたしを楽しませてくれない。
そうだ、女もだ……」――前書きに引用されている『ハムレット』より


書 名:まるで天使のような(1962)
著 者:マーガレット・ミラー
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 41-4
出版年:1983.4.30 1刷

評価★★★★★
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