密輸人ケックの華麗な手口
『密輸人ケックの華麗な手口』ロバート・L・フィッシュ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

ムシュー・ハウゲンス!――焼けつくような九月のパリ、名高い密輸人ケックを認めた税関吏の眼はつり上っている。今日のケックはいたって軽装だ。今度こそシッポをつかまえようと、税関吏の慣れた指が持ちものをばらし、身体検査を始めた。数時間後、失望と怒りで顔を朱に染めた税関吏を尻目に、ケックは足取りも軽くさっそく一万ドルの報酬を受け取りに……厳重な取締りを逃れた彼はいかにして密輸したのか?――上記の「バッハを盗め」はじめ、見事に心理の盲点を突いた、密輸人ケックの巧妙華麗な手口をユーモラスに描く傑作短篇集!(本書あらすじより)

何かユーモアタッチの軽めの短編集を読みたいな、と思ったのでした。すわ、フィッシュの出番であります。
ちなみにこの本は、ブログ『探偵小説三昧』さんで紹介されていたので気になっていたもの。祐天寺かどっかで買ったんですけどね、たしか。

フィッシュと言えばシュロック・ホームズでしょうが、こちらは税関をすり抜けるために華麗な手口を用いるケックの活躍を集めた短編集。どうやって税関を騙すのか、というホワイダニットだけでなく、さらにもう一ひねりが加えられているため、読んでいて予想外の角度から足をすくわれ非常に面白かったです。
言うなればあれです、怪盗ニックの上位互換です(おいこらホックさんに謝れ)。大量生産型のホックと比べるのもかわいそうかな、とは思いますが。良短編集だと思うし、もっと読まれてもいいんじゃないかと思う……のですけど、早川さんは復刊しないので残りにくそうですね、うぅっ、残念だぜ。
ベストは「名誉の問題」、次点が「一万対一の賭け」ということで。

ところで、献辞がフィッシュらしくホームズネタなのですが、これがまた上手いから、ちょっと引用してみますね。
『アーノルド・カッツ博士――「辛抱づよい医学実習生(ペイシェント・レジデント)」
フィリス、妻ほか――「ギリシャ語通訳」
そして ポール、サラ、エイミイ、ローラ――「三人の学生」 に愛をこめて本書を捧げる』

ちなみに本書は、1964年から1974年にかけて雑誌掲載された6編に、単行本として出版する際書き下ろされた2編を加えたもの……だと思うのですが、間違っているような気もします。
以下個別の感想を。


「ふりだしに戻る(Merry Go Round)」(1964?)
100万ドルの仕事を引き受けたのに、なぜか落ちぶれた様子のケック。その真相は……。
ラストでいきなり斜め上から引っ掛けてくるのが上手いです。まだ読者がパターンを掴めていないというのもあるかな。タイトル「Merry Go Round」ってこれ「Marry」とかけてる?

「一万対一の賭け(The Wager)」(1973)
ケック、彫刻を密輸する。
これは笑えます。落とし所の絶妙さがすごい。ハウダニットの手法自体もなかなか上手く出来ていて、自分でもやれそうと思わされるんだけど、そのあとこうくるからなぁ。フィッシュらしい洒落た短編。

「名誉の問題(A Matter of Honor)」
ケック、絵を密輸する。
プロの密輸人としてのケックの仕事ぶりが堪能出来る一編。ハウダニット面が心理的な駆け引きを利用した非常に凝って優れたものであり、なおかつ業界の中でうまく立ち回るケックの魅力が描かれます。畳み掛けるどんでん返しがお見事。傑作かな。

「カウンターの知恵(Counter Intelligence)」(1965)
ケック、万引きを解決する。
こうやってバリエーション豊かなところも本書の魅力の一つ。なかなか盲点をついたフェアなミステリ短編。というかこれ、日常の謎っぽいですね(万引きだけど)。探偵っぽさを発揮しつつ何だかんだ金をせしめていくケックは、ジム・バーネットことルパンを思わせます。

「コレクター(The Collector)」
突然慈善事業を始めたケック、その真意は?
ケックの手法自体は鮮やかだけど、そのやり方がいまいち馴染みがなかったせいでややピンと来なかったかも。こんなの続けてたらバレないんですかね。

「バッハを盗め(Sweet Music)」
見るからに胡散臭いチョコレート菓子を持って税関を抜けようとするケックだが……。
盗む物がラストに示されるため、途中で形状が分からず、ハウ面での意外性演出に失敗しています。型を崩してみたもののやや上手くいかなかったかな、という感じ。

「ホフマンの細密画(The Hochmann Miniatures)」(1966)
空港でやや窮地に陥っているらしいケックだが……。
最終話にふさわしい一編。ケックが宿敵(?)を相手にこれでもかと立ち回る話で、それ自体はまぁどうということのない話なのですが、伏線とダブルハウダニットと含みのある終わり方でなかなか味のある作品。良作。

書 名:密輸人ケックの華麗な手口(1976)
著 者:ロバート・L・フィッシュ
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 42-5
出版年:1980.10.31 1刷

評価★★★★☆
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