内なる殺人者
『内なる殺人者』ジム・トンプスン(河出書房新社)

銃も棍棒もなしで、丸腰のまま保安官補をつとめる、一見もの静かな男ルー・フォード。ウェスト・テキサスの小さな田舎町を牛耳る建設業者コンウェイを義兄の仇とねらう彼は売春婦を利用し復讐をとげるが、そのために殺人をくり返すことになり、心に巣食った病的な暴力癖をあらわにしてゆく……。たしかな人間観察眼によって描かれる「現実味のある異常者」の物語。“安物雑貨店(タイムストア)のドストエフスキー”と称され、『ポップ1280』(扶桑社)で『このミステリーがすごい!2001年版』(宝島社)海外部門第1位をはじめ、今年度のベストミステリを総ナメにしたジム・トンプソンの幻の代表作、ついに復活!(本書あらすじより)

いやもう、のっけから言い訳になってしまってアレなのですが、授業が始まったら忙しくて忙しくて、ブログの更新がなかなかできないのです。春休みは3日に1度の更新がきっちり出来ていたのですけど。読書ペースと感想文書くペースがますますずれています。だって『内なる殺人者』は、翻訳ミステリー大賞シンジケート後援第4回千葉読書会用に読んだものなので、たしか読み終わったの2月の後半ですよ。大変だ。


初トンプスン……というわけではなくて、厳密に言えば初トンプスンは『鬼警部アイアンサイド』なのですが、まぁこれはちょっと別に考えたいので、とりあえず初トンプスンです。千葉読書会の課題本が『ポップ1280』だったので、その準備ということで。ちなみに扶桑社ミステリー文庫から出ている『おれの中の殺し屋』は別訳。河出版の方が好き、と言っている方がいたので、わざわざこちらを読んだのです。自分は扶桑社版は読んでいないので何とも言えませんが、雰囲気などにかなりの違いがあるようですね。

「ノワール」だということで身構えて読み始めたのですが、はっきり言って思ったほど黒くないのです。いつぞや読んだシェイマス・スミス『わが名はレッド』の方が圧倒的に黒い。『ポップ1280』の感想で書きたいと思いますが、それはそれで当たり前なのですよね。というわけで、まず「ノワール」「暗黒小説」だということでビビっている人、気にせず読みましょう(笑)

物語は保安官補ルー・フォードの一人称で進行します。あらすじを読んでのごとし、つまりは彼は己の欲望のままに完全犯罪を果たそうとするのですが……というお話。
この一人称というのがクセモノで、ルーがやはり狂人くさいというのもあり、読者は彼の語りをどこまで信用していいのか分からなくなっていきます。この不安感が非常に素晴らしくて、淡々と、しかし容赦なく犯罪に手を染めていくルーの物語に読者はグイグイと引き込まれてしまいます。
そしてそれに加わるのが、ユーモア……というかブラックユーモアでしょう。下品な笑いというとちょっと違う気もするのですが、それにしても作者独特の笑いのセンスが感じられます。だってほら、最後のシーンとか、絵面を想像したら笑っちゃうじゃないですか。え、笑えない?

ただ、正直言って、ちょっと物足りなかったかなという印象があります。ルーの犯罪があまり徹底されていないことや、終盤の妙に落ち着いた展開のせいで、肩透かしを食ってしまったような。どうせならもっとブッ飛んだ話を読みたかったのかなぁ。ややパンチ不足を感じました。この点で言うと、『ポップ1280』の方がはるかに好きなのですが、うぅん、なぜなんでしょうねぇ。話としては同じようなものなのですけど。

トンプスンの魅力は、物語もさることながら、その独特の語りにあるようです。というか、トンプスンのファンはその文体に惚れているようなのです。何冊か読めばその特徴がつかめると思うのですが。何だかんだ読みやすいので、今後もちょこちょこ読んでいくつもりです。

書 名:内なる殺人者(1952)
著 者:ジム・トンプスン
出版社:河出書房新社
出版年:2001.2.20 初版

評価★★★☆☆
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