災厄の紳士
『災厄の紳士』D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

根っからの怠け者で、現在ではジゴロ稼業で糊口を凌いでいるネヴィル・リチャードソンは、一攫千金の儲け話に乗り、婚約者に捨てられた美人令嬢のアルマに近づく。気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、計画を仕切る“共犯者”の指示により、着実にアルマを籠絡していく。しかしその先には思わぬ災厄が待ち受けていた……。名手が策を巡らす、精巧かつ大胆な本格ミステリの快作。(本書あらすじより)

今月(というか今日)ディヴァインの新刊(というか何というか)が出るので、それに合わせて大事にとってあった最後の積みディヴァインを崩したわけです。これで未読ディヴァインは『こわされた少年』のみ。うぅぅ、欲しい……誰かください……。

さて、本書はディヴァインの中では確実に異色作です。コン・ゲームとかね、ディヴァインが書いちゃうわけですよ、めちゃくちゃ不安じゃないですか。
ところが、前半のコン・ゲーム風から後半のガチ本格への移行が実にスムーズで、心配しただけ無駄でした。なおかつ前半のせいで誰が殺されるのかすら先が見えにくいという面白さがあります。少ない容疑者の中できちんと意外性をもって犯人を指摘出来ており、非常に出来が良いように思います。佳作でしょう。

さて、ディヴァインはたいてい最後に男と女がくっつくのがお決まりなのですが(ということを知ってしまうと容疑者が減る笑)、今作ではカップルではなく夫婦関係に目線を向けているのが面白いですね。後半に主役的ポジションとなるサラ(登場人物の心情セリフにより確実に犯人ではないっぽい)と夫の関係、捜査する警部とその妻の関係、などなど。
ディヴァインのキャラクターって、まぁ浅くはないんですが、ちょっと典型的で、いわゆる「人間を描く」(いやなフレーズ)のが抜群に上手い作家、というわけではないと個人的には思います(その評価の仕方で、たぶん『三本の緑の小壜』の評価も変わるんじゃないかな)。で、その点では、警部さんのエピソードが結構適当に流されてしまったのがちょっと残念ではあるし、もっと積極的にストーリーに絡ませても良かったのにとは思うのです。が、サラに関しては非常に良いですね。彼女の心情がかなりストレートに伝わってきており、それが物語を進める力として上手く作用しています。ラストも、このサラのおかげで、印象深いものになっています。

フーダニット面ですが、容疑者数は極めて少ないです。ぶっちゃけ手がかり・伏線もそれほど充実しているわけではありません。ですが、ミスディレクション、および犯人発覚時の場面の鮮やかさにより、読み手に強烈な印象を残すことに成功しています(ここもサラか)。『悪魔はすぐそこに』も似たような感じがありますね。こういうのを読むと、やっぱりディヴァインは技巧派だなぁとつくづく感じます。

というわけで、ディヴァインを数作読んだ人が読むと、ちょっと変化球的で良いんじゃないでしょうか。冒頭のらしくないコン・ゲーム展開の書き慣れていないっぷりに苦笑してディヴァインに萌えられるし(なんじゃそら)。オススメです。


ちなみに、『災厄の紳士』のあらすじ、裏表紙でも表紙裏でも、殺人に関してはかなりぼやけた書き方をしてくれているのですが、解説で遠慮呵責なく言っちゃうのはどうかなと思います(まぁ解説をいつ読むか論になっちゃうけど)。中盤以降までは読まないことをおすすめします。

現時点でざっくり面白い順に並べると、
『悪魔はすぐそこに』>『五番目のコード』>『ロイストン事件』>『災厄の紳士』>>『兄の殺人者』>『ウォリス家の殺人』>>『三本の緑の小壜』
といったところ。読む順番もこれで良いんじゃないかなぁ。『兄の殺人者』以下はちょっと劣るかな、という感じです。どれも(『三本の緑の小壜』以外は)十分面白いですけどね。
『ロイストン事件』という例外もあるにはあるのですが、基本的にディヴァインは一人称より三人称の方が上手い、というか三人称より一人称の方がつまらない、という印象があります。まぁ適当な印象なのであんまり気にしないで下さい。

書 名:災厄の紳士(1971)
著 者:D・M・ディヴァイン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mテ-7-3
出版年:2009.9.30 初版

評価★★★★☆
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