世界探偵小説全集11 E・D・ビガーズ篇
『別册宝石 第8巻2号 通巻45号 世界探偵小説全集11/E・D・ビガーズ篇』E・D・ビガーズ(別册宝石)

「あと5年は積みかねない読まなそうな積ん読崩し5人斬り」第五弾、おぉ、とうとうラストですよ。この本はね、とんでもなくボロいんですよ。というわけで、全く手に取りそうになかったので、選んだ次第です。

アメリカの黄金時代を代表する作家、E・D・ビガーズの長編が、なんと恐ろしいことに3つ入っています。3つですよ、3つ。どれだけ抄訳なのかと。
ざっくり感想を言うと、チャーリー・チャン警部物の『鍵のない家』は傑作、同じくチャン物『黒い駱駝』も良作です。この2作は完訳でぜひ読みたいですね。逆に、ノンシリーズ『五十本の蝋燭』は読む必要は一切なし、といったところでしょうか。

いやぁ、しかし、ビガーズはいいですね。チャーリー・チャン警部物、今のところハズレ無しなので、ぜひぜひ全部読みたいところ。とりあえず『チャーリー・チャン最後の事件』を読んで、そんでもって『シナの鸚鵡』を……手に入れるところから……(絶望的)

以下、個別の感想です。

「鍵のない家」(1925)
ジョン・クインシイ・ウィンタスリツプは、伯母を連れ戻しにはるばるボストンからハワイへ渡った。だが上陸直前、島では彼の親戚の資産家が殺されていたのだ。容疑者として拘留された男の娘(かわいい)のために、ジョンは地元の警部チャーリー張と共に事件解決のため奔走する。

チャーリー・チャンのデビュー長編です。
なんじゃこら、面白過ぎるでしょう。傑作と言っちゃって良いのでは。少なくとも今でも十分読めるレベルの作品なのは間違いないです……だからどこか完訳版を出して下さい頼んます頼んます。

フーダニット的な面白さはもちろんですが、それ以前にハワイのまったりとした雰囲気や、あらゆる人種が入り乱れた世界、それを背景とする事件に引き込まれます。三股をかける主人公、男まさりの伯母さん、魅力的な女の子、そして何よりチャーリー張警部。いっやぁ楽しいですね。
程よくユーモアを交えながら生き生きとハワイを描いていくビガーズは本当に上手いです。ラストとか超かっこいいですよ。これだけしっかりとした、なおかつ楽しいミステリが1925年のアメリカで書かれたというのは、よく考えたらすごいことじゃないでしょうか。

ちなみにミステリ的側面ですが、ハウダニットっぽい点での意外性はそれほどでもないんです。が、あまり明示されてはいませんが、手掛かりはちゃあんと出ているんですよ。しかもこれがトリックと犯人特定の伏線として綺麗に生きて来るのです。まぁ本格とかどうでもいいですけどね!ホノルルを楽しめれば十分ではないかと!


「五十本の蝋燭」(1926)
ある屋敷の旦那様が殺される。誕生日パーティーの前だったためケーキがあったが、その場には蝋燭が50本。しかし旦那様は50歳ではなかった。果たしてこれはいったい誰を祝うためのものだったのか?……みたいな話でした、たしか。

あまりに極端な抄訳らしいので、一概に判断を下すことは出来ませんが、まぁしかしこれは読まなくてもいいんじゃないでしょうか。わりかしお粗末な一品。変にトリックとか入れなくてよかったのに。あと恋愛パートもちょっと雑かな。全体として魅力を感じられませんでした。


「黒い駱駝」(1929)
ハリウッドで活躍する女優シーラ・フェーンが、撮影のためハワイに来た。船上で大富豪に結婚を申し込まれた彼女は、ある過去のせいでそれを素直に受け入れられず、相談するため占い師をアメリカから呼び寄せる。さらに監督や俳優が続々と集結。ついにシーラ主催のパーティで事件が……。

チャーリー・チャン物の第4長編ですが、抄訳なので100ページほど。これまた非常に面白かったので、『鍵のない家』ともどもぜひ復刊していただきたいですね。いやホントお願いします。お願いです。どうかどうか。きっとその年の本ミス10位には入ります。
この事件、手がかりの数が異様に多いんですよ。壊れた腕時計やら消えた宝石やら各人のアリバイやら切り抜かれた新聞紙やら手紙やら各種目撃証言やらがやったら出てくるのです。前半はそれらがポイポイ出てくるばかりでやや退屈ですが、後半それらが一つ一つ解かれていく様が抜群に上手く、面白いですね。
抄訳であるため何とも言えませんが、やはり犯人特定の証拠はいささか物足りないように感じられます。しかし、終盤の二転三転する展開にかなり驚けるので、まぁいっか、と許せてしまうのですね。チャンが犯人をあぶり出すためある罠をしかけるシーンとか、じらし具合が絶妙でむちゃくちゃ面白いじゃありませんか。やっぱりビガーズは読者を分かってますねぇ。

ハワイが舞台であることの何がいいって、アメリカからの観光客の素性がはっきりしないことでしょうね。いわゆるアイデンティティ偽装が非常に効果的に働くのです。犯人が、自分の正体を隠そうと細工をしようと思えばいくらでも出来てしまうわけですよ。
もちろん限界はあるのですが、ビガーズはちゃんとその限界をわきまえているので、登場人物の行動に「なにやってんだ……」的不自然さは生じません。実に合理的なのです。結果、限られた容疑者の中で、怪しさをバランスよく振り分けることができてしまうというわけ。いやぁ面白かったです。

ちなみにチャン警部は名探偵です。大抵の読者より先を推理しているので、読者の先読み推理は基本的に負けます。たまにクラシックミステリで「いや、それはこうでしょ気付けよアホか、くそっ探偵がドヤ顔で推理し始めたもう分かってんだようざっ」となることがありますが、ビガーズはそういうことはほとんどないですね。


書 名:別册宝石 第8巻2号 通巻45号 世界探偵小説全集11/E・D・ビガーズ篇
著 者:E・D・ビガーズ
出版社:岩谷書店
    別册宝石 45号
出版年:1955.2.10 1刷

評価★★★★☆
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/881-df9f0547