医者よ自分を癒せ
『医者よ自分を癒せ』イーデン・フィルポッツ(ポケミス)

イギリス南部の風光明媚な町ブリッドマスの市長アーサー・マナリングが殺害された事件は、一大センセーションを巻き起こした。町の発展のために別荘地の開発に精力的に乗り出して財をなした不動産業者であると同時に、貧民対策事業に多額の金を投げうって賞賛を浴びているこの人物を、誰が、なぜ殺さなければならなかったのか?だが、人々の異常なまでの関心を事件に引きつけたのには、もうひとつ別の要素があった。それは、事件の有り様が、七年前のちょうど同じ日に起きた被害者の息子ルウパート殺害事件にあまりに酷似していたことだった。現場は、景勝地マッターズ沼地のまったく同じ場所、しかも左のこめかみから撃ちこまれた銃弾が頭蓋を通り抜けている点も同じだった。二つの事件を結びつけて考えないものはなかった。しかし、スコットランド・ヤードが七年前と同様、一番の腕利き刑事を派遣してあらゆる努力を続けたにもかかわらず、謎は再び未解決のまま残されてしまった。迷宮入りの二重殺人は永遠の謎を秘めたまま葬られようとしていた……だが、30年後、マックオストリッチ医師の手記が事件の恐るべき真相を白日のもとにさらけだす!『赤毛のレドメイン』『闇からの声』と並び、大作家フィルポッツの代表的ミステリ。格調ある文体で悪の心理を容赦なく追求する心理ミステリの傑作。(本書あらすじより)

合宿に行っていたのでまた更新が遅れてしまいました。うぅむ、頑張らないと。

さて、「あと5年は積みかねない読まなそうな積ん読崩し5人斬り」第二弾、イーデン・フィルポッツ『医者よ自分を癒せ』です。初フィルポッツ。図書館から『赤毛のレドメイン家』が消えてしまったせいで、今までフィルポッツを読む機会がなかったのですが……。
結論:強いて読む必要は全くなし、100円なら許せる、というところかな(525円で買いましたけど)。

あらすじの要約。ある村で、誰からも恨まれておらず前途洋々たる青年が射殺される。事件は迷宮入りし、7年後、全く同じ場所、同じ日に、今度は不動産業を営むその父親の射殺体が発見される。この一部始終を、ある医者が手記の形で回想していく。1935年、フィルポッツの後期作品ですね。

実を言うと、これは一種の倒叙ミステリなのです。語り手であるマックオストリッチ医師(自分のことを頭が良くて冷静で切れ者だと思っているちょっとナルシスト)は、第一の事件の犯人と思われる人物を、社会的正義の名のもと殺してしまおうと計画を立てていくのです。なるほど、これはなかなか面白い展開。
あらすじに書いてある「格調ある文体で悪の心理を容赦なく追求する心理ミステリの傑作」というのが、全てを言い尽くしている感がありますね。「心理ミステリ」とやらに最初期に挑戦した作家なわけですよ、フィルポッツは。当然ながら、今となっては古さは否めないし、退屈っちゃあ退屈でしょう。一応意外な結末はありますが、これはもはやミステリ読みじゃなくても推測はつくでしょうし。
読み終わるとタイトルの皮肉さにニヤリと出来るところは良く出来ているとは思いますが、もうちょっと最後は医師の感情を書いて欲しかったなぁ。あっさり終わりすぎじゃないかしらん。せっかく手記形式なんだから、もうちょっとそこを生かして欲しかったです。
とはいえ、ネット上の感想でボコボコに言われているほど酷くはありません。短いしね。段々調子に乗っていく医者の手記、というのはこれはこれで面白いですよ。終盤なんか、奥さんのことを考えると自分勝手過ぎるのですが、そう見えるよう書いているフィルポッツはなかなか上手いです。動機が雑という意見もあるようですが、それも医者の身勝手さを表してていいんじゃないでしょうか。

……と持ち上げてはみましたが、あくまでそこそこの面白さなので、わざわざ読む必要は一切ない、と思います。最初期の「心理ミステリ」といっても、フランシス・アイルズがとっくに出た後なわけですし(読んでいませんけど)。読み終わった後の「う、うん……まぁクラシックだしね……悪くはないかな……褒めないけど……」という微妙な心地良さをぜひ誰かと共有したいですねぇ(笑)

書 名:医者よ自分を癒せ(1935)
著 者:イーデン・フィルポッツ
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ 294
出版年:1956.12.15 1刷

評価★★☆☆☆
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/876-b136a22d