『「老いぼれ腰抜け」亭の純情』マーサ・グライムズ(文春文庫)

これまでも結構気の多かったジュリー警視だが、ジェーンなる若き未亡人に会った途端に本格的な恋心に取り憑かれてしまった。だが気になるのは、その美貌を時折り暗い影がよぎることだ。謎を解く鍵は亡くなった夫の過去にある。かつてジェーンが夫と暮らしていたという湖水地方へ行ってみたい、と思った矢先に予想外の事件が…。 (本書あらすじより)

グライムズの第11作です。作品も邦訳は残るところあと2冊になりました。早く見つけないと…。

グライムズの中でも、まず間違いなく1,2番の出来だと思います。というか、『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』『「古き沈黙」亭のさても面妖』と傑作続きです。彼女は、話が長けりゃ長い方が、キャラクター造形に力が入り、作品がより魅力的になるんですね。

まず、何と言っても事件がいい。前作は事件だかどうか分からないものを次第に解きほぐすって感じでしたが、今回は割と真っ向から攻めています。被害者の家族が胡散臭い人ばっかしで、はたして誰が犯人なのかもなかなか趣向が凝っています。犯人の動機はやや不安ですが、しかしそんなことはハナっから問題ではなし(いつもの事だし)。

また、人物描写も一番頑張ってます。ホルズワース家の個性的な面々をキッチリ描き分けていて、人物名も頭にすんなり入ってきました。キャラクターと言えば、やっぱり子供二人と、老人二人がかかせません。グライムズ作品の子供達は、たいてい逆境の中でしっかり生きている子たちですが、今回は輪をかけてかわいそうな子供たちです。それでも重苦しくならないのは、メルローズやトルーブラッドといった面々が頑張ってるからですが、今作の楽しい人第一位はレディ・クレイとアダムですね。あんなに楽しそうな老人は、はっきり言って魅力の塊です。レディ・クレイはなんかただ者じゃなさそうだし。また出るらしいので、楽しみにしたいですね。

しかし何と言っても、結末には衝撃を受けました(4回くらい読み返したし)。グライムズは、必ずしも法の制裁を重視してはいませんが、いきなりこんなのを持ってくるとは思いませんでした(しかもユーモラスに重苦しい)。その後どうなったかは書いていませんし、ジュリーが知ったのかは分かりませんが、しかしあの後あそこにメルローズと向かっていたことを考えると、悪くならないように手配してくれたのではないでしょうか。

とにかく楽しい一冊です。シリーズ性が強いので、第一作から読むにこしたことはありませんが、入手が面倒くさいので、見つけたものからでも読んでいってほしいですね。

書 名:「老いぼれ腰抜け」亭の純情
著 者:マーサ・グライムズ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ク-1-10
出版日:1993.12.10 1刷

評価★★★★★
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