大鴉の啼く冬
『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス(創元推理文庫)

新年を迎えた凍てつく夜。孤独な老人マグナスを訪れたのは、ふたりの女子高生だった。ひとりは金髪、もうひとりは黒髪――そう、まるで彼が助けた、傷ついた大鴉の羽根のようにつややかな。だが四日後の朝、黒髪のキャサリンは死んでいた。大鴉の群れ飛ぶ雪原で、赤いマフラーを喉に食い込ませて……。地元のペレスと本土のテイラー、二人の警部が見いだしたのは、八年前の少女失踪事件との奇妙な相似。誰もが顔見知りの小さな町で、誰が、なぜ、彼女を殺したのか?試行錯誤の末にペレスが掴んだ悲しき真実とは?英国本格派の新旗手が、冬のシェトランド島の事件を細密な筆致で描き出す、CWA最優秀長篇賞受賞作。(本書あらすじより)

翻訳ミステリー大賞シンジケート主催による第3回千葉読書会の課題本が、自分の大好きなコレなのでした。で、参加してきたのですが、その際に再読したので感想を。まぁ以前にもこのブログで感想を書いたので、簡単に。

読み直して思いましたが、やはり素晴らしいです。美しいです。いやはや、これを課題本にしたらと提案した人は偉いですね。ついでにそれを支持した自分も偉い(笑)
再読ですから展開はほとんど覚えてるよ、と思っていましたけど、ばっちりミスディレクションに引っ掛かった上に犯人勘違いして最後の最後に普通に驚いてしまいました。わずか20ヶ月で全てを忘れ去ったようです。老後の記憶力に今から自信が持てない……。いや、この犯人を忘れられるわけがないんですけどね。それだけミスディレクションが巧みということですよ、はい(言い訳)。

読み返してつくづく思ったのが、解説で川出正樹さんがおっしゃっている、この「三人称多視点」がべらぼうに上手い、ということ。閉じた環境の中で孤立した4人の視点全てが、読者に読ませるだけの中身を持っています。プロのお仕事ですね。シェトランドという寒々しさがまたぴったりなんだよなぁ。周囲と打ち解けられない4人の心情と、雪で覆われるシェトランド。この関係が絶妙で、シェトランドという辺境の舞台が存分に生かされています。

全体的に登場人物の描き方が非常に丁寧で嬉しいですね。出来の悪い部下がそこまで足を引っ張らなかったり、本島から捜査に来た警部と対立せず案外打ち解けちゃったりなど、クリーヴスの作品は嫌らしさがなく、程よく良心的な設定なので大変好感が持てます。おかげで地味ですけど。いや、地味なのが良いんですよ。クリーヴス作品を「地味」という時には、心の底からの愛情が含まれます(笑)
この出来の悪い部下君サンディはイライラ感をちょっとだけ誘うのですが(ちょっとってのがまたヌルい)、第三作を読んだ後では、何と言うか生温かい目で見守ってやろうかな、という余裕が心に生まれます。作者はどの程度シリーズ構成を考えていたのでしょうか。

まぁつまり、あれですよ、現代本格の傑作です。皆さん、ぜひクリーヴスを読みましょう。たぶんジム・ケリー好きと、相互の需要があるのではと思っています。訳者さん共に玉木亨さんだしね。
そういや前回は、ある点について追記でグチグチ書いたのですが、今回は全く気になりませんでした。そんなに文句を言うほどのものでもないよな、というのが今の感想です。

書 名:大鴉の啼く冬(2006)
著 者:アン・クリーヴス
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-13-1
出版年:2007.7.27 初版
    2007.11.16 3版

評価★★★★★
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