俳優パズル
『俳優パズル』パトリック・クェンティン(創元推理文庫)

出色の脚本を得て名プロデューサー復活の狼煙を上げるはずが、誤算続きのピーター・ダルース。忌まわしい噂のある劇場をあてがわれ、難点だらけの俳優陣を鼓舞してリハーサルを始めたが、無類漢の乱入に振り回されたあげく死者まで出る仕儀と相成った。真相究明か興行中止の憂き目に遭うか、初日は目前に迫っている!謎解きとサスペンスの興趣に満ちた、パズルシリーズ第二作。

傑作。大傑作。何と言うかもう、当然のように傑作。
……というのは、創元から文庫で出た50年前から言われていることですが。いずれにせよ今年読んだ(大して読んでないけど)新刊本格ミステリの中では断トツです。

長らく入手困難の筆頭かつスーパー傑作として語り継がれてきた『俳優パズル』ですが、ここ数年の東京創元社さんによる採算を度外視(いや別にそんなことは)した一部の古典ファン向け古典復刊ラッシュにより、ついに新刊で手に入れることが出来たのでした。迷走パズルの復刊からわずか5ヶ月ですよ、すごい。今年は8月に論創海外ミステリから『巡礼者パズル』も出たというのに。なんですか今年は、「パトQイヤー」ですか。だからみんな買ってあげましょう。

えーっと、話が一向に始まりませんね。

とにかくあらすじを読んで如しの物語なのですが、前作で精神病院から無事退院することが出来た元アル中(しかしアル中に戻る可能性高いのでくれぐれもお酒禁止)であるピーター・ダルースが、愛しい恋人アイリスと共に舞台を成功させようと奮闘するのです。ちなみに終始ピーターはアイリスとイチャイチャしているので、これはいわゆる自分(だけ)の言うところの「イチャミス」に当たります。いやぁ、微笑ましいですね。にやけちゃいますね。中盤の「アイリス」「アイリス」「アイリス」のシーンとか最高ですね。

手掛かり・伏線といった端整さはそれほどでもないですが、物語として非常に面白いんですよ。縺れ合った事件が次第にほぐされて行く様が、これぞ本格!って感じでぞくぞくします。作者上手いなぁと思わせるのが、劇団員は皆優秀で、脚本も素晴らしい出来栄えで、と、舞台上にいる大半のものが舞台の成功に向けて一心同体であること。これにより、「まぁなんか事故っぽい殺人らしきものが起こっているけどとりあえず気にすんなまずは舞台の成功だろ」的雰囲気が漂うことになります。もうこの時点で既にお話として十分面白いじゃないですか。
さらに、前作でアル中から立ち直ったかに見える主人公ピーターが危ういのも物語の味付けにピッタリ。アイリスとの結婚話が再三出て来ますが、執拗に結婚を迫る(なんだこいつ羨ましいな)アイリスに対して、ピーターは、「いや俺またいつアル中に戻るかわかんないし」とうじうじ言って結婚に踏み切れないのです。そして……うわこの終盤の展開かっこよすぎでしょ。それにかこつけて犯人提示を引っ張りまくるパトQさん、イジワルこの上ない。そしてこれが怒涛のラストシーンを生むことになるわけですね……うぅっ、お見事。泣ける。

本格ミステリとして評価すると、犯人特定プロセスは意外と甘め……です。が、これがとっても良いんだなぁ。特に、某人物に関しては絶対これ○○トリックだろと思わせつつ実は○○で無意味かと思いきや○○の面で一気に意味が現れるところなどは感心。さらに関係ない要素がぐちゃぐちゃ絡んでいて何かこう楽しいのです。
メインとなる事件(殺人事件など)に、無関係な思惑や偶然が加わったことで事件の全貌が非常に見えにくく、最終的に一つ一つ明かされることでカタルシスを感じられるミステリ、を、勝手に「『ナイルに死す』型本格ミステリ」と呼んでいるのですが、『俳優パズル』はまさにそれ。これは超好みですよ。「『ナイルに死す』型ミステリ」であることだけでなく、動機の隠し方とミスディレクションの生かし方なんかを見ると、『俳優パズル』は非常にクリスティっぽい作品だ、という印象を受けます(クリスティっぽいが何かとか聞かないでくださいね、頼みますから)。


というわけで、良いものを読ませてもらいました。昔からよく見ているミステリ感想サイトの2つでベタ褒めしていたので期待大でしたが、いやーこれは満足です。どこをとても文句のつけようがありません。海外本格好きはぜひぜひ。いや別に決して感動オチやハッピーエンドに弱いとか、そういうんじゃなくてですね。


おっと、ひとつだけ注意を。絶対そうしろと言うわけではありませんが、このパズルシリーズは、初期二作に関しては一切ネタバレなしで、順番に読んだほうが断然面白いはずです。特に第一作を読む前には、あらゆる情報をシャットダウンすることをおすすめします。ある一点において『迷走パズル』はなかなか意想外な驚きをもたらしてくれるのですが、『俳優パズル』を読んだあとではそれを味わえなくなるのでもったいないんですよね。ま、『迷走パズル』もべらぼうに面白いですから。

書 名:俳優パズル(1939)
著 者:パトリック・クェンティン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-4-7
出版年:2012.9.28 初版

評価★★★★★
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