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『濡れた魚』フォルカー・クッチャー(創元推理文庫)

1929年、春のベルリン。ゲレオン・ラート警部が、わけあって故郷ケルンと殺人捜査官の職を離れ、ベルリン警視庁風紀課に身を置くようになってから、一ヶ月が経とうとしていた。殺人課への異動を目指すラートは、深夜に自分の部屋の元住人を訪ねてきたロシア人の怪死事件の捜査をひそかに開始するが……。今最も注目されるドイツ・ミステリが生んだ、壮大なる大河警察小説開幕。(本書あらすじより)

ドイツの警察小説。ま、ぱっと聞いた感じ、そこまで食指をそそられるほどのものではありません。

さて、上巻読了時のtweetがこちら。↓

『濡れた魚』上巻読了。中盤からすごい勢いで伏線を張りまくっていて楽しい。1929年が舞台だが、あんまりナチスっぽさとか感じられないので暗くもない。主人公のラート警部はラート警部でとんでもない数の死亡フラグを立てまくっているけど、なぜか破滅臭がしないので心臓の弱い自分も一安心。

↑と、このようにベタ褒めです。うーむ、読んでみないと分かんないもんですね……。

さて、『濡れた魚』ですが、これは好きです。とっても好きです。えーと、出版社の上巻あらすじではネタバレを避けてほとんど具体的な話をしていないんですが……要するに、死亡フラグを立てる名人・ラート警部が、死亡フラグを回避しようとしながらひたすら死亡フラグを立てまくる話……かな(そうか?)。舞台はナチス全盛期前のドイツだし、冒頭はいきなり大変な感じで始まります。にもかかわらず、陰欝さ・悲惨さ・嫌らしさがほとんど感じられないのが嬉しいですね。

前半は地味で地道な単独捜査ですが、ここでバラ撒かれた伏線が怒涛の勢いでこねくり回されひねくり回されるのが、本格ミステリふぁんとしては(?)楽しいことこの上ないです。無意味に多い登場人物を『荒涼館』レベルでリサイクルしまくるという読者サービスは、モロ好みでした。まぁ、このリサイクルにすら無意味感が漂うのもある種『荒涼館』っぽいと言えなくもないかな……伏線の妙ですね。伏線ですらないのもありますが。
というか、自分は冒頭のあの仕込みに見事に騙されたのですけど、冷静に考えて引っ掛かったのって自分だけなんじゃないですかね……ってかむしろ引っ掛けですらないんじゃないかな……。
で、きっちり伏線を張り、回収しながら、物語は壮大な“ドタバタ劇”へと発展していくのです。シリアスだし、深刻だし、かなりでかい社会の裏が相手なのですが、どことなくラート警部の行動のせいで“ドタバタ劇”と言いたくなる緩さがあるのが、なかなか面白いですね。ドイツとロシアの関係や、当時の軍部・警察の様子が生き生きと描かれており、読者を飽きさせません。

しかしこれなら上下巻という分量にも納得。ラストはもうちょっとひねって欲しかったですが、十分楽しめたので良しとしましょう。ちなみに最後、ラート警部の行動がある人物(端役中の端役なのがまたグッド)と重ねられるよう出来ていますけど、これがとっても皮肉で良いですねー。案外、クッチャーさん笑いを取るのが好きなのでは?
全体的に、かなり満足。良質な警察小説って良いですね。いやー、楽しませてもらいました。オススメです。

ちなみに主役のラート警部、この後も引き続き主人公として登場するようです。第一作が1929年、第二作が1930年、で、1936年(だっけ?)まで続くんだとか。おぉ、これは楽しみです。
しかし、「答える必要があるのか?」「まあね、俺は刑事だ!(ドヤァァ)」とかただの一般人相手にやっちゃうあたり(セリフは本文ママ)、このラート警部とかいうの結構かわいいですね。ラート警部が、「あー今晩誘われちゃったし彼女と寝たいわー、超可愛いわー、でも今日も単独捜査やりたいから無理だわー」とか言っちゃうあたりに、ドイツ人らしい妙なクソ真面目っぷりを感じました……偏見かな?(笑)

書 名:濡れた魚(2007)
著 者:フォルカー・クッチャー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-18-1、Mク-18-2
出版年:2012.8.31 初版

評価★★★★☆
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