街中の男
『フランス・ミステリ傑作選1 街中の男』長島良三編

フランス・ミステリ短編のアンソロジー。非常に珍しいですね。あとがきによれば、刊行当時(1985年)世界で唯一の仏ミスアンソロジーだったそうです。ホンマかいな。
自分もこんな文庫が存在するとは知らなかったんですけど、ミス連の合宿で「フランス・ミステリが読みたい!」というと、皆さんいろいろ教えてくださって、まぁその中に入っていたわけですね。第二短編集もあるのですが、なぜかそっちはおすすめされなかったという(笑)

せっかくなので、その時おすすめされたフランス・ミステリをここにまとめてメモっておきましょうか。こんな感じです。

パスカル・レネ『三回殺して、さようなら』(創元)
フランス・ミステリ傑作選1『街中の男』(HM)
モーリス・ペリッセ『メリーゴーランドの誘惑』(ポケミス)
ユベール・メンテイエ『悪魔の舗道』(ポケミス)
ドミニック・ルーレ『寂しすぎるレディ』(ポケミス)
トニーノ・ベナキスタ『夜を喰らう』(HM)
ジャン・ヴォートラン『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』
A.D.G『病める巨犬たちの夜』『おれは暗黒小説だ』(ポケミス)
フランシス・リック『危険な道連れ』(ポケミス)
フレデリック・ダール『甦る旋律』『生きていたおまえ…』(文春文庫)


さて、で、この『街中の男』ですが、クライム・サスペンスからユーモアまで、多彩な短編が収録されており、誰もが絶対にどれかは気に入るのではないかと思います。収録されているメンバーもそうそうたる面子。ただまぁ、思ったよりおとなしめで、「うぉぉぅ!!」ってのは少ないかもしれません。所詮短編なので、長編ほどのインパクトが与えられない、ということなのかな?とはいえ、外れはほぼないので、ま、フランス風のおしゃれな文章に浸りたい人向けの、軽めの読み物といったところでしょうか。

以下、個別に感想を。マイベストは……じゃ、シムノン「街中の男」。次点はダール「悪い遺伝」かな。なお、発表年が解説に載っていません。調べて分かったものは記載しましたが、あっていないかもしれません。


「街中の男(L'homme dans la rue)」ジョルジュ・シムノン(1939)
メグレは5日間かけて疑わしい男を尾行する。住所を知られたくない男は家に戻れず、所持金は減るばかり……。
傑作選だからもちろん初っ端から傑作。この男とメグレのつかず離れずの関係が泣かせるんだなぁ。メグレが渋く、かっこいいです。シムノンらしい一編かと(シムノン1冊しか読んでいないけど)。

「犬(Le Chien)」ボアロー/ナルスジャック(1962)
四輪馬車を異様に怖がる館の巨犬の話。
真相がちょっと物足りないので、もっとホラー味を増した方が良かったかも。これだけではちょっと単調です(長いしね)。とは言え、ラスト1行の明るい残酷さは秀逸。デカくて獰猛な「犬」をこうキャラ付けするのって、案外珍しいかも。

「トンガリ山の穴奇譚(Le Mystere de Trou-du-pic)」カミ(1926発表短編集収録)
ルフォック・オルメス物。深夜のホテルに響き渡る艶声は誰の仕業か?
……という、実にしょうもないユーモアミステリ。正直、どうということのない真相(ちょっとギャグ成分足りない)なので、何も期待せず笑いを楽しむのが吉かと。出来はやや落ちる方かなぁ。

「見えない眼(Les yeux ?teints)」スタニスラス・A・ステーマン
盲人ホーム連続放火事件の真相とは。
わずか9ページであるせいか、特に何も感じないまま読み終わってしまいましたね……。非情な真実……を演出したかったようで、まぁ確かに痛ましい話なんだけど、「ふーん」となるだけのような。あと探偵役不要?

「七十万個の赤蕪(Les 0000 radis roses)」ピエール・ヴェリ(1937)
とある出版社に、七十万個の赤蕪の注文承りました、という手紙が野菜商から届く。ただの冗談かと思いきや、やがてとある事件が……。
こういうの良いですねぇ。非現実感漂う軽妙なクライムノベル。作者に自虐的なところがあって面白いです。

「羊頭狗肉(Tout etait faux)」フランシス・ディドロ
真っすぐな何もない道で起きた交通事故、その真相とは?
本格推理というより、皮肉な結末を楽しめる短編。程よいユーモアとさりげない感情描写により、ありきたりなオチに上手い味付けがなされています。タイトルの二重三重の意味が良いですね。

「悪い遺伝(Heredite chargee)」フレデリック・ダール(1958)
息子が殺人者になるというジプシーの占いを信じた素直過ぎる男は……。
4ページ。わずかこれだけですが、いやぁ、これは素晴らしいですよ。定められたレールを進むかのような展開と、予想通りかつそのちょっと斜め上を行く皮肉なオチ。息子の言葉が実に効果的です。

「壁の中の声(La voix dans le mur)」ミシェル・グリゾリア
湯舟に浸かっていた男は、壁の中から声が聞こえることに気付き……。
うん。うん。うん?ごめんなさい、さっぱり意味が分からないです……。えぇと、幻想小説的な何か(としか言えない)。

「つき(La main heureuse)」ルイ・C・トーマ(1958)
頼まれた分と合わせて2枚のくじを買ってきた男。
……ってあらすじだけでもう何か面白そうじゃないですかー。どうオチを付けるのかと思いきや……なるほどねー、上手いっ。これぞ「皮肉」の極み。あまりの運の悪さについついニヤッとしてしまいます。フランス人って、なんていやらしいんでしょうね(褒めてます)。

「殺人あ・ら・かると(Meurtre a la carte)」フランソワーズ・サガン
ヴェニスに来ている二組の夫婦。そのもつれた愛憎関係が……。
四人の設定が賢い……と最初は思ったんですが、この短編集の中でこのオチはやや肩透かしでしょうか。っていうかミステリじゃないですね。心情を書き込むには短すぎたかな、という印象。
この短編集のラスト2つ、サガンとモロワはミステリ作家ではなく文学作家で(寡聞にしてわたしゃ聞いたこともないんですけど)、ミステリ的な試みの作品を収録してみた、ってところらしいですが、うーん、まぁそんなもんでしょうか。

「自殺ホテル(Thanatos Palace Hotel)」アンドレ・モロワ(1960?)
株で全てを失った男のもとに、自殺を助けるという「自殺ホテル」からの手紙が……。
意外性はないものの、ストレートかつ捻くれた展開が非常に面白いですね。不必要に多い登場人物が案外上手に配置されています。何となくパーカー・パインっぽいような(ダークなパイン?)。サガンと比べて、こちらはきっちりミステリ仕立てかと。まぁタイトルからして楽しそうだけど。

書 名:フランス・ミステリ傑作選1 街中の男
編 者:長島良三
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 102-1
出版年:1985.4.30 1刷

評価★★★★☆
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