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『リヴァトン館』ケイト・モートン(RHブックス・プラス)

老人介護施設で暮らす98歳のグレイスのもとへ、訪れた新進気鋭の映画監督。1924年に「リヴァトン館」で起きた悲劇的な事件を映画化するため、ただひとりの生き証人であるグレイスにインタビューしたいと言う。グレイスの脳裏に、70年間秘めていた「リヴァトン館」でのメイドとしての日々が鮮やかに蘇る。そして、墓まで持っていこうと決めたあの悲劇の真相も。死を目前にした老女が語り始めた真実とは……。滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた、ゴシックの香り漂う美しいミステリ。(本書あらすじより)

翻訳ミステリー大賞シンジケート千葉読書会用に読んだものです。まぁ、たぶんそうじゃなきゃ読まなかったでしょうねぇ。
今回は、ちょっと趣向を変えて、サークルの部誌に載るはずだった『リヴァトン館』のレビューをアップします。深い意味はないです。



 2009年に出た単行本を文庫化したもの。
この本のジャンルは何なのだろうか。ミステリ? ゴシックロマンス? 歴史? しかし、いずれかのジャンルの作品だと思って読み始めると、かなり不満足に思うのではないか。少なくとも、あらすじに謳っているように「ミステリ」だと思って読み始めることはちょっとお勧め出来ない。
 誤解しないでもらいたいが、『リヴァトン館』は大変面白いし、楽しめる作品だ。いわゆる「ジャンル越境型」の小説であり、「こういう作品」と一口でまとめられないところにこそ魅力がある(盛り込みすぎとも言えるが)。『忘れられた花園』が翻訳ミステリー大賞を受賞したことで、同作者のこの作品に対する注目が上がったというのは大変喜ばしいことだ。

 物語は、1998年、98歳になる老婦人グレイスによる過去の回想という形で進行する。彼女が思い出すのは、1914年から1924年、リヴァトン館のメイドとして仕えていた頃の自分である。由緒正しい貴族の家系が、第一次世界大戦を経て、次第に没落していく様を、そして1924年にお屋敷の方々に起こったある悲劇の恋物語を、大河的に描いていく。主軸となるのは、グレイスの出生の秘密と、グレイスしか知らない1924年の事件の真相だ。
 ただ、信じられないほどベタに、予定調和的に、予想通りに話が進むため、意外性は皆無に等しい。一応最後にそれなりの伏線が回収され、後味の悪い(ただし苦味はない)ラストが示されるが、それだって驚きとはやや別次元の話である。もしこの小説のあらすじを他人に語って聞かせるとすれば、何そのくだらないロマンスは、つまらん、で終わってしまうだろう(というかそう言われた)。

 しかし、この小説を読む上で、あらすじなんか何の意味もないのだ。グレイスの出生とか湖の悲劇とか、はっきりいってどうでもいいのである。それよりも「お仕事小説」的な側面が強いし、そちらの方が俄然楽しめる。下階の住人(=使用人)達が、この時代にいかなる仕事をしていたのか、時代が進むと共にどのように変わっていくのか――これこそ、本書の肝であろう。厳格だが常に安定した冷静さを見せる執事のミスター・ハミルトン、いつもグレイスの、いや使用人全体のおっかさん的存在で在り続ける料理人のミセズ・タウンゼンド、先輩らしくお姉さん風を吹かすメイドのナンシー……彼らはグレイスの“家族”であり、帰るべき“家”となってくれる(たとえ彼らが死んでしまった後、1998年の現代においてもだ)。「使用人」という、今では理解できない「尽くすもの」という職業は、グレイスにとっては当然でも、我々にとってはやや理解しがたい。そんな人々が、困難な時代を越えて生きる様が非常に魅力的で、読者を大いに惹き付ける。
 もちろん(と付け足しになってしまうが)、上流階級の人々の暮らしも生き生きと描かれている。特に下巻ではロマンスがたっぷりと描かれ、それだって十分に楽しめる。ただ、あんまりそればかりを期待して読むのも、ちょっと違うと思うのだ。ミステリでもなければロマンスでもない。描かれるのは、「リヴァトン館」という壮大な家族の物語だ。様々な角度から「物語」の面白さを伝えてくれる作品……そういった意味では、非常に贅沢な小説なのかもしれない。



えーっと、ちょっと褒めすぎです(笑)正直、そこまでのめり込んだとは言い難いのですが……「ミステリ」成分はかなり薄めで、それを期待して読ませたのがちょっと問題かなぁ、とは思います。
と、今日はこれで。ま、たまにはこういう感想でもいいかな、と。

書 名:リヴァトン館(2006)
著 者:ケイト・モートン
出版社:武田ランダムハウスジャパン
    RHブックス・プラス モ2-1、モ2-2
出版年:2012.5.10 1刷

評価★★★☆☆
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