死の相続
『死の相続』セオドア・ロスコー

ハイチに住む実業家が死に、屋敷には七人の相続関係者が集められた。「私の遺体は丘の上に深く埋め、棺には杭を打ちこむこと。財産は第一相続人にすべてを譲る。ただし、第一相続人が二十四時間以内に死んだ場合、第二相続人が権利を得る。第二相続人が二十四時間以内に死んだ場合には第三…」と奇妙な遺言が読み上げられる。遺言書をなぞるように屋敷では相続人が奇怪な死を迎えていき、そして最後に残された第七相続人に……。息詰まるサスペンスと驚天の仕掛けで読者を奈落に突き落とす黄金時代の異端児による怪作がついに登場。(本書あらすじより)

最近ただでさえ更新ペースが落ちていたのに、とうとう一週間放置ですよ。これはひどい。見に来て下さる方、本当に申し訳ありません……。
えー、言い訳しますとですね、今週はテストが4つあるとか、日曜日は翻ミスシンジケートの千葉読書会に参加していたとか、サークル誌の企画責任者になってしまったせいで目の回るような忙しさだとか、いろいろあるんですが。はい、反省しています。

……というわけで、ほぼ1か月前に読んだ本の感想を今さら書くわけです。『死の相続』はもともと興味があったんですが、今回読むきっかけとなったのは、上記の企画が「そして誰もいなくなった」特集だった、ということに尽きるわけですね。関連本、ということです。あらすじを見ても、全滅っぽそうですし。ただ、『そして誰もいなくなった』は1939年の作品ですが、『死の相続』は1935年の作品です。
で、読んだわけですよ。

断言します。『死の相続』は、怪作にして奇作にして大傑作です。素晴らしいの一言。個人的にはどストライクです。いやもう、楽しいことこの上ない作品でした。

舞台がハイチ、BGMがハイチのヴードゥー教式葬式ミュージック〈太鼓をドンドコドンドコ24時間叩き続ける〉、という時点ですでに何かずれています。集まった遺産相続人が、主人公のヒロインをのぞいて、全員殺人者クラスの危険人物だ、というのを読んだ時点で、TYは確信しましたよ、これは頭おかしいと(笑)いやもう、こんなに胡散臭い容疑者がぞろぞろ出てくるミステリ、読んだことないですよ……。

そして遺産を争い、相続人が立て続けに殺されていくわけですが、殺される状況と言い、ドカスカ上がり込んでくるハイチ憲兵隊といい、もうセンスが最高です。一人なんか密室殺人ですからね、えぇ(このトリックは、実はカーの某作に通じるところがあるわけですが、その某作より発表年が前と来てますから、ロスコーさんの才能には並々ならぬものがあります)。ハイチ憲兵隊は、もちろん黒人で、主人公たち白人を鼻っから疑っているのでアメリカに帰してくれないのです。何と言う新手のクローズドサークル。
……ところが途中から、帰してくれないではなく、帰れなくなってしまうのです。吊り橋が落ちるとか、嵐が来るとか、そんな生易しい理由ではありません。なんと、ハイチの山賊(カコ)どもがゾンビに率いられて反乱・革命を起こしており、危険なので外に出られない、というのです。いやもうあり得ない展開。当時のアメリカ人はゾンビなんて知りませんから、「し、死者が蘇るって何よ?」という意味不明に目を白黒。読者としても、何でここでゾンビが出てこなきゃいけないんだと笑いが止まりません。

とにかく展開がハチャメチャで、ばたばた人が殺されていると言うのに陰鬱さはなく、といってギャグっぽいというわけでもないんですが、一種異様なノリに満ち溢れています。雑誌連載だとかで毎話盛り上げなきゃいけなかったんだとか。うぅん、それでゾンビか……。
しかし、舞台がハイチであることや、主人公が画家だと証明するため絵を書かされる場面など、意味不明なノリに全てきちんと意味がある、というのがこれまた驚きです。実際、途中からどう収拾をつけるのか読者は興味津津なわけですけど、恐ろしいことに、収拾がつくんですねー(笑)本格ミステリとして無理のない合理的な答えがきちんと導き出されます。いやはや、ロスコーさん、あなたは天才ですか……。


というわけで、異常なテンションで読み終え、無駄な充足感で一杯になった傑作でした(しかし勧めにくいのはなぜなんでしょう)。一読の価値ある怪作です。こうなると他の長編もぜひとも読みたいですね。出版社さん、期待しています。

書 名:死の相続(1935)
著 者:セオドア・ロスコー
出版社:原書房 ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ
出版年:2006.11.2 2刷

評価★★★★★
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/827-837fa42c