名探偵に薔薇を
『名探偵に薔薇を』城平京(創元推理文庫)

始まりは、各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは途方もない毒薬をつくった博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であり、ハンナ、ニコラス、フローラの三人が弔い合戦の仇となって、めでたしめでたし、と終わる。やがて童話をなぞるような惨事が出来し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床に「ハンナはつるそう」という血文字、さらなる犠牲者……。膠着する捜査を後目に、招請に応じた名探偵の推理は?名探偵史に独自の足跡を印す、斬新な二部構成による本格ミステリ。(本書あらすじより)

さて、皆さんは覚えているでしょうか……去年4月から6月にかけて行われた「大学生になったんだし主要な作家の国内ミステリくらいは読んでみようぜ」企画を!って、そんな大したものではなくて、毎月一冊新本格を読んで勉強しよう、というものでした。『十角館の殺人』『月光ゲーム』『法月倫太郎の功績』と来て、次の課題本が『名探偵に薔薇を』、というところで、やめてしまったのでした。月1ですら国内ミステリを読むのが面倒くさくて。うぅむ。

ということで、今年再びその計画が始動です。「国内ミステリど素人が月1で新本格を読むよー!」企画の第一弾は、モチロン去年頓挫した『名探偵に薔薇を』。折しも城平京が『虚構推理』で本格ミステリ大賞だか何だかを受賞しているのでタイミングはバッチリです。ちなみにこの一連の企画の課題本は、サークルの先輩が選んでいるわけですが、4回目にして城平京というのは好みの押し付けに他ならないと思います。
まえがき長い。

さて、読んでみましたが……
とりあえずすんごい話でした。ちょっと前まで、作者、変ななまえー、とか言っててなんかもうホントごめんなさい(『月光ゲーム』を読んだ時も同じこと言った気がする)。いえ、マンガ『スパイラル』は読んだので名前は知っていたんですが。

この小説、全二部構成となっていて、あらすじの内容は第一部です。派手な事件を扱う第一部を「動」と規定するなら、第二部はまさに「静」といった感じでしょうか。
「動」たる第一部は、水準以上の出来ではありますし、面白いのですが、実際問題かなり普通です。トリックもそこまで捻ったものではないし、犯人の「裏」の狙いはどこかで見たことがあるようなもの(自分は「金田一少年」を思い出しました)。また、容疑者がほとんど限定されてしまっていることや、犯人が○○○○を持っている時点でストーリーの方向が定まってしまっていることにより、意外性という面では極めて微妙とすら言えます。

ところが「静」たる第二部はまさにどんでん返しのオンパレード。悲劇性が前提となるような状況の事件。ひっくり返るごとに悲劇味は増し、名探偵は「真相」によりどんどん追い詰めていくのです。この進行・見せ方が実に上手いんですよ。読者は適度に驚きを感じつつ、衝撃的なラストに連れて行かれるわけです。

この二部構成の上で極めて重要なファクターとなるのが、第一部の語り手である三橋荘一郎です。読者が共感せざるを得ないほど実に素晴らしいキャラクター。いや、実際、第一部を読み終わったときの感想は、ミステリ云々というより、「三橋さんマジかっけぇ」という感じです。この人の使い方がお見事。第一部ではほとんど印象を残さない「名探偵」瀬川みゆきが第二部の語り手ですので、第二部は彼女に持って行かれる感は強いですが、それもこれも三橋さんがいるからこそ。うぅむ、こういう人大好きなんですよ。

あくまで「探偵」を描くことを目的としたミステリですので、最終的な真相に読者が気付ける可能性はぶっちゃけほぼ皆無かもしれません。しかしながら、上質な本格ミステリを読まされたかのような、心地良くも寂しい読後感は非常に印象的です。なるほど、こりゃみんなが褒めるのも分かります。


ただ……ここからは完全に個人的な好みの問題ですが、実を言うと、自分は「苦悩する名探偵」というテーマに対して途方もないほど興味がわかないんです。読んでいて醒めてしまうというか。本書のようにバッチリ過去エピソードを盛り込めば説得力は増しますが、究極的にはやはりどうでもいいっちゃどうでもいいんです。クイーンのライツヴィルを読んだ時にも同じことを書きましたね、たしか。
例えば、これは同じ土俵で論じること自体がそもそもおかしいのは分かっていますが、本書に登場する瀬川みゆきが『オリエント急行の殺人』の探偵役だとしたら、『オリエント』の価値は大きく落ちるわけじゃないですか。探偵さぁん、そこらへん要領よく臨機応変にやって下さいよぉ!とか考えてしまう……時点で、後期クイーン問題を扱った本を読むな、ということですね、はい(笑)


えー、ダラダラ書いてしまいましたが、いずれにせよ、「傑作」と呼ばれる作品であることは間違いないですし、「名探偵」という存在を語る上で欠かせない一作でしょう。読んで損はしないはずです。

書 名:名探偵に薔薇を(1998)
著 者:城平京
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mし-1-1
出版年:1998.7.24 初版
    2012.4.20 7版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/826-83c46622