迷走パズル
『迷走パズル』パトリック・クェンティン(創元推理文庫)

アルコール依存症の治療もそろそろ終盤という頃、妙な声を聞いて恐慌をきたしたピーター。だが幻聴ではなく療養所内で続いている変事の一端とわかった。所長は言う――ここの評判にも関わる、患者同士なら話しやすいだろうから退院に向けたリハビリを兼ねて様子を探ってもらいたい。かくして所長肝煎りのアマチュア探偵誕生となったが…。パズルシリーズ第一作、初の書籍化。(本書あらすじより)

初パトQです。パズルシリーズの噂は前から聞いていましたが、実際に読むのは始めて。傑作中の傑作と名高い第2作の『俳優パズル』も追って復刊されるとのことで、喜ばしい限りですね(最近の創元はクラシックの復刊が盛んで素晴らしい)。
で、『迷走パズル』ですが、非常に楽しめました。これはお勧めです。もうね、捜査パートが読んでいて異常に面白いんですよ。

まず設定自体がなかなか珍しいですよね。今後もシリーズ探偵として活躍することになるブロードウェイの演出家ピーター・ダルースは、アル中から立ち直るため精神病院で治療中なのです。序盤ではまだアルコール依存から抜け出ていないのか、看護師に対して暴れたりもしています。ある意味、いきなり訳の分からん主人公で、読者としては、まぁ嬉しいことです(笑)
事件発生とともに好奇心から頭が正常になったダルースは(こういう展開は、いかにも黄金時代らしく”殺人”の深刻さをスルーしていてまたグッド)、精神病院の数あるヘンテコ患者の中でもまともより、ということで素人っぷりを盛大に発揮しつつ捜査を進めていくのですが、これが読んでいてとっても楽しいんです。美人看護婦さんに憧れる医者やら患者やら隠れた姻戚関係やらがボロボロ出て来るわで人間関係が極めて複雑、しかも舞台が”精神病院”という半閉鎖空間であることがその奇妙さを一層際立たせています。

実際問題、ミステリとしては極めてお粗末なんですよ。トリック……というものがあるかどうかさえそもそも微妙なのですが、はっきり言って誰も感心しないし関心を持たないのではないでしょうか。
ところがその真相の提示の仕方、つまりフーダニットとての側面が、ちょっと見ないような見事な出来映えです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、普通、後半のこういう展開になると、読者は、あぁまさかこいつがね、という予想をすると思うんですよ。ところが作者はその裏を突くどころか、さらにその裏すら突いてしまうんです。極めて王道的な展開でありつつ、意外性の演出に成功しています。少なくとも自分はぶったまげました。こういうシンプルな捻りって良いですね。

ちなみに、ダルースと、同じく患者であるアイリス・パティスンとの恋模様も描かれます……って、「ダルース夫妻」のシリーズである以上アレなんですが、こちらも青臭くて面白いですよ。というか、ダルースがシリーズ探偵だ、ということが分かっている方が、本書は十二分に楽しめるのではないかという気もします。

……と、まとまりなく書いてしまいましたが、ぜひご一読を。クラシックミステリのファンであれば、読んで損はないはずです。ただし何度も言うようですが、トリックには期待しちゃダメですよ(笑)

書 名:迷走パズル(1936)
著 者:パトリック・クェンティン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-4-8
出版年:2012.4.27 初版

評価★★★★☆
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