藤田先生のミステリアスな一年
『藤田先生のミステリアスな一年』村瀬継弥(東京創元社)

田舎の小学校、六年一組の担任だった藤田先生は、不思議な魔法で子供たちの心をつかむ授業をした。あれから三十年、大人になった一組の同窓生達は、藤田先生の魔法の謎を解き明かそうとすることに。華麗なマジックの陰に隠された藤田先生の一年間の秘密とは?第6回鮎川哲也賞佳作(本書あらすじを大幅に改変)

この1ヶ月以上、「日常の謎」ミステリを延々と読まされてきたわけですが、やれやれ、もう嫌んなっちゃいましたよ。何が人が死なないミステリだようんざりだ。
……が、ついに!これは良い!って作品に会えました。それがコレです。

まず面白いのは、本格ミステリとしては構成が破格であることです。第1章で、三十年前に藤田先生が起こした魔法の数々が、回想の形をとって次々と語られます。いわば、解決編のないミステリ短編を5つ読まされた感じ。
続いて、第2章以降は、舞台が現代となります。大人になった教え子達は、入院している藤田先生を訪問したり、同窓会を開いたりして、藤田先生がかつて起こした魔法のトリックを見抜こうとしていくのです。そしてそれと共に、主人公は、藤田先生がなぜそんな授業をしたのか、その謎の答えを知ることになります。
言うなれば、短編集を崩し、それに味付けすることで長編にした、という感じでしょうか。個人的には、なかなか楽しい趣向だと思います。

この藤田先生が実に良いんですよ。一見実現不可能なことを、様々なトリックを駆使することで、まるで魔法のように起こしていき、生徒達に教訓を与えていきます。単に手品をしているわけではなく、魔法によって教育をし、魔法によって問題を解決していくんです。いいなぁ、こんな授業、自分も受けてみたかったです。
この魔法が、ほのぼのとした語りと相まって、非常にメルヘンチックな雰囲気を作中に作り出しています。最後に語られる事実はかなり現実的なことなのに、やはりこの雰囲気に包まれ、のどかで独特な世界が浮かび上がってくるんです。まるで現実世界ではない、おとぎの国の話を読んでいるかのような感じがあり、この点、作者の筆はなかなかのもんではないでしょうか。

不可能犯罪(犯罪じゃないけど)のトリックは、一点集中型の手品的・パズル的なもので、作者がいかに本格物を好んでいるかが良く分かります。トリック自体はたいしたことないっちゃないんですが、それを用いる状況というか、演出が実に上手いせいで、読者は、まさに藤田先生に魅せられてしまうんです。
そして最後に、藤田先生の謎が明かされます。これは別に手がかりがあるわけではなく、最後に語られるだけですが、良い話だな、と素直に感じました。感動物です。ちょっと狙ってる感が強い気もしますが、そんなこと気にしちゃやってられん。


ただ、ある意味、この本は好き嫌いが大きく別れるような気がします。というのも、藤田先生の授業が、何というか、いかにも理想主義的過ぎるというか、一言で言えば説教臭いわけです。自分は別段気になりませんでしたが、人によっては鼻につくんじゃないかと思います。ま、でも、良いじゃないですか、理想論でも。

もう1つの問題点は、デビュー作ということもあり、人物描写が極端に苦手だ、ということでしょうか。例えば登場人物の見た目についてはほとんど書かれていないし、生徒達の区別はほぼ皆無です。ま、この辺は次作に期待、でしょうか。

とにかく、読み終わって心が温かくなるような、素晴らしい一冊でした。東京創元社は文庫化すべきです。単行本で絶版だなんてもったいない。

書 名:藤田先生のミステリアスな一年(1995)
著 者:村瀬継弥
出版社:東京創元社
出版年:1995.9.20 初版

評価★★★★★
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