笑酔亭梅寿謎解話
『笑酔亭梅寿謎解噺』田中啓文(集英社)

上方落語の大看板・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさせられた、金髪トサカ頭の不良少年・竜二。大酒呑みの師匠にどつかれ、けなされて、逃げ出すことばかりを考えていたが、古典落語の魅力にとりつかれてしまったのが運のツキ。ひたすらガマンの噺家修業の日々に、なぜか続発する怪事件!個性豊かな芸人たちの楽屋裏をまじえて描く笑いと涙の本格落語ミステリ。(本書文庫版あらすじより)

いやー、面白かった!こんなにノリの良い短編集は久しぶりです。

とにかく読んでいて無駄にテンションが上がります。例えば主人公・竜二が弟子入りする梅寿師匠。70歳以上ですが元気はつらつ、というか元気すぎてただの暴力じじい、花瓶をぶん投げるわ殴るわ蹴るわ、酒は飲んでつぶれるわ、とろくなところがありません。そのくせ、落語をやらせりゃ天下一品。聞く人全てを虜にするような噺の出来る大物なのです(うぅむ、何か思い当たる人が……)。

そんな梅寿師匠は、事件が起こると、思いつきのままに口出しして勝手に推理を始めますが……いえねぇ、この人、探偵としての能力はゼロなんです。タイトルからして師匠が探偵役だと思っていたのに何たる変化球。当然ですが周りにいる人はだんだんシラッとしてきてしまう。梅寿ピーンチ!
……と、そこに出てくるのが、主人公の竜二君。彼ははっと真相をひらめくのです。そして、師匠のもとに駆け寄り耳打ち。梅寿「な、なんやと!……ま、そんなことやろうとは思とった。よし、竜二、わしにかわって説明せい」というわけで、師匠の代弁という形で謎解きを始める竜二……って名探偵コナンかよ(笑)

ちょっと目次を見てみましょうか。

「たちきり線香」
「らくだ」
「時うどん」
「平林」
「住吉駕籠」
「子は鎹」
「千両みかん」

見れば分かる通り、落語の演目名となっています。各話で起こる事件は、まさにその落語の内容にどことなく類似したものとなっており、この結びつきが絶妙なバランス。というか、演目から事件を考えているんでしょうね、たぶん。良く出来ています。
そしてだいたいの事件は人情話として締められますが、これもそれぞれがいいエピソードなんですよ。前述の通りむちゃくちゃな梅寿師匠ではありますが、最後、犯人を一喝したり諭したりし、犯人も反省、読んでいる側は思わずほろり。
……と書くと、いかにもベタというか、狙った感があるようですが、特にそういう嫌らしさなく読めます。作者の文章力によるものでしょうか。

もっとも、事件自体にはそこまでページ数が割かれていません。むしろ、主として上方落語界の生き生きとした活気や、その中でだんだんと落語に染まっていく竜二の成長が、流れるような関西弁に乗せて書かれています。実は竜二は、落語家として天才的な才能を持っているのです……なにその設定都合良すぎ。こういうベタさって、読んでてやっぱり嬉しいもんですねぇ。
ちなみに単行本の表紙の竜二は、キテレツというか、とんでもない風貌ですが、文庫版(タイトルは『ハナシがちがう!笑酔亭梅寿謎解噺』)はトサカ頭とはいえイケメンです。イメージとしては単行本の方が近いかな。売れるかはともかく。

なんかまとまりのない文章になってしまいましたが、読んでいてここまで楽しめる本は久々です。いやはや、続きを読むのが楽しみですね、これは。

書 名:笑酔亭梅寿謎解噺(2003~2004)
著 者:田中啓文
出版社:集英社
出版年:2004.12.20 1刷

評価★★★★☆
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