靴に棲む老婆
『靴に棲む老婆』エラリー・クイーン(創元推理文庫)

靴作りで巨億の財をなして《靴の家》に住む、老婆と六人の子供たち。この一家に時代錯誤な決闘騒ぎが勃発、エラリーらの策も虚しく、不可解な殺人劇へと発展する。”むかし、ばあさんおったとさ、靴のお家に住んでいた”――マザー・グースの童謡そのままに展開する異様な物語。狡猾な犯人の正体は?ナンセンスな着想と精妙な論理が輝く、風変わりな名作!(「生者と死者と」改題)(本書あらすじより)

〈クイーン強化月間〉第2弾。読んでいる途中に読書スランプに突入したせいで、1週間もかかってしまいました。前回読んだ『災厄の町』には勝てませんが……いや、どうなのかなぁ、こっちの方がマトモなミステリではあるし。とにかく、佳作と言うか、予想以上に面白い作品でした。とはいえ、べた褒めしているわけではないというのが、自分とクイーンの微妙な距離感なのではないかと(笑)

クイーンの傑作群の中では、取り立てて有名な作品と言うわけではありません。中期の作品も、『災厄の町』『フォックス家』『十日間』とかがまず名前が出てくるのが普通……のような気がしますが。エラリー・クイーン・ファンクラブのランキングでは10位だということですが、1~9位に比べてどうにもインパクトが弱いようです。つまり、所詮10位。

で、なぜなのかなぁと考えると、やっぱりこの作品が初期クイーンらしい作風でありながら、ロジック・推理の面では到底初期クイーンには勝てていないから、なのでしょうねぇ。偏屈なババアの支配するキチガイ家族、マザー・グースなど、題材自体はまさに『Yの悲劇』、というよりはヴァン・ダインの『僧正殺人事件』にそっくりです。前作『災厄の町』で見せたような心理描写は抑えめで、あくまでフーダニットに徹しているとい感じ(そのせいかキャラクターも結構ステレオタイプ的というか、単に1つの属性を与えられたのみ、という感じ)。とはいえ推理自体はそれほどでもなく、やはり一般に言われる傑作と比べて見劣りするというのも分からないではありません。

が、しかしこの作品、そんなに中途半端でしょうか。まず読んで思うのが、圧倒的な読みやすさです。とにかく物語としての面白さ。この点、やはりクイーンは上手くなったんだなぁと。国名シリーズや『X』『Y』の単調さと比べて、この作品は実にファンタスティック、どことなくおとぎ話めいた世界に読者は引き込まれるのです(これを出来なかったことが『僧正』の最大の弱点かな)。
さらに、確かに推理自体はちょっとなし崩し的なところがあり、最後も土壇場で証拠を出すってどうよ、という気もしますが、決め手となる証拠、これはなかなかいい点をついているのではないでしょうか。少なくとも自分は、ほぇ~、っと感心しました。これしかないじゃんと言われるとそれまでですが(例えばピストルの件とかはやっぱりいい加減だし)、そこは上記の物語的面白さがカバーしているということで。
その物語的面白さを支えるのが、二重三重と繰り返すどんでん返しでしょう。残りページの分量からまさかこれで終わらないだろうと分かってしまうと言えば、えぇもうそれまでですけど(笑)この点も初期クイーンからの進化と言えるのではないでしょうか。単に事件を起こして、ロジックからただ解く、というだけではなく、ストーリーとしての厚みを持たせるために、読者の興味を飽きさせない仕掛けを入れる、ということです。

と、ここまで、クイーンにしては珍しくべた褒めです。いや、最初の80ページくらいまではちょっとしんどかったんですよ。出たなキチガイ家族、出たなキャラが濃い割に深みのない登場人物たち、出たなマザーグース、あぁもうやだこの展開→スランプ、というわけです。が、読み終わってみると、うぅむ、結構良いんじゃないか、これ。

というわけで、もしミステリ初読者に何か古典本格を勧めるという場合、クイーンに関して言えば、例えば『エジプト』よりも『靴に棲む老婆』の方が、読みやすさの点からいって良いのではないかなぁと思いました。現実問題として自分はクイーンよりクリスティを勧めると思いますが(笑)

なお、この本はNさんからお借りしました。ありがとう!

書 名:靴に棲む老婆(1943)
著 者:エラリー・クイーン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-1-12
出版年:1959.9.25 初版
    2002.12.20 54版

評価★★★★☆
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