フィデリティ・ダヴの大仕事
『フィデリティ・ダヴの大仕事』ロイ・ヴィカーズ(国書刊行会)

妖精のようにキュートな女怪盗のフィデリティが、大勢の手下を使って大胆な犯罪を実行!!悪徳商人やスコットランド・ヤードを手玉にとっての大活躍。「ハウダニット」を楽しめる短篇集。倒叙ものの名作『迷宮課事件簿』(ハヤカワ文庫)で知られるイギリスの作家、ロイ・ヴィカーズが〈迷宮課〉執筆前に刊行した『フィデリティ・ダヴの大仕事』。ミステリ・ファンに人気が高い1冊を初邦訳。(本書あらすじより)

ちなみに表紙は、海外ミステリ史上トップクラスのカッコいいものではないでしょうか。たぶん。

ヴィカーズと言えば「迷宮課」ですが、まぁ「迷宮課」シリーズって、趣向としては面白いけど、退屈なものも多いんですよね。2つ短編集は読みましたが、単体で読むならともかく、一気に読む向きではないかなぁ、と。ちなみに短編「百万に一つの偶然」は超絶傑作ですが。

ところが打って変わって、この『フィデリティ・ダヴの大仕事』の抜群の面白さです。何なんだヴィカーズ、あんた退屈な話しか書けないんじゃなかったんか。ってか迷宮課より前の作品ってどういうことだよ。
このシリーズは今回初めて知ったんですが、その魅力は何と言っても「楽しい」という単語に集約されるように思います。もうただただ愉快な物語。しかも、訳のおかげもあるかもしれませんが、1924年刊とは思えない新鮮さがあります。全く古臭くないんですよね(内容自体は昔のコメディっぽいとはいえ)。コミック化・アニメ化しても売れるんじゃないでしょうか。ってかアニメ化して。

話としては、美少女(決して美女ではない)フィデリティ様が、自分を崇拝している大勢の手下を駆使して、悪どく金を稼いでいる金持ち達から大金を巻き上げる、というものです。美術品を盗むときもありますが、詐欺・ペテンで騙し取るような話の方が多いかもしれません。毎話趣向を凝らしており、さらっと読める良短編集でしょうね。
フィデリティが大悪党だというのを、スコットランド・ヤードはちゃんと知っているということになっています。ってか住所まで知っています。レーソン警部補とはもはや顔見知りで、彼は何とか彼女を捕まえようとはするんですが、結局証拠がなくてダメ、というわけ。この二人の関係が何とも面白く、逮捕したいと同時にその天才っぷりに尊敬しているレーソン警部補が、どこかフィデリティを応援しているように思える話があるというのが、こう、何ですか、いかにも読者好みな感じ。この警部補さん、やっぱり後々迷宮課に飛ばされるんでしょうか。迷宮課ではジョージ・レイスン(George Rason)警部となっていますから、昇進したのかな。迷宮課に行くこと自体はめちゃくちゃ左遷くさいですけど。ちなみに警部補時代の方がキャラが立ってる気がします。

肝心のフィデリティですが、常に灰色の地味な服装を身にまとう超絶美少女で、21歳前後、純真無垢な態度を装う様はまさに天使のよう、しかし実は全て演技で,実はちょっと小悪魔……ってか悪魔入ってるんじゃなかろうかという曖昧さ、崇拝する信者多数、女の子達にはお姉様と呼ばせるという、なんというか、めちゃくちゃ魅力的で、完全に二次元キャラとなっています。帯の「何でも盗んでさしあげますわ」ってのは……なんかキャラ違くないですか?うぅん、やっぱりアニメ化して欲しいなぁ。
彼女の部下で、何度も登場する人は結構いるんですが、一番面白いなと思ったのがサー・フランク・ロートン。彼自身は部下でもなんでもなく、彼女に心酔してもおらず、ただフィデリティの顧問弁護士というだけですが、薄々(いや絶対)正体に気付いています。そして彼は法に反することは大っ嫌いだと思うんですが、法的には問題の無いフィデリティの手法をどことなく面白がっており、いっつもチョイ役で登場するんですね。何とも上手いキャラ設定。

というわけで、結構楽しめる短編集でした。12しかないというのが本当に残念です。

以下個別に簡単な感想を。

「顔が命」
フィデリティ初登場。まずは宝石を盗みますが……。
この話でいきなりフィデリティは警察に顔を知られてしまいます。入れ替えトリックが意外に良く出来ていますね。相手の知られたくない部分を上手く使っているのがグッド。ってか逆に、どうやってその弱点を知ったんですか。

「宙吊り」
フィデリティの次なる宝石強奪を防ごうと、レースン警部補は奮闘するが……。
でた、いきなりアニメ目前ぶっとび手段です(笑)レースン警部補がただただ哀れ。
最初読み終わって、アレどうやって盗んだんだ、と頭に入らなくてあせりました。そんなに複雑じゃないんですけどねぇ。あまりにもサラッと読めてしまうせいかな……いえ、単に理解力不足です。

「本物の名作」
フィデリティに騙されかけていることに気付いたサー・ルーファスは、彼女を捕まえようと一計を案じるが……。
何とも小気味良い盗み方。ジャック・リッチーの傑作「誰が貴婦人を手に入れたか」に何となく似ているような。

「偽造の定番」
フィデリティは、愛する地元を守ろうと、その風景を盗むことに……。
かなり荒っぽい手段ですが、相手を陥れようと複数の罠を仕掛ける様がなかなか上手いです。別に風景を盗むわけじゃないんですけどね。土地全体を守ろうと、容赦なく屋敷をぶっこわすフィデリティ様、さすがです。

「ガルヴァーリー侯爵のダイヤモンド」
ガルヴァーリー侯爵に同情したフィデリティは、彼のものであった宝石を取り返そうと……。
こういうストーリーは好きですねぇ。最後が何とも美しいじゃないですか。盗む方法は案外ムリヤリですが。

「貴顕淑商」
ある大手の食品会社の給料があまりに安いことに憤慨したフィデリティは……。
何とも手痛い仕打ち。しかし、目的といいその方法といい、フィデリティの手段の多彩さが伺われます。

「一四〇〇パーセント」
高い利子をつけて金を巻き上げる金貸しに対して……。
いかにもな詐欺、って感じですね。この男もかわいそうだな……。やたらとパーセントを連呼していましたが、いまいち何でそれにこだわるのかがよく分かってなかったり。

「評判第一」
名声を重んじ女を捨てた男に対しフィデリティは……。
相手を陥れようとするフィデリティの方法が面白すぎます。ヴィカーズの発想はなかなか独創的ですね。ちゃっかりお金も巻き上げてるし。

「笑う妖精」
自分の持っている美術品が偽物だと裁判で争うも、当然のように敗訴してしまうフィデリティ。その目的とは?
見え見えの展開ではありますが、これがまた何とも気持ちのいい展開です。今回は義賊というより単なる詐欺ですね。

「ことわざと利潤」
ある薬品の効果を知ったフィデリティは、それを用いてタペストリーを盗もうとするが……。
前提として、フィデリティの一味は余裕で何度でも盗みに入れる、となっている点がいかにもこのシリーズらしいですね。彼女の手段は、いかに正攻法で騙すか、ということですから。

「ヨーロッパで一番ケチな男」
そのケチな男に強制的に慈善をさせるべくフィデリティは……。
この短編集の中では地味目かなぁ。

「グレート・カブール・ダイヤモンド」
あるダイヤモンドを盗もうとしたフィデリティは、誰もが見る中そのダイヤモンドを正攻法で自分のものにしようとしたが……。
いくら何でも被害者が現金すぎる(笑)この結末は、つまり、作者はフィデリティシリーズをこれで終わりにするつもりだった、ということなのでしょうね。盗み出す方法は……ま、これはレーソン警部補さん、お気の毒様、というところ。アメリカ人のおばちゃんがやたらと無神経に描かれている気がしてなりません。

書 名:フィデリティ・ダヴの大仕事(1924)
著 者:ロイ・ヴィカーズ
出版社:国書刊行会
出版年:2011.12.21

評価★★★★☆
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