災厄の町
『災厄の町』エラリイ・クイーン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

結婚式の前日に姿を消したジムが三年ぶりに突然戻ってきた。彼の帰りを待ちわびた許婚のノーラと結婚し、二人は幸福な夫婦となった。そんなある日、ノーラは夫の奇妙な手紙を発見した。そこには病状の悪化した妻の死を知らせる文面が……これはわたしを殺害するための計画か?美しい三人の娘を持つ旧家に起こった不思議な毒殺事件。架空の町ライツヴィルを舞台に、錯綜する謎と巧妙な奸計に挑戦するクイーンの名推理!(本書あらすじより)

めちゃくちゃ今さら感強いですが、『災厄の町』です。いいんです、これから1ヶ月はライツヴィル月間なんですから。1冊おきにクイーンでいきます。たぶん。

で、『災厄の町』です。素直な感想を言いますと、まず感心しました。今まで国名シリーズと『X』『Y』しか読んでいなかった身としては、こんなにストーリーが面白いミステリをクイーンが書けたのか!という驚きでまずいっぱいです。例えば『エジプト』とか、確かに自分の中では星5つレベルの面白さでしたが、じゃあ大好きかと言われると、うーん、なんですよ。理由はシンプル、何か退屈。これです。ロジックはグレイト、ヨードチンキなんかグレイトォォォ、でも何か退屈。だからある意味、ミステリとしてはアレでも『シャム双生児』が面白いわけで。

んがっ、ここで自分が声を大にして言わなくったってみんな知ってることですが、『災厄の町』は明らかに退屈のタの字もない。これは、延々と語られる人間関係でただただ読ませる物語なのです。話の筋としては、ある計画が明らかに→ある人物が死ぬ→ある人物が疑われる、だけ、という非常にシンプルなものなのですが、これがとにかく面白い。だいたい人が死ぬのが100ページ以上という時点で、謎解きオンリーミステリから逸脱しているわけです。

ミステリとしての観点、つまり犯人の意外性という点では、確かに少々物足りない嫌いはあります。というのも、誰かが疑われている場合、読者の思考としては、
①そいつは実際に犯人だけど、何らかの隠された理由によって黙っているに違いない
②ってか犯人じゃない
しかないわけで、そして読者の期待を裏切るのがミステリだ、という方向性で考えると、これはもう犯人が分かっちゃう可能性大です。ただ、そもそもそういう観点から読むこと自体がちょっと違ってきているわけですよね。また、動機の面ではある程度巧妙であり、そして『災厄の町』は、トリックなんかではなくその動機を描くためにのみ大半が費やされているわけですから、これはもう文句を付けるわけにはいかないでしょう。
この作品が、人間を描いたクイーンの最高傑作だ、と言われるのと、そりゃないだろう、もっと上は目指せるはず、とは思います。例えばサブのキャラクター達の書き込みがちょっと甘いかな、とか。ただ、ある意味一本しか道筋のない単調な物語を、人間感情を細かくえぐりだすことでこれだけ魅力的に語ることのできるクイーンは、やっぱり凄いですよね。傑作だと思います。

なお、エラリイ・クイーンは、真相を語るのに悩み苦しむ、従来の神懸かった探偵ではなくなった、なんて感想をよく見かけます。まぁ、その通りだとは思いますが、その点については特に何も思わず読了してしまいましたね……。というのも、真相を語ってはいけない場合に語らない、というのは、ある意味当然じゃないですか。そもそもそういう方針の、何て言うんですか、悩める探偵が書かれたミステリはそれまでにもいっぱいあるはずです。えぇっと、何があったかな、パッと思いつくのでは、古典的大大大傑作、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』(1913)とか。そもそもクイーンの作品の中で数少ない自分が読んだものの中でも、『Y』とかそうじゃないですか。あまりその点を騒ぐ必要はないと思うんですが……。

書 名:災厄の町(1942)
著 者:エラリイ・クイーン
出版社:早川書房
    ハヤカワ・ミステリ文庫 2-12
出版年:1977.1.31 1刷
    1998.10.15 26刷

評価★★★★☆
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