というか、既訳の長編を全て読んでいる作家って、コリン・デクスターとマーサ・グライムズしかいないんですよね、よく考えたら。アガサ・クリスティはミステリなら全て読んでいるんですが、普通小説に手を付けていないし……。

というわけで、マーサ・グライムズですよ、マーサ・グライムズ!どっかで布教しておかないと、いつまでたっても自作の翻訳が出ないかもしれないですし。

以下、ある種の「マーサ・グライムズ入門」的な駄文を、たぎる熱意のままに並びたてましたので、興味がある方はぜひ読んでみてくださいな。
とにかく自分はグライムズ作品が好きでして。なぜか1作目を読みだしたのを皮切りに、ががががっっとシリーズを追いまくったもんです。布教のためなら、自分の持ってる本、貸すどころかあげても構わんぜよ。しかしこんなに面白いのに、全部絶版、新たな翻訳の兆しはなし、文藝春秋に聞いても予定はないと来た。これはイカン。ということで、1つ、ペンを取って……いや、キーボードをたたいて見たのです。


グライムズはアメリカ人ですが、おそらくイギリス(の田舎)が大大大好きで、その好きが高じて、なんとイギリスが舞台のミステリを書いてしまったのです。彼女、アメリカでは大人気で、今年はMWA巨匠賞を(なぜか)取ってしまいましたが、イギリスではホンットに人気がないようです。登場人物がアメリカ英語だとか、地理がおかしいとか、なんじゃこりゃイギリスじゃねぇなめとんのかコノヤロ、というわけですね。もちろん我々は日本人ですから、日本語で読めばそんな心配は必要ナッシング!です。たぶん。

で、まずはリチャード・ジュリー警視が主人公のシリーズの長編のタイトルを以下にだだっとあげてみます。いずれも翻訳は文春文庫。

『「禍いの荷を負う男」亭の殺人』The Man With A Load Of Mischief(1981)
『「化かされた古狐」亭の憂鬱』The Old Fox Deceiv'd(1982)
『「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察』The Anodyne Necklace(1983)
『「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶』The Dirty Duck(1984)
『「エルサレム」亭の静かな対決』Jerusalem Inn(1984)
『「悶える者を救え」亭の復讐』Help The Poor Struggler(1985)
『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』Deer Leap(1985)
『「独り残った先駈け馬丁」亭の密会』I Am The Only Running Footman(1986)
『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』The Five Bells and Bladebone(1987)
『「古き沈黙」亭のさても面妖』The Old Silent(1989)
『「老いぼれ腰抜け」亭の純情』The Old Contemptibles(1991)
『「乗ってきた馬」亭の再会』The Horse You Came In On(1993)
『「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影』Rainbow's End(1995)

さあ、どうです、この珍妙なタイトルは。どれも、その物語の中で頻繁に登場するパブの名前です。イギリスにはワケ分からん名前のパブが多いんですねー。というわけで、これらは通称〈パブシリーズ〉なんて呼ばれたりもします。一説によると、グライムズファンの間では、このタイトルを全部覚えることが趣味になっているとか(笑)
全部ではありませんが、物語のパターンは大体同じです。とりあえず地方で殺人事件が起こり、地元の警察がくそぉーとなる中、スコットランド・ヤードのリチャード・ジュリー警視(2作目までは警部)が呼ばれるわけですね。英国ミステリの王道パターンです。

グライムズの作品は、なぜかたまに「コージーミステリ」として紹介されているのですが……はい、ここでまず断言しておきますが、マーサ・グライムズの作品群は、決して「コージーミステリ」ではありません!マジです!
確かに1作目は、そういう分類に放り込むことが出来なくはないと思いますが、3作目以降は確実にコージーではないですね。グライムズ作品の最大の魅力の1つに、物語全体に漂う、何となく物悲しい空気があります。基本明るいんです、もちろん。暗くはないですし、登場人物の会話で読ませる系なんですが、例えばいかにもムーア!っていう雰囲気とかがそこはかとなくあるんですよ。たっまーにですが、バッドエンドらしきものまであります。なかなか他の作家さんには見られない特徴です。

ミステリとしては、普通に本格ミステリに分類できると思います(後期に入ってくるといくつかアレ?ってのもありますが)。探偵役は、まずは先ほど述べたジュリー警視!初登場時は40くらいでしょうか。とにかくモテます。羨ましいです。本人は別に女ったらしでも何でもなく、むしろ女性運はひたすら悪い方ですが。穏やかな人柄で、容疑者とでもすぐに打ち解けることが出来るようです。
イギリスの警官は、リアルでは知りませんが、2人組捜査が基本です。ジュリー警視と行動を共にするのはウィギンズ部長刑事。あらゆる持病とアレルギーを抱え、常に咳止めドロップを始めとする健康食品を持ち歩く病弱男。巻を追うごとにますます健康オタっぷりが強くなっているような。気のせいかな。読者は必ずこの男のファンになること間違いなし。

そしてもう1人、ジュリー警視の捜査に協力する探偵役がいるのですよ。こっちも主役です。主役2、です。その名もメルローズ・プラント。元貴族です。有閑階級です。オールウェイズ暇人です。なななんとこのお方、爵位を返上してしまったんですよ。なぜだかは……読んでいても分かりません(笑)
基本的に陽気で、ジュリーの手伝いをちょこちょこします(暇人だしね)。何で一般人が出てくるんだよというツッコミは一切禁止。ジュリーとメルローズが初めて出会ったのは第1作『「禍の荷を負う男」亭の殺人』です。事件の舞台となった村が、メルローズの住む村だったんですねー。メルローズは基本的にジュリーの親友ですが、あまりにモテる友人に時たまイラッとしているようです。テメェもモテるじゃねーかこの自覚なしニブチン男が。

その他、ジュリーの上司やらその秘書やら、彼の住むフラットの住民やら、メルローズの住む村の住民やらがシリーズを通じてちょいちょい登場します。こうなるとキャラクター小説といっていい気もしますが、もちろんミステリとしての枠組みは(真ん中くらいまでなら)ちゃんと出来ているのでご安心を。しかし、シリーズキャラクターが多いので、出来れば順番に読んでいって欲しいものです。
と言われても、13個もタイトルを出されても困る、という意見多数でしょうから、独断と偏見に基づいて、これとこれを読めばいいんじゃない?というセレクト&見どころ紹介をします。わー大変だ―。


◇『「禍いの荷を負う男」亭の殺人』
「禍いの荷を負う男」亭の殺人
とりあえず第1作ですよ。これを読んで、あ、面白そうかも、と思った人は、たぶん大丈夫です。絶対ムリ、という人は……えぇと、もうひとつくらい読んでくれると嬉しいなー。
この作品は、シリーズの例外的に(って初っ端なのに)終始暗くないです。最後の犯人を捕まえるシーンとか、なんかこう、コージーっぽいと言われても仕方ない気もします。この事件の舞台となる村の住民は、今後もちょこちょこと話に出て来るんですね、これが。何といってもメルローズのお屋敷があるわけですし。
なお、この作品に登場するメルローズの叔母さんがウザくてしょうがないというあなた………えぇ、分かります分かります、大丈夫です、この後の作品にはそんなに出ませんから安心してください。

◇『「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察』
「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察
第3作です。ネロ・ウルフ賞を受賞しました。いつの間にかジュリーは警部から警視になっています。実は第2作のラストで警視就任を受け入れているんですが、まぁ大した問題ではありません。この作品でスタイルが確立したように思います。
事件の解決のカギとなるある証拠、これは日本人にはちょっと無理なものですが、総じてミステリとしての出来が大変良い作品です。田舎とロンドン、2つを結ぶ事件の真相は、ちょっぴり物悲しい、悲劇的なものでした。って、そんなに深刻な空気はないので、そういうの苦手、という人はそこでどん引かないで下さい。


ここでいくつか飛ばします。なお、シリーズに興味を持って全部読みたいという方、大変結構ですが、1つだけ注意しておくと、第4作『「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶』……これは、えと、読まなくていいです。失敗です。第4作なのに、翻訳が11番目くらいだったのも、つまらないからでしょうか、分かりませんけど。


◇『「悶える者を救え」亭の復讐』
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ハードボイルド刑事、ブライアン・マキャルヴィ刑事初登場です。地方で頑張っています。彼は熱いです!熱い!熱い!ってか暑苦しい!でもいいやつ!ウィギンズとの掛け合いとか面白い!そしてジュリーと仲良いなあんた!っていう人です。
個人的にはラストのインパクトがかなり大きいです。視覚的に訴える面もあるんでしょうね。シリーズの中でもお気に入りです。


次の『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』は、面白いんですが、あるポイントのせいでここでは割愛。好きな人は好きらしいですよ、この作品。自分も好きですし、ラストのセリフはおそらく人生で一番心に残っているセリフじゃなかろうかと思うんですが、ちょっとね、悲しすぎる……。ちなみに今作から、ジュリーのアパートの上の階に、キャロル=アン・パルーツキーという、スタイル抜群のかわいすぎる女の子が住み始めます。この子は最高です。いい加減、何かジュリーと起きないものか。

その次の『「独り残った先駈け馬丁」亭の密会』は……ラストの意味がいまだに良く分からないので、誰か教えてください〈泣)

さて、次の必読書は、

◇『「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』
「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁』
この頃からグライムズ作品はページ数がガリガリと増えていきます。前作がうっすいだけにその感じがよけい強いような。
この作品では、第1作の舞台となった村:ロング・ピドルトンが再登場します。それだけでもテンションがあがるというのに、ミステリとしてもかなり上出来です。いいぞいいぞ。

◇『「古き沈黙」亭のさても面妖』
「古き沈黙」亭のさても面妖
おそらくグライムズ作品の中で1,2を争う傑作だと思われます。だからと言ってこれから読んでも……いや、意外と大丈夫なのかな……。
全体的に「ロック」を基調としていますが、その底の何とも言えない物寂しい空気がたまりません。

◇『「老いぼれ腰抜け」亭の純情』
「老いぼれ腰抜け」亭の純情
同じくグライムズ作品の中で1,2を争う傑作だと思われます……あくまで主観では。登場するじじいばばあ達が非常に魅力的。ミステリとしても良く出来ていて、そしてラスト……あぁ、これはもうなんか。


この後の2作は、なぜか舞台がアメリカとなります。まぁ、ファンだけでいいと思いますよ、これを読むのは……。そんなに良く出来ているとは思いませんし。アメリカ人がイギリス人を主人公にアメリカを舞台にした小説を書くのはいかがなものかと。

その他、邦訳のあるグライムズ作品に、ノンシリーズの『桟橋で読書する女』という、ちょっと変わったミステリがあります。一通りジュリー警視シリーズを追って、グライムズに飢えてしまったという人にはオススメです。ある意味、こういう作品の方が、一般受けするのかもしれませんね。分かりませんが。


こんなところでしょうかねぇ。すみません、説明がヘタクソで。つまらなそうに感じたとすれば、それは説明が下手なのであって、元の作品がつまらないわけではないです。ホントです。
ことごとく絶版ですが、まぁ興味を持った方は、古本屋さんで見かけたら買ってみて下さい。自分の知り合いであれば、言ってくれれば貸しますから。読んでみて面白くなかった、と言われても、当方責任は負えませんのでご了承ください(笑)

いつの日か、またマーサ・グライムズの新刊が日本語で読める日が来ますように……。とりあえず自分は、積ん読になっている洋書を……えぇと、頑張ってみます……。
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