殺人は広告する
『殺人は広告する』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

火曜日のピム広報社は賑わしい。広告主が週会議に訪れ、数々の爆弾を落としていくからだ。ことに厄介なのが金曜掲載の二段抜き半ページ広告。こと時ばかりは兵揃いの文案部も鼻面を引き回される。変わり者の新人文案家が入社してきたのは、その火曜日のことだった。前任者の不審な死について穿鑿を始めた彼は、社内を混乱の巷に陥れるが……。流行と消費の最先端、ロンドンの広告代理店の風俗を闊達に描く本書は、見事な探偵小説でもある。ピーター卿が真相に至るや無数の挿話が一つの構図に収斂するたくらみの深さは、正にセイヤーズの真骨頂。(本書あらすじより)

セイヤーズの作品の中でも、『ナイン・テイラーズ』に次いで傑作の呼び声の高い本書ですが、まぁその通りだと思います。これは素直に面白いです。
……と同時に、非常に”セイヤーズらしくない”作品であると思います。異色作、と言ってもいいかもしれません。

そもそも最初から、ピーター卿が登場しません。犯罪自体も、何だか麻薬密輸組織とか絡んできて妙に俗っぽいし、バンターはほぼ姿を消しています。
じゃあ一体何が書かれるのかと言うと、とにかくピム広報社の内情が描かれるわけですね。セイヤーズ自身が広告会社に勤めていただけあり、その様子は極めてリアル……というか、カオスです(笑)誰も仕事してない印象しか受けないんですけど、いいのかこれで。
そしてこの雰囲気がとっても楽しいんですよ。セイヤーズ作品は何はともかくユーモアが特徴ですが、たまにそのユーモアが妙に間延びしてしまってます。中だるみしやすいんですよね。その点、そのユーモラスかつファンタジックな空気と、ミステリとしての側面が、”セイヤーズ的には”非常にバランス良く組み合わさった本書は、作者の1つの到達点ではないかと思います。いつも以上にユーモア成分が強いとは言え、ある種そのおかげで、いつものように途中がちょっと退屈になったりはしませんでした。ひたすら「重厚」なイメージの強い(そんなことはないんだけど)『ナイン・テイラーズ』とは大きく異なりますね。

ミステリとして見ると……ところで最近気付いたんですが、セイヤーズにミステリとしての完成度を求めるのはちょっと違うと思うんですよね。つまり、そういうことです(笑)

そしてその、非日常的な、さっきも言ったようにファンタジックな空気に包まれたまま、物語は一種、奇妙というか、独特な結末にたどり着きます。通常であれば、こんな結末、さすがにどーかと思うんですが、そもそもこの物語自体がおとぎ話めいているため、あまり気になりません。そう言えば、セイヤーズ作品の犯人は、例えばクリスティなどと比べると、かなり同情的に描かれていることが多いですね(全部ではないですが)。

というわけで、とにかく「異色作」と言った趣きの強い一冊でした。セイヤーズ初読者に勧めるのはちょっとどうかと思いますが、セイヤーズを1,2冊読んで、面白いと思った人は絶対読むべきです。
ピーター卿シリーズは、残り3冊。全部ハリエット・ヴェインが出ているのは偶然です、はい。

書 名:殺人は広告する(1933)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 セ-1-9
出版年:1997.8.29 初版

評価★★★★☆
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