ブラッド・ブラザー
『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリイ(文春文庫)

きわめて知的で魅力的な青年ジェレミー。僕の兄にして連続殺人犯。彼が施設を脱走してニューヨークに潜伏、殺人を犯したという。連続する惨殺事件。ジェレミーがひそかに進行させる犯罪計画の真の目的とは?強烈なサスペンスに巧妙な騙しと細密な伏線を仕込んだ才人カーリイの最高傑作。ラスト1ページまで真相はわからない。(本書あらすじより)

ミステリランキング投票時期のため読みましたが、ぶっちゃけ自分はこの手の現代ミステリが嫌いです。何だって異常殺人やらサイコパスやら狂人やらグロい死体やらばっかりなのかしら。勘弁してください。

というマイナスイメージのもと読み始め、で、事実上記の通りだったわけですが、とある大事なことに読み始めてからようやく気付きました。そう、これはシリーズ物だったのです!(笑)シリーズを最初から読んだ方が面白いことは間違いないとは思います(何しろ今までの内容をひっくり返しちゃうわけで)が、読んでいないからと言って問題があるわけではありません。

とにかく登場人物が一人一人魅力的ですね。主人公のカーソンや相棒のハリー・ノーチラス(何て名前だ)もいいですが、今作で登場するNYPD(ニューヨーク市警察)のシェリー刑事が特に面白いキャラクターだと思います。とは言っても断トツに面白いのはやはり兄のジェレミーです。というか、この小説の主人公は実質的にジェレミーだと言っても過言ではありません。彼の頭の良さを示すエピソードが出てくる度に、読む側としては何だか嬉しくなってしまうわけですね、えぇ。これはもうキャラクターとして反則です。
ちなみにアリス・フォルジャー警部補の口調が何だか違和感を覚えるのは自分だけでしょうか?どうも喋り方が定まっていないような気がするのですが……。

そしてこれら登場人物の複雑な関係が、物語の後半に一気に見えてくるわけです。この辺りの伏線の置き方はさすがですね。ただまぁ、終盤に出てくる人物関係はややいきなりかなぁという気もします。ちょっと展開が急すぎるのではないかと。

とにかく、死体のグロさと犯人の性格の異常性さえ我慢できれば、本書は読み物としてはかなり面白いと思います。ハッピーエンド的な、と言っていいのか分かりませんが、この終わらせ方もなかなかかっこいいですね。「ラスト1ページまで真相はわからない」とあるのは……うぅん、あんまり期待しなくていい気もしますが。


と、ここまで好意的なコメントですが、いえ実際面白いことは確かなんですが、この小説、ミステリとしてはやや微妙、という印象が強いです。特に本格物と期待するのは間違っていると思います。もちろんカーリイがゼロ年代に翻訳された「本格ミステリ大賞」を受賞したのは第2作『デス・コレクターズ』な訳で(ちなみになぜか分かりませんが、読む前はずっと『ブラッド・ブラザー』が受賞したのかと自分は勘違いしてまして、しかも本格ミステリ作家クラブは海外の団体だと思ってました)、しかも自分は第2作を読んでないから何ともいえないわけです。おまけに文春さんはどこにも『ブラッド・ブラザー』が本格だと言っていないわけですから、こんな指摘そのものが的を得ていないのかもとも思っちゃうんですが、読書メーターの感想とかを見ていると、どうもこれを本格だと言っている人が少なからずいる気がするんですよねぇ。

すみません、これを語ると長くなるので、続きは追記に記します(ネタバレなしで)。


えぇと、なんかちゅうぶらりんな感想になってしまいましたが、まとめると、面白く、読んでいる間はかなりのめり込みましたし、サスペンス性と緻密な構成力は素晴らしいですが、あまり好みじゃないなぁと言ったところです、はい。

書 名:ブラッド・ブラザー(2008)
著 者:ジャック・カーリイ
出版社:文藝春秋
    文春文庫 カ-10-4
出版年:2011.9.10 1刷

評価★★★★☆


というわけで、『ブラッド・ブラザー』はミステリ的にどうなのよ?という話。

最大の弱点は、犯人の正体に関する伏線・手がかりがほとんどないことだと思います。まさに誰でもいいじゃん、という状態。エピローグでぱぱっと背景が語られますが、え、こんな簡単に済ましちゃっていいのかよ、という気がします。カーリイさんは伏線をちゃんと張ることが出来る作家さんのようですし、この作品の他の伏線を考えてみても、やはりもう少し練ってみるべきだったのではないでしょうか。
なお、終盤にいきなり重要になってくる某人物に関しては、許容できると思います。つまるところ、この人いきなり出てきちゃったよ、的なところがこの作品の魅力の1つでもあるわけですから、この人物に関してグダグダ言うのは野暮ってもんでしょう。サスペンス性を考えれば上手い使い方であると思います。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/684-2da207fb