サイダーハウス・ルール(上) サイダーハウス・ルール(下)
『サイダーハウス・ルール』ジョン・アーヴィング(文春文庫)

セント・クラウズの孤児院で、望まれざる存在として生を享けたホーマー・ウェルズ。孤児院の創設者で医師でもあるラーチは、彼にルールを教えこむ。「人の役に立つ存在になれ」と。だが堕胎に自分を役立てることに反発を感じたホーマーは、ある決断をする――。堕胎を描くことで人間の生と社会を捉えたアーヴィングの傑作長篇。(本書あらすじより)

アーヴィングは初めてですが、まずはユーモアあふれる彼の文章のかっこよさに惚れ込んでしまいました。この人の、何というかグダグダした、なおかつグイグイ引っ張る文章には、物語を読ませる力があります。必要そうな描写をすっ飛ばし(ちゅうちょなく歳月を飛ばす)、どうでもいいことに文章を割いてるんだからワケがわかりません(笑)また、( )とかダッシュとかを多用するかなり翻訳物らしい文体ですが、それがまた良いんですよね。ちなみにこの表現は良いなと思ったのがこれ。


「ううん」とメロニィは言い、するとミセス・グロウガンはいつものため息をついた――ほとんどうめき声(グローン)に近かった。それは彼女の綽名(あだな)になっていて、ミセス・グローンと呼ばれていた。彼女の威光は、女の子たちに、当人やお互いを傷つけるような真似をすれば、彼女を苦しめることになると思わせる能力にかかっていた。(上、p139)


さて、あらすじを見るかぎりでは、何だか「孤児」とか「堕胎」とか、重そうなテーマの本に見えるかもしれません。表紙を見るかぎりでは、何やらヘビだかウミヘビだかが出てくる、ちょっと気味の悪そうな話に見えるかもしれません(というか自分は思ってた)。
しかし、結論から言えば、この本、ものっすごく読みやすいです。小難しく考えてこの本を手に取る必要は全くありません。素直に物語を楽しみ、最後の大団円でほっこりする。そうした読書の喜びを与えてくれる傑作だと思います。ちなみにヘビは一度も出て来ません……この表紙は何なんだ?

孤児院とリンゴ農園という2つの舞台を中心に、登場人物が極めてごちゃごちゃと交わりあいながら話が進んでいくのですが、これが非常に面白いんですよ。伏線の張り方も、何だか読んでいて嬉しくなるようなものです。登場人物が全体的に良い人ばかりで、ただし何か妙に変な人なんですけど、こうしたキャラ付けも含め、アーヴィングの多重的な話の描き方はとっても上手いと思います。

タイトルがどういう意味か、つまり、ルールとは何たるかについて作者はいかに考えているのかということに関する真面目な議論は、訳者あらすじに書いてあるのでそちらをご覧ください。ただ訳者さんもおっしゃっている通り、あんまりね、余計なこと考えて読まなくて良いんだと思います。チャールズ・ディケンズを読むのに似ているかもしれません。小説というのは物語ありき、なんですよ。


ま、この話についてはグダグダ書くことはやめましょう。最後のちょっとご都合主義的な終わり方も含め、嫌な気分になることなしに終始おはなしを楽しめる一冊です。青春小説……と言っていいのかな?近いうちにまたアーヴィングの作品を読んでみたいと思います。あ、映画版も見てみないと。

書 名:サイダーハウス・ルール(1985)
著 者:ジョン・アーヴィング
出版社:文藝春秋
    文春文庫 ア-7-1
出版年:上 1996.7.10 1刷
       2000.5.10 3刷
     下 1996.7.10 1刷
       2000.4.10 2刷

評価★★★★★
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