夜鳥
『夜鳥』モーリス・ルヴェル(創元推理文庫)

仏蘭西のポオと呼ばれ、ヴィリエ・ド・リラダン、モーパッサンの系譜に列なる作風で仏英の読書人を魅了した、短篇の名手モーリス・ルヴェル。恐怖と残酷、謎や意外性に満ち、ペーソスと人情味を湛えるルヴェルの作品は、日本においても<新青年>という表舞台を得て時の探偵文壇を熱狂させ、揺籃期にあった国内の創作活動に多大な影響を与えたといわれる。本書は、渾身の名訳をもって鳴る春陽堂版『夜鳥』全篇に雑誌掲載の一篇を加え、ルヴェルに関する田中早苗の訳業を集大成する。忘れ難い仏蘭西の鬼才が感銘扼要の筆致で醸し出す妙趣と、彼に捧げられた斯界の頌歌をご堪能あれ。(本書あらすじより)


……というあらすじなら、みんなもっと手に取るんでしょうが、これは1ページ目にあるあらすじでして、裏表紙のあらすじはこうです。

仁術の士モーリス・ルヴェルは稀代の短篇作家である。面桶に慈悲を持つ輩、淪落の尤物や永劫の闇に沈みし者澆季に落涙するを、或いは苛烈な許りに容赦なく、時に一抹の温情を刷き、簡勁の筆で描破する。白日の魔を思わせる硬質の抒情は、鬼才の名にそぐわしい極上の飧饔である。加うるに田中早苗の訳筆頗る流綺。禍棗災梨を憂える君よ、此の一書を以て、萬斛の哀惋を掬したまえ。(本書あらすじより)

ま、ちょっとこれじゃあねぇ。1928年に出版されたものを元敷きにしているとはいえ、本文はとっても読みやすいです。

しかし、海外ミステリの翻訳史をちょっと調べてみると、ルヴェルが復刊されたというのがどれだけ奇跡的なことかとよく分かりますね。やはり東京創元社はただ者じゃあございません。


内容は、怪奇・恐怖・人情味・ペーソスの合わさった短編集で、ほとんどが10ページに満たない分量です。ポーよりは怪奇風味が薄く、また淡泊な語り口だと思います。つまり、全然堅苦しくも重苦しくもないということですね。恐怖とか言っといてそれでいいんかい、という意見もあると思いますし、まぁ確かに淡泊すぎる気もしますが、その分独特な文体になっていると思います。
これは訳者の田中早苗さんによるところも大きいでしょうね。古風な雰囲気のある、それでいて読みやすくリズミカルな文章に訳されています。

作品ごとに大きな差はなく、全体的に高水準だと思います。毎日一作のペースで読み進めていったのですが、毎話読むのがとっても楽しみでした。興味のある方は、戦前訳だとか気にせず、ぜひ読んでみて下さいな。


以下、一言ずつ感想を。それぞれのあらすじは本書の後書きでも見てください。31短編のうち、「幻想」「麦畑」「父」がマイベスト。他に「乞食」「ふみたば」「ペルゴレーズ街の殺人事件」「老嬢と猫」「情状酌量」「自責」……ちょっとあげすぎかな。


「或る精神異常者」
オチは予想出来ますが、それでも突き放した様なラストが印象的です。

「麻酔剤」
ラスト数行が良いですね。なぜこの医者はまだ医者なんでしょう?(笑)

「幻想」
素晴らしい!人情味あふれる話、独特のラストがいい味を出しています。

「犬舎」
後味の悪いラスト。何となくオチが見えます。

「孤独」
何と言うことのない作品ですが、主人公の心理描写に優れ、読まされる作品です。

「誰?」
何だかよく分かりません。

「闇と寂寞」
残酷な話ですね。募る危機感の描写が秀逸。

「生さぬ児」
嫌な結末です。最後のセリフが大きな転換を示しているのが印象的。

「碧眼」
これは皮肉な結末でしょうか。作者は女性不信でも抱えてるんですかねぇ。

「麦畑」
素晴らしい!非情なまでに淡々とした筆致とは対称的に、目に浮かぶような情景描写が味わい深いです。

「乞食」
作者の弱者に向ける視線を何となく感じます。なかなかの良作。

「青蠅」
こういうポー的なのはちょっと苦手。

「フェリシテ」
最後の1段落。何となく見える結末ですが、これがあるかないかで大きく違うでしょうね。

「ふみたば」
ルヴェルの作品の中では最も気の利いた小洒落た一品。こういう話は好きです。

「暗中の接吻」
うぉぉぉぉぉ、これは怖い。

「ペルゴレーズ街の殺人事件」
これは良いですね。一番ミステリ的……かな?深夜の電車の中であるという点が上手いです。

「老嬢と猫」
これも良いです。老嬢と猫の関係の変化、結末が何とも味わい深いです。

「小さきもの」
どことなくヒヤッとさせる話。心理描写に優れています。

「情状酌量」
良作。人情味あふれるって、こういう話でしょうか。ラストのひっくり返る感じが素晴らしい。

「集金掛」
この皮肉な感じは間違いなくあれ、星新一の作品です。星新一の「番号をどうぞ」と似たテーマを扱っていることが興味深いですね。

「父」
素晴らしい!いやー、ちょっとうるうるきちゃいました。細かい描写の積み重ねが、最後の場面を違和感なくしています。

「十時五十分の急行」
サスペンス味あふれる話。あまりルヴェルらしくないせいか、やや微妙……というか、違和感を感じるのかな?

「ピストルの蟲惑」
一人称であること、雰囲気がどこかポー的。

「二人の母親」
このテーマはよくあるネタですが、こういうオチを付けるのって珍しい気がします。

「蕩児ミロン」
どこか後味がスッキリしています。

「自責」
良作。話の二転三転する様がルヴェルらしくないというか。

「誤診」
こりゃまた怖い話です。両者共にやり過ぎなところが独特。

「見開いた眼」
うーん……ちょっとつまらん。

「無駄骨」
タイトルのせいで、この後味の悪さが意外性に乏しいのでは?

「空家」
うーん……ちょっとあっけない。

「ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海」
この短編集の中では異色作。やや長尺ですし(16ページもある)、オチに捻りが効いています。やられたっ、といったところ。


書 名:夜鳥(日本で編纂され1928年出版)
著 者:モーリス・ルヴェル
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mル-4-1
出版年:2003.2.14 初版

評価★★★★☆
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