ディーン牧師の事件簿
『ディーン牧師の事件簿』ハル・ホワイト(創元推理文庫)

八十歳を迎えたのを機に、長年務めてきた牧師の任を退いたサディアス・ディーン。愛犬のセントバーナード”プパドッグ”と好物のバナナプディングとともに、悠々自適の老後を送るはずだった彼のもとには、次々と不可解な殺人事件の謎が持ちこまれる。屋敷を相続した五人兄弟に降りかかる”足跡のない”連続殺人、密室状態のアパートから消えた狙撃者、教会で行われた聖餐式の最中の毒殺……牧師としての経験で培われた洞察力と人間への理解を武器にした、ディーン先生の名推理。アメリカのミステリマニアが日本の仲間たちへ贈る、六つの難事件。(本書あらすじより)

21世紀にもなって、ガッチガチの不可能犯罪物が出たというのは驚きですが、それをちゃんと訳してくれた東京創元社さんにはほとほと頭が下がります。ありがたやありがたや。

で、要は80歳のおじいちゃんがですね、不可能犯罪である必然性が皆無に等しいゴリゴリ物理トリック多用の不可能犯罪をばったばったとなぎ倒していく短編集です。まー、よく考えつきますね、こんなトリック。作者の好きな日本のミステリ漫画の1つに『金田一少年の事件簿』が挙げられているのをみると妙に納得。カーとの関連性も言われているみたいですが、オカルトっぽさは皆無ですので、やはりホックの系統ではないかと思います。

ただ、トリック自体は正直イマイチ……いや、イマイチということもないんですけど。何しろこういう短編集ですから、ある程度の器械トリックは覚悟していますよ。ただまぁ、いくらなんでもねぇ、不可能なら何でもいいってもんじゃないでしょう。自分が犯人なら、こんなトリックを考えついた時点で殺すのをやめます。第1話の最初の事件からして、あんなシュールな場面を犯人が黙々とやっているかと思うと、ね。

ただまぁ、それはそうなんですが、なぜか妙に楽しんで読めました。こういう事件が、現代を舞台に行われているというのはやはり楽しいものですし、事件の発端自体はどれも非常に魅力的。まぁ、事件に魅力のない不可能犯罪とか、読むに堪えないでしょうし。
もう1つの魅力が、主人公ディーン牧師のキャラクターです。こんなに親しみやすいおじいちゃんなら、そりゃ誰だって友達になりたがるでしょうね。ちょいちょい亡くなった奥さんのことを回想してしんみりしたりと、じいさんぽいこともしていますが、基本的に彼はめっちゃ若々しいです。なんたってパソコンはお手のもんですからね。
彼が80歳(途中たぶん81歳になっているはず)であるというのはいいんですが、どうも作者が「いかにもな80歳」を書こうとしているようなのが気になります。というか、それを書ききれていないせいで、なんだか時々老けたり若々しくなったりしているのではないでしょうかねぇ。エドワード・D・ホックよりは文章は格段に上手いと思いますが、読みやすいとはいえ、そんなに物語を書くのが上手いとも思えません。やはり、不可能犯罪物ファンによる、不可能犯罪物ファンのための同人雑誌というか、その域を出ていないのではないかという気がします。

まぁでも、読みやすいし、なかなか楽しめる一冊ではあると思います。次作が出たらどうせ読んじゃうんでしょう。今度はもっとトリックの充実、および姪のスーザンの再登場をお願いします(笑)

ところで、ハル・ホワイトさんって何年生まれなんでしょうか。分かる方がいましたらぜひ教えてくださいな。

以下、個別の感想をちょっと辛口目に。あ、それとどうでもいいんですが、現代が全て「Murder」から始まってるなら、全部「~の殺人」とか「~殺人事件」とかにそろえてあげるのが礼儀ではないかと。


「足跡のない連続殺人」
あらすじは題名通りです。

第一の事件、これはまぁ、実際にやるのはアホとは言え、いいでしょう。第二の事件、これもまぁアホとは言え、いいでしょう。しかし第三の事件、これはいただけません。警察だってそこまでバカじゃないんですから、ちゃんと捜査すれば分かると思います。動機は、ひょっとするとこの本の中で一番まともかも(笑)


「四階から消えた狙撃者」
アパートの四階から男が狙撃された。しかしながら四階の周辺にはウロウロと都合良く人がいたため、犯人がその部屋から出て行ったのを誰も見ていないことが分かる。一体犯人はどこに消えたのか?

男が撃たれた瞬間の描写の前後に露骨な「んっ?」という点がありますが、まぁでもこの事件はなかなか魅力的です。犯人があるごまかしをするべく涙ぐましい努力を重ねているのを読むと、あぁ、殺人なんて犯すもんじゃないなぁと心から思います。いかにもな『金田一少年』的なトリックですが、ここまで徹底すればいいんじゃないでしょうか。


「不吉なカリブ海クルーズ」
友人のプレゼントによりカリブ海クルーズに参加したディーン牧師。船上で4人の男女と知り合いになるが、そのうち一人が密室で死体となって発見されることに……。

これは事件がいいですねぇ。いえ、読んでいる側としては、トリックが分かるかどうかは置いといて、犯人はだれか、どんなごまかしがなされているかにすぐ気付くと思います。しかしながら、個人的には非常に面白かったです。どれか1つ選べと言われれば、たぶんこれ。不可能犯罪である必然性が、ちょびっととはいえあるのも良いですね。
ディーン牧師の最後のセリフ、何だかそんなに感動できないのですが、もしかして読み違えているんでしょうか。被害者の行動がいまひとつ理解できていない気がします。誰か教えてください。


「聖餐式の予告殺人」
ディーンの知り合いの牧師の教会の日曜ミサに、なんと二週連続神が現れ、殺人予告を行った。そしてとうとうその次の週に殺人が……。

犯人はかなり運に頼っていますね。毒のタイミングがずれたらどうするつもりだったというんでしょうか。
解決シーンで、ディーンは犯人に罪の意識を持たせようと決意しますが、正直言ってぜんっぜん成功していないと思います……いいのかな?(笑)


「血の気の多い密室」
誰も出入り出来なかったアパートの、鍵を閉められた一室の中で死体が発見された。インフルエンザでふらふらのディーンは、家の中で推理していくことになるが……。

これはさすがにダメでしょう。いえ、科学的なトリックはいいんです。21世紀の不可能犯罪ですから、むしろそれが出来ることを示すのが大事です(とは言え必要なものが手に入るかは微妙)。そんなことではなく、いったいなんですか、この密室トリックは!!読んだ人なら分かると思いますが……つまりその、何一つ解決していませんね(爆)


「ガレージ密室の謎」
収穫祭の準備作業中、誰も出入りしていないはずのガレージ内から死体が発見された。犯人は、いつ、どのように殺人を行ったのだろうか?

実行可能かはひとまずおいておくとして、何だか全体的に作りが雑であるような気がします。特に動機ですね。別にハル・ホワイトさんは動機にはこだわっていないようなのでいいんですが、これはちょっとこじつけではないかと……。
死体がどんな状態だったかを考えると、これはこれでシュールな笑いというものでしょう。


書 名:ディーン牧師の事件簿(2008)
著 者:ハル・ホワイト
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mホ-8-1
出版年:2011.1.14 初版

評価★★★★☆
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