紳士と月夜の晒し台
『紳士と月夜の晒し台』ジョージェット・ヘイヤー(創元推理文庫)

月夜の晩、ロンドンから離れた村の広場で、晒し台に両足を突っ込んだ紳士の刺殺体が発見された。動機を持つ者にはこと欠かないが、浮世離れした容疑者たちを前に、ハナサイド警視は苦戦する。そんなとき、思わぬ事態が発生して……。ヒストリカル・ロマンスの大家として知られる一方、セイヤーズも認めた力量を持つ著者による、巧みな人物描写と緻密なプロットの傑作本格ミステリ。(本書あらすじより)


まず言っておきますと、非常に楽しいお話でした。巧みな人物描写というのは全くその通りで、テンポ良い会話の進行が読んでいてとっても楽しいんです。またいかにもな黄金時代の作品めいた雰囲気もグッド(嫌な奴が殺され、容疑者は親族で、南米で死んだ弟がいて、みたいな)。
が。

これが単なる小説ではなく、本格ミステリであるならば、かな~り不満足な作品ということになってしまうでしょうね。プロットは行き会ったりばったりのようで、伏線はほとんどなし、手がかりもほぼ皆無です。決め手の証拠はかなり良い出来だと思いますが、最後の最後に明かされても困ります(いや、一応解決シーンの前……というか直前ですけど)。著者のヘイヤーさんは、ミステリとしてはこれが処女作だそうなので、まだ書き慣れていないのかもしれませんが。

一番がっかりなのは、なぜ死体が晒し台にあったのか、という謎。全く、タイトルがこうである以上、いやがおうでも期待してしまうこの最大の謎の答えにはさすがにがっかりです。


というわけで、手がかりも伏線もない以上、この作品の9割は容疑者同士の会話、ということになります。被害者の義理の弟妹である、どう考えてもどこかズレている2人による推理やら無駄口やらおしゃべりやらを中心に、容疑者があーだこーだと話しているお話なんですよ、これは。そしてこれがたいそう面白いと来てます。登場人物一人一人の描写・キャラ付けが秀逸なんですよね。ユーモアあふれる会話にただただ爆笑します。

てなわけですから、主役のはずのハナサイド警視はどうしても脇役・傍観者とならざるを得ません。感じの良い人ではあるんですがねぇ。この作品、バークリーみたいに、ミステリをちょっと皮肉った面があるのではという気がします。


なお、翻訳がちょっと気になりました。登場人物の口調が一定ではないというか。


というわけで、ミステリ的にはかなりアレですが、面白くはあったので、刊行が予定されている次作に大いに期待したいところです。

書 名:紳士と月夜の晒し台(1935)
著 者:ジョージェット・ヘイヤー
出版社:東京創元社
   創元推理文庫 Mヘ-15-1
出版年:2011.5.31 初版

評価★★★☆☆
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