嵐が丘(上) 嵐が丘(下)
『嵐が丘』エミリー・ブロンテ(岩波文庫)

作者の故郷イギリス北部ヨークシャー州の荒涼たる自然を背景とした、二つの家族の三代にわたる愛憎の悲劇。主人公ヒースクリフの悪魔的な性格造形が圧倒的な迫力を持つ、ブロンテ姉妹のひとりエミリー(一八一八‐四八)の残した唯一の長篇。新訳。(本書あらすじより)

というわけでついに読みました、名作『嵐が丘』です。ヒースクリフです。キャサリンです。
初めてこの作品の存在を知ったのは……『ガラスの仮面』を読んだ小学生の時でしょうかね。北島マヤが成人前のキャサリン役をやって、ヒースクリフを真島良が演じて、二人の熱演に、成人キャサリン・ヒースクリフ役の俳優さんたちが「あの子たち何なの……」みたいなセリフを吐き、真島良はマヤに(むしろキャサリンに)惚れ、真島良の彼女(だったはず)の絵川由紀はかわいそうなことになり……いかん、どんどん話がそれていく。

というわけわからんイメージのもと読みだしましたが、いやはや、これは名作と言われるだけはありますね。とんでもなく面白いです。次から次へと何かが持ち上がり、意外にスピーディーな作品でした。
話の内容としては、正直なところTYの嫌いな感じなんですよ。何しろどいつもこいつも嫌な連中で、自己中の権化のようなやつばっかり(というか全員)。明るい場面なんかどこにもなく、ただただヒースクリフが幼少時に悲惨な目にあい、成人後に悪魔になる、というだけですから。ヒロインのはずのキャサリンはヒースクリフ以上に嫌なやつで、てめぇの身勝手さで何人身を滅ぼしてるんだね、え?と何度思ったことか。語り手のネリーも良い人ではありますが、話をややこしくしている張本人であることもまた事実。成人後のエドガーだけですよ、ちゃんとしてるのは。やつだって坊ちゃんだったころはつまらん人間ですが。

にもかかわらず、先が気になってしょうがない。この鬱な空気もだんだんツボに入ってくるし、不幸な展開になればなるほどのめりこんでいくのです。これはいろいろ理由があるとは思いますが、やはりエミリー・ブロンテが天才的に文才に優れた人だというのがあるでしょうね。彼女の文体は、暗い場面を描きつつも、ある種のすがすがしさにあふれています。じめじめとした雰囲気があまりないんですよね。まぁ何しろ嵐が丘は、風の吹きすさぶ荒野ですから、湿っぽいわけがないんですが。
エミリー・ブロンテの書き方で特に感心したのは、冒頭に現在の「嵐が丘」の様子を描いていることです。このボロクソな現状を読まされた後、家政婦のディーン夫人の回想の形で過去の「嵐が丘」にさかのぼるわけですが、読んでいる側としては、おいおい、一体何がどうなったらこの裕福な2つの家がぶっつぶれてこんなんになっちゃうのさ、と気になってしょうがないわけですね。話がだんだん現在に近づくにつれ、おぉ、人数が減ってきたぞぉ、と盛り上がるわけです。「これは1年前のことですが」何て言われるともうたまりません。いわゆる「結末」から読ませるという手法が非常に効果的です。

そして何といっても人物描写が群を抜いて上手いです。もうどいうつもこいつもヒステリックに叫ぶわ身勝手だわですが、それぞれの二面性をうまーく書き分けていると思いますね。ヒースクリフなんかはほとんど描写されていないにもかかわらず、嫌な奴でありながら、憎みきれない人間になっているような気がします。というか、この説明不足なためにこっちの想像力がいい具合にかきたてられるわけですね。特に二面性が上手く書けているのはヘアトンでしょうか。彼はいいねぇ。ひねくれたところもありますが、かなりまともだと思いますよ。
読み終わってみると、どいつもこいつも嫌なやつだったはずなのに、どこか嫌いになれないのはなぜなんでしょうね。この後味ひかない読後感が何とも言えません。
誰かがネット上で、ヒースクリフの名前を、ジョンとかにしてたら、名作にはならなかっただろう、なんて書いてました。なるほど、一理あります。

唯一残念だなぁと思ったのは、よりによって結末――というか、最後の方ですね。ここまで悲劇を延々と読まされてきた読者としては、この終わり方には何だかもやっとした感じを抱いてしまうというか、肩すかしを食らう気がします。読んでいて失速したのもここ。もっと壮絶な終わり方をして欲しかったなぁという気がしないでもないです。


というわけで、『嵐が丘』、大変面白かったですよ。この岩波文庫版もかなり読みやすい訳だと思います。未読の方はぜひ、暑いこの夏、涼しげなムーアに浸ってみてはいかがでしょう。

書 名:嵐が丘 上下(1847)
著 者:エミリー・ブロンテ
出版社:岩波書店
    岩波文庫 (上)赤233-1 (下)赤233-2
出版年:(上)2004.2.17 1刷 (下)2004.3.16 1刷

評価★★★★☆
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