五匹の赤い鰊
『五匹の赤い鰊』ドロシー・L・セイヤーズ(創元推理文庫)

釣師と画家の楽園たる長閑な田舎町で、嫌われ者の画家の死体が発見された。画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、当地に滞在中のピーター卿は、これが巧妙に擬装された殺人事件であることを看破する。現場に残された描きさしの絵は犯人の手になるもの、従って犯人は画家に違いない。怪しげな六人の容疑者から貴族探偵が名指すのは誰?スコットランドを舞台に、ある時は巧妙精緻に、またある時は諧謔に富む挿話を交えながら、ミステリの女王が悠然と紡ぎ出していく本格探偵小説の醍醐味。英国黄金時代の薫り豊かな第六弾!(本書あらすじより)

セイヤーズも未読長編は残すところあと4冊。早いもんですね。今年は3つも読んだので、もう読まない気もしますが。

さて、セイヤーズが純粋なフーダニットを追求して書いたとされる本書ですが、なるほど、容疑者は確実に6人、そのうち5人は「赤い鰊(レッドヘリング)」だということになります(共犯がいた場合はどうなんの?)。てなわけでひっじょーに地味な感じでして、当時の評価もイマイチだったようです。
しかしTYとしては、なかなか楽しめる作品だったと思います。確かに地味で、500ページ延々と証言と推理のみ。ただ、非常に安定した書き方だなと思いました。次々と、それこそ絶え間なく新事実が出て来るため、読者が飽きることはないと思います。個人的には、セイヤーズの作品って面白いのに、途中必ずだれちゃうんですが、まぁある意味この話は最初からだれてるわけですからね。いわば典型的な黄金時代の本格であり、本格ファンにとっては大好物、ということになります。

肝心のトリック自体は、まぁそのどうでもいいとは言いませんが、そんなに注目すべき点はないように思います(たいていセイヤーズはそうだけど)。だいたい手がかり(偽だったり偽じゃなかったり)に時刻表が出て来る時点で、ほとんどの読者は知ったことか、ってなるんじゃないですか。セイヤーズにしてはかなり具体的なトリックだとは思いますが。
犯人の意外性も、それほどではないと思います。そもそも6人全員が怪しくて、誰が特に怪しい、という誘導をセイヤーズがやってないんですよね。それにまた、犯人も何となく見当がつくんじゃないでしょうか(当てずっぽうだけど)。


ただ、それらの点はあまりマイナスにはならないと思います。その最大の理由は、この作品、解決シーンが長大で、さらにユーモラスかつ活動的であるせいでしょう。犯行の再現をここまでじっくり楽しく描いたミステリってこれくらいじゃないでしょうか。読んでる方としては読むのがただただ楽しいのであり、そこに「意外性」をほぼ求めないんです。ま、ずるいっちゃずるいですが(笑)

ちなみに謎解きは、意見交換を含め130ページくらいにまたがっています。2年前に出たバークリーの『毒入りチョコレート事件』を意識していたと思うんですが、どうでしょう?そもそもこの『五匹の赤い鰊』は、全体的にパズル的要素が非常に強いように感じます。ウィムジイも犯人を捕まえることに対してそんなにうじうじ考えてはおらず、「殺人」という雰囲気がのどかな村の中では極力抑えられています。これもまたフーダニットを意識した結果、なのでしょうか。


素晴らしいユーモアは相変わらずで、いつもよりクスッと笑える落ち着いたものが多いように思いました。犯行再現シーンは最高に笑えましたが、なぜだか特に面白かったのが、別に面白くもなんともないウィムジイ次のセリフ(276ページ)。
「そこへ持ってきて、目撃されたきみの最後の姿が、やつの喉に十本の指を絡めて殺してやると脅しているというものだったんで、我々としては、つまり、きみはどうしたのかな、なんて考えてしまったわけさ」

登場人物は、いつにもまして個性的です。容疑者を限定している分、書き分けを特に意識したのでしょうか。容疑者の中では断トツにグレアムが好きですが、ファレンが最後の方でいきなり株を上げてきました。グレアムの後日談をなぜ書かなかったのか、そこがただただ不満(笑)
ディーエル巡査部長は田舎弁丸出しのくせに優秀であり、そのギャップが良いですね。ちなみに「ディーエル」と言えば、レジナルド・ヒルが思い出されます。かのダルジール警視の名前の読み違い(スコットランド読みでは「ダルジール」ではなくて「ディーエル」であり、ある意味「ダルジール」は誤訳)は有名な話です。

1つ不満、というわけではないですが、なぜだか自分これを読むのにめちゃめちゃ時間がかかりました。田舎弁が多過ぎるせいでしょうか。この訳は浅羽さんの持ち味なので構わないんですけどね。
あと、小林晋さんの後書き、なぜ対話形式を取ったんでしょう?


全体的に言って、十分出来の良い作品だと思います。今のところ、セイヤーズ作品を上から並べると、『ナイン・テイラーズ』『ベローナ・クラブの不愉快な事件』『五匹の赤い鰊』となるんじゃないでしょうか。

書 名:五匹の赤い鰊(1931)
著 者:ドロシー・L・セイヤーズ
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mセ-1-7
出版年:1996.6.28 初版

評価★★★★☆
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