以下、世界史好きによる嘘っ百を並べた戯言、というか妄想が書き連ねてあります。長いのでお好きな方だけどうぞ。実験的にですます調をやめてみました。
世は日本史ブームである。2年ほど前と比べればそこまででもないが、依然として日本史は人気である。

ちょっと前には「歴女」なる語が流行語となり、コーエーの「戦国無双」をパクってカプコンが作った「戦国BASARA」が今年映画になり、大河ドラマ『龍馬伝』はどう考えても出演者の顔のおかげで大ヒットとなり、『もういちど読む山川日本史』なる本までじゃかすか売れる。「連続テレビ小説」までここんとこ劇中の時期がちょっと昔になっているというではないか。ある経済学者は、この現象の経済効果は数百億円にものぼると言っている。ある社会学者なんか、今後日本史に詳しくない人はバカにされるだろうなどというバカげた予言をしているほどだ。
もちろん、日本人が日本史に興味を持つことは歓迎されるべきことである。歴史に向き合い、人々の功績や過ちと向き合うことで、我々は今後の日本がどうあるべきかというヒントを得られるかもしれない。ボヘッとどこか遠くを見ているだけの写真より明らかにかっこいい龍馬を見て、我々の生き方に関する手がかりを見つけるかもしれない。これは大変結構なことである。結構なことであるのだが、一つ何かを忘れていないだろうか。
そう、世界史である。

なぜこの日本史ブームに便乗して世界史ブームが起きないのだ。「ヤン・ヨーステンの屋敷があったから八重洲っていうんだぜ」なんてくだらない雑学はもてはやされるのに、「ナポレオンが占領した地域が右側通行になったんだぜ」なんて雑学は、言っても「そんなしょうもないことばっかり言ってないで勉強しろ」という扱いになってしまうのはなぜなのだ。戦国武将に憧れて頭に兜をかぶる女性が湧いてきても、ヴィルヘルム2世に憧れてカイゼル髭になる男性が出てこないのはどういうわけなのだ。弁慶の死に様は確かにすごいが、同じくらいすごいボニファティウス8世の憤死が取り沙汰されないのはどういうわけなのだ。えっ、そこんとこどうなんだ。

というと、反論してくるものもいるかもしれない。
「『もういちど読む山川世界史』だって売れてるよ」
「『テルマエ・ロマエ』とか、歴史っぽいマンガが最近売れてるじゃないか」
言うことごもっともだし、確かに『山川世界史』も売れているが、日本史と比べればはるかに心もとない。それにだ、『テルマエ・ロマエ』や『7人のシェイクスピア』が売れているのは、世界史ブームだからではない、単にそれらの本が売れているだけである。自分が目指しているのは、日本史ブームに比肩するような、いや、むしろそれ以上の世界史ブームの到来である。

というと、やはり反論が出てくる。いわく、「日本人なんだから日本史を知ってりゃ十分でしょ。世界史を知って何の役に立つのさ。日本史はまだ話の種になるし、歴史好きなおっさんじいさんの話相手にもなるけど、世界史じゃねぇ、実用性ゼロじゃない」とか、そういうことを言う輩がいるのである。
あのだなぁ、そういう諸君は今がグローバル時代であることを分かっているのかね、えぇ?ひとたび日本を出れば、世界史を知らない連中はただの非常識人ではないか。恥ずかしいとは思わんのか。
それに、世界史は日本人にとっても常識であるのだ。例えば、我が国が誇る(最近誇っていいのか微妙になってきてはいるが)大相撲というスポーツがある。そして大関把瑠都の名前くらい誰だって知っているだろう。ところが彼の出身地のエストニアになるとどうか。何もエストニアの首相の名前は何だとか、そんなことを聞きたいのではない(そんなの自分も知らん)。私が聞きたいのは場所である。ついでに言うと、エストニアとラトヴィアとリトアニアの位置関係である。
「ばばば場所だって?もももももちろん知ってるけどね!ばばば把瑠都だけにバルト三国のどどどどっかだから、たたたたぶんロシアとかそっちの方……」
だなんて反応があればまだいいのだが、では把瑠都もなしにいきなり「エストニア」と言われて全員が分かるだろうか。3割近くはアフリカだとか南米だとかオセアニアだとか東南アジアだとかベーリング海峡の辺りだとか寝ぼけたことをいうに違いない。仮に知っていても、7割近くは上から順番にラトヴィア・リトアニア・エストニアとか、そこらへんが関の山である。悪いが世界史をやってる人ならば、こんな問題屁でもない。


というわけで、政府は早急に「世界史普及委員会」なるものを立ち上げるべきなのだ。そうでもしなければ世界史ブームは訪れない。いや別にいいじゃんなどという意見は却下する。そんなこと言っていては話が進まないではないか。
「世界史普及委員会」は、その名の通り、日本国民への世界史浸透を目指す団体である。対象は、高校の世界史の存在すら頭から抜け落ちている成人男性女性。あらゆるテレビ局には世界史ネタを伝える番組を作らせ、各種新聞でも世界史コラムを充実させる。国会答弁では最初に世界史講義から始めさせる。NHKのラジオ体操の歌詞も世界史がらみの物に変更させる。そして、フランク王国ってイギリスだっけ、みたいなことをぬかすそもそも基本的に流れすら分かっていないような人は、強制的に一人につき一人家庭教師を付けて、世界史学習を進めさせる。

しかしまぁ、別にマニアックな世界史をやらせようというのではない。あくまで教養である。専門家庭教師にもそこまで高レベルの内容を期待するわけではない。となれば、現在職にあぶれている人や、大学を出ても何したらいいのか分からない人は、委員会の行う家庭教師の採用募集試験に受かるべく、猛然と世界史を勉強し始めるに違いない。失業率は1%近くにまで回復するだろう。それだけではない。不況にあえぐ出版社はブームに乗っかり、世界史関連書籍を数多く出すことで再建を図るだろう。2013年の大河ドラマの主人公はチュラロンコーン大王になるだろう。海外に興味を持った日本人が増え、旅行会社は好況に沸くだろう。いいことずくめである。いずれは初夢も、「一富士二鷹三茄子」ではなく、いや鷹や茄子は知らないが、少なくとも「一ヴェスヴィオス」とかそんな風になるに違いない。


そうなると大学生の就職活動において、俄然世界史関連の学科の学生が有利になるはずだ。企業が積極的に世界史の出来る人を求めるようになるのである。かつては文学部をバカにして、鼻っから就職戦争に負けに行くみたいなもんだ、何を好き好んで浅間山の火口に飛び込まなきゃいかんのだ、なんて言っていた連中もそんな場合ではなくなる。当時は宰相となった秦檜だって、今や唾を吐きかけられる存在なのだ。世界史をやるものはまさに今日の岳飛である。物事の価値や評価は変わっていくものなのだ。文系の中で法学部や経済学部が強いなどと誰が決めた。安全神話はメルトダウンするものである。

こうして史学科の人々の生涯は安泰なものとなるのであった……ぐふふ。
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