シャム双生児の秘密
『シャム双生児の秘密』エラリー・クイーン(新潮文庫)

旅行先のアロー山中で山火事に追われたクイーン父子は、山頂にある著名な外科医ザヴィア博士の山荘に辿りつく。無気味な一夜が明けると、博士は何者かの手によって殺され、続いて第二の殺人が起こる……。地獄の業火のような山火事にとりかこまれた家の中で、二枚にちぎられたトランプのカードを手がかりに、エラリーと父親のクイーン警部が奇怪な事件の真相を追究する。(本書あらすじより)

国名シリーズ第7作。又の名を『ハムソーセージの秘密』……あ、あ、エラリストの皆さん怒んないで。

本作は国名シリーズの中では異色作と言われますし、そもそも作者自身が冒頭でJ・J・マック氏にそのように言わせていますが、全く持ってその通りでしょうね。山頂から逃れられず、山火事が刻一刻が迫り来る中で、山頂の館(!)で起きた殺人事件をクイーン父子が解く、と……なんかいかにもな設定ですけど、こういういかにもな設定は、海外物の中では意外と少数派です。

ではなぜこんな設定を作者は設けたのか?というと、実は事件が結構しょうもないからなのです。エラリーの論理にもキレがありませんし、大したことのない事件を、やったらとこねくりまわして長編に仕上げた、という印象すらあります。クイーン父子の推理がやったらと誤爆したり、本当は簡単なのにそれをやったらとこねくり回して長編にしてしまう、というやり方はなんとなくコリン・デクスターを思い出させます。最後の謎解きの場面だって、証拠が全然ないためか、かなりセコい手で犯人を特定しています。動機だって微妙です。犯人の最後の行動はやっぱりずるいと思います。というわけで、事件自体はぶっちゃけ微妙なのです。

しかし!推理こそ微妙ではありますが、読んでいる側としてはかなり楽しめるのではないでしょうか。これは火事のおかげと言えるかもしれませんが、実は3分の2くらいまでは、火事がそこまで近付いてこないためそこまで危機感がありません。物語を主として引っ張っているのは、登場人物の個性や行動の不可解さ、そして事件の謎ではないでしょうか。というかですね、露骨なクローズドサークルが苦手なTYとしては、あんまり火事火事言ってたら読みづらかったと思うんですよね。
そして結末が近付くにつれ、炎も近付いてくるのです。逃れられない山頂で生き残ろうと必死であがく人達の様子が、作者の手で鮮やかに描かれます。この一連の描写があるからこそ、最後の一文が美しい余韻をもたらして終わるのです。

という中で、クイーン父子の捜査は、正直ださいのです。かっこ悪いです。クイーン警視(警部と訳してあるけど、Inspectorの誤訳ではないかと。イギリスでは警部でいいんですが)なんか何回ミスったら気が済むのかと。しかしながら、彼らは火事に向かうと(つまり終盤)俄然かっこ良くなるのです。世の中にエラリー萌えしているエラリアンがぞろぞろいるのもうなずけます。


ちなみに、ついこの間読まされた有栖川有栖『月光ゲーム』では、作中人物により何度も『シャム双生児の秘密』との類似性が指摘されていますが、確かに似てます。副題を「Yの悲劇'88」なんかより「シャム双生児の秘密'88」にした方がいいんじゃないかってくらい。謎解きのタイミングまで似てるじゃないですか。活火山は露骨に悲壮感が漂うので自分は好かんのですけど。


以上まとめると、まぁ国名シリーズ好きにはやはり欠かせない一冊ではないかと。ミステリ面が弱いのは否めませんが、エンターテイメント性も含め、これも一種の傑作ではないのかなと思うのです。


書 名:シャム双生児の秘密(1933)
著 者:エラリー・クイーン
出版社:新潮社
    新潮文庫 ク-2-5
出版年:1960.1.30 初版
    1989.1.30 29刷

評価★★★★☆
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