クリスティーに脱帽
『江戸川乱歩コレクションⅡ クリスティーに脱帽 海外ミステリ論集』江戸川乱歩、[編]新保博久・山前譲(河出文庫)

授業の研究用で読みました。江戸川乱歩の評論のうち、海外ミステリに関連するものを集めた評論集です。目次は以下の通り(タイトル、掲載紙名、掲載年度の順番)。

「入り口のない部屋・その他」文章倶楽部 昭和4年
「探偵小説の限界」東京日日新聞 昭和6年
「創意の限度について」鬼 昭和27年
「『謎』以上のもの」東京朝日新聞 昭和8年
「探偵小説と瀉泄」読売新聞 昭和8年
「二つの角度から ―推理小説変遷史の一考察」プロメテ 昭和22年
「グルーサムとセンジュアリティ」赤と黒 昭和21年
「異様な動機 ―探偵小説における着想の分析」読書人 昭和26年
「一つの歴史的考察」近代文学 昭和35年
「純探偵小説の定義と類別」元原稿はぷろふいる(右年は新稿された年) 昭和25年
「二つの比較論」改造 昭和25年
「英米探偵小説評論界の現状」宝石 昭和22年
「フダニット随想」ぷろふいる 昭和21年
「英米探偵小説界の展望」雄鶏通信 昭和22年
「最近の英米探偵小説」中央公論 昭和28年
「英米の短篇探偵小説・短篇ベスト集」宝石 昭和25年
「探偵作家としてのエドガー・ポー」宝石 昭和24年
「ディケンズの先鞭」あるぴよん 昭和26年
「赤毛のレドメイン家」ぷろふいる 昭和10年
「J・D・カー問答」「宝石集」別冊 昭和25年
「クリスティに脱帽」宝石 昭和26年
「手品師クイーン」ロック 昭和21年

なるほど……海外ミステリ好きは読んで損のない一冊でしょう。結構思ったより楽しめました。

いやまぁしかし、読みやすいこと。乱歩の文章力はたいしたもんですね。
もうひとつ乱歩の文章のすごいところは、書評を書くのがめちゃめちゃ上手いことでしょう。とにかく読んでみたくなります。それが実際に面白いかどうかは別問題ですけど(実際、乱歩の好みってなんかずれてる気がするんだよなぁ)。イーデン・フィルポッツをかなり押してますが、これを読むと、すぐさま買い求めたくなること請け合いです。

さらに驚くのが、乱歩が驚くべき量の原書を読んでいたことです。海外ミステリの単行本、EQMMみたいな雑誌だけではなく、評論家たちの論文やらなにやらにまで手を出して研究していたようです。そりゃあ日本の海外ミステリの権威にくらいなりますって。ハードボイルドとかも、あんまり好きじゃなかったみたいですが、現在の欧米のミステリの流れを知るためだ、みたいな研究心から読んでたみたいだし。実際のところ、戦後の海外ミステリを何を訳すか、というのは、ほぼ彼の一存だったんでしょうね。


ただ、読んでいて気になったことがいくつかあります。乱歩のミス、といいますか。

1つは、クリスティに関してです。「クリスティーに脱帽」という評論の結論は、クリスティは年をとってからもますます良質なミステリを出す唯一の作家だ、てなことなんですが。1951年の時点じゃまだ結論出すには早いだろう、てのもありますが(当時は『予告殺人』が出たばっかりで、乱歩はべた褒めしてます)、まぁそれはしょうがない。それよりも、彼がクリスティをちゃんと読みだしたのは、この評論を書く半年前くらいから、ってことなんですよ。読んだ作品数も半分くらいだし、読んだ作品も、TYに言わせりゃ結構面白いのを外していますね(ついでに言うと、『もの言えぬ証人』と『殺人は容易だ』を駄作扱いしているのには納得がいかん)。結局ね、乱歩はクリスティを褒めてはいるけど、そんなに好きじゃなかったんじゃないかなぁ、単にでかいトリックのある作品だけが好きで、ストーリー性は完全に無視してたんじゃないかなぁ、と思うわけですよ。

2つ目はアントニイ・バークリーについて。驚くべきことに、彼の作品についてはほとんどノータッチだったようです。そりゃあ近年の日本がやたらとバークリー再出版ブームになり知名度アップ中、てのは知ってますけどね、バークリーの紹介が遅れた大きな一因は、乱歩がほとんど読んでなかったからじゃん、と思えるくらい。『毒入りチョコレート事件』は読んだみたいですが、軽く評価を誤っている気がしないでもないです。

3つ目はこれは有名ですがセイヤーズの評価ですね。乱歩って、『ナイン・テイラーズ』以外のセイヤーズ作品を読んだことあるんでしょうか。これまたノータッチで、ひたすら「文学的で重厚、ちょっと退屈」みたいな評価しかしていないんですが、初期のセイヤーズ作品って全然違いますよね。セイヤーズの紹介が遅れたのは、間違いなく乱歩のせいです。


ただ、乱歩の偉大さは不滅ですね。個人的に勉強になったのが、1940年代ごろの欧米でのミステリ動向が、海外の評論化にはどう取られていたか、ということです。ハードボイルドの台頭とか、サスペンスの台頭だとかを、悪漢小説・ゴシックホラーと結び付けて考えるというのはとても面白いと思います。

というわけでお勧めですが、1つだけ注意点を。ネタバレには気を付けてください。ほんっと容赦ないです。後半のはそうでもないんですが(クイーン、カー、クリスティ評論も、意外にネタバレなし)、前半の評論はガンガン来ます。特に『黄色い部屋の謎』を読んでいない人は注意しましょう(まさにTYがそうでしたが……一生恨んでやる)。だんだん危なそうなところを読み飛ばせるようにはなったんですが、本の隅から隅までを読む主義の自分としては何だか気持ちの悪い読み方でした。

書 名:江戸川乱歩コレクションⅡ クリスティーに脱帽 海外ミステリ論集(1929^1960)
著 者:江戸川乱歩
編 者:新保博久、山前譲
出版社:河出書房新社
    河出文庫 え-1-5
出版年:1995.3.3 初版

評価★★★★☆
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