一房の葡萄
『一房の葡萄 他五篇』有島武郎(岩波文庫)

授業用に読みました。ふむ、もしかして、岩波文庫を読むのって初めてなんじゃ……。こういう本の読み方してると、ろくな大人にならない気がする……。

※確認したら、2008年以降は岩波新書は1冊、岩波文庫はこれだけでした。たぶん初めてですね。2008年以降に読んだミステリ以外=28冊、ミステリ=168冊、ってのはいくらなんでも不健康すぎる……。

えぇと、前置きが長くなりました。収録作は以下の通り。

「一房の葡萄」(1921)
「おぼれかけた兄妹」(1921)
「碁石を飲んだ八ちゃん」(1921)
「僕の帽子のお話」(1922?)
「片輪者」(1922)
「火事とポチ」(1922)

なお、1988年にこの本は改版されたのですが、その時に「片輪者」がはずされたため、現在の題名は『一房の葡萄 他四篇』となっています。改版後のものは、漢字(ルビ付き)が増え、挿絵が入り、字が大きくなっています。

有島武郎が生前に残した短編集は『一房の葡萄』(1922)のみであり、そこに収録されていたのが最初の4つだそうです。

「片輪者」を除くと、すべて主人公に少年を置き、彼の子供らしい目線で話を展開しています。内容もいたって児童文学的(何でも良質の児童文学が少ないことをどうかと思って作者が書いたらしい)。子供が読んだ場合は、おそらく主人公に共感して読めるのだと思います。逆に大人が読むと、おそらく一歩引いた目線で読むでしょうから、子供の物の見方を通して何か普遍的なテーマを感じ取るんじゃないでしょうかねぇ。例えば「一房の葡萄」の読み方なんかは、何通りもあるんじゃないかと思います。

唯一の例外が「片輪者」で、舞台はフランス、状況設定もやや特殊です。確かに一つだけ浮いている感じがありますから、それが改版時に抜かれた理由でしょう。個人的には、なかなか気の利いた話だと思いますが。一般的に同情的に扱われる障害者を、ある意味嫌な目線で描くというのは、ちょっと珍しいと思います。話の結論としては、嘘はやめましょう、という少々ありふれたものではありますが。

6つのうち、一番良かったのは「おぼれかけた兄妹」でしょうか。おぼれた妹を助けに行った若者が、無事妹を連れて岸に帰ってきた時を描いた次の文がかなり印象的です。「私(兄)」が13歳、妹は11歳です。

「飛んで行って見て驚いたのは、若者の姿でした。せわしく深い息をついて、からだはつかれきったようにゆるんでへたへたになっていました。……それで私は少し安心して、若者の背に手をかけて何かいおうとすると、若者はうるさそうに私の手を払いのけて。水の寄せたり引いたりする所にすわりこんだまま、いやな顔をして胸のあたりをなでまわしています。」

ヒーローのように思われた若者は、もちろん単なる人だったことが急に読者に思い知らされる部分。この後の若者の潔さは何だか素敵です。

書 名:一房の葡萄 他五篇(1921~1922)
著 者有島武郎
出版社:岩波書店
    岩波文庫 36-7
出版年:1940.7.2 1刷
    1965.6.16 24刷改版
    1982.5.20 41刷
    1965.6.16 24刷改版

評価★★★☆☆
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