エジプト十字架の謎
『エジプト十字架の謎』エラリー・クイーン(創元推理文庫)

ウェスト・ヴァージニアの田舎町アロヨで発生した殺人事件は、不気味なTに満ちていた。死体発見現場はT字路。T字形の道標にはりつけにされた、首なし死体の外貌もT……。興味を抱いたエラリーは父とともにアロヨへ赴き、検視審問に出席したが、真相は杳としてしれない。そこに、類似の殺人を知らせる恩師からの電報がエラリーのもとへ届く。第一の事件から遠くはなれた現場へ駆けつけたエラリーが見たものは、トーテム・ポールにはりつけにされた首なし死体であった。エラリーの精緻な推理が明かす、驚天動地の真相とは?スリリングな犯人追跡劇も名高き、本格ミステリの金字塔。(本書あらすじより)

クイーンは5つ目。今までに読んだ「国名」シリーズは、『ローマ』と『オランダ』の2つのみ。ドルリー・レーンものは、『X』と『Y』の2つ。てなわけで、海外ミステリ好きにも関わらず、クイーンは4つしか読んだことのなかったTYです。自分の未熟っぷりが痛いです、いやほんと……。

しかしなるへそ、評判通りの傑作です。解説にもありましたが、クイーンは大分エンターテイメント性を意識しているように思えます。何よりもそれがはっきりしているのは、最後にクイーン自身が言っているように、タイトルそのものかもしれませんが。いつもの論理ずくしな地味な作風(?)とは異なり、宗教的な不気味さとか(前半だけだけど)、三角関係とか、事件に関係があるのかないのか分からない要素がゴタゴタあります。こうしたものはまた、読者に真相を気付きにくくする役割も果たしているかもしれませんね。

さらに今までに読んだクイーン作品よりも、ちょっと笑えるところが多かったように思います。ヴォーン警視・アイシャム地方検事・ヤードリー教授といった、今作でのクイーンの協力者の立ち回りによるところが大きい気がします。特に、後半、島に一人で行ったヴォーン警視の下りは、何だか過度にヒロイックで面白かったです(笑)


謎解きについては、これまた証拠は大してないくせに、ひたすら理詰めで行くことで犯人が浮かび上がるという緻密さが良く出来ています。また、いつもほどエラリーが推理を出し惜しみしていないのも結構なことです。さらに、クイーン警視の代理役とも言えるヤードリー教授とエラリーが二人で推理していく様を頻繁に入れることで、常に事件を進行させていってくれるのがとってもいいですね。黄金時代のミステリを読んでいると、何と言うか、読者の推理が探偵やその周辺人物の推理を追い抜いてしまい、何をてめぇらグダグダしゃべっとんねん、みたいな興ざめ状態になることがあります。ところがヤードリー教授の推論がちゃんと読者レベルであるため、その点問題がないんですよね。ちなみに、アイシャム地方検事の、黄金時代的バカさ加減には、ちょいちょいイライラしました(笑)

トリック自体は、今となってはベタだと言う人もいるかもしれませんが、個人的にはかなりいい点をあげたいところ。犯人の意外性も十分でしょう。さらにそのトリックを明かすエラリーの理論もさすがです。これ、いくつ事件が起きるかを話すのはあんまり良くないと思うんですが、とにかくエラリーが最後の事件で犯人を特定するのに用いたあの証拠品は、単純ながらかなり上手いと思います。

ちなみに何と、細かい点までは推理出来ませんでしたが(特にさっき言った証拠品とか)、読者への挑戦より前に、TYはかなり確信を持って犯人を当てることが出来ました。エラリーが推理では言っていなかった点ですが、第一の事件と第二の事件をじっくり考えれば、犯人は分かると思うんですけどねぇ。犯人が分かる読者は、意外に多いのかもしれません。もちろん、犯人が分からない方が、面白いに決まっています。せっかく犯人分かったんだから、追記の形でネタバレ付き自慢しちゃうぞ(笑)ついでにちょびっとネタバレのところに不満も書いておきます。ちょびっとね。


というわけで、かなり満足出来る一冊でした。本格ファンなら、後半は手から本が離れなくなること間違いなし。「国名」シリーズを読み始めるなら、『ローマ』から読むより、有名所から押さえた方がいいかもしれませんね。

書 名:エジプト十字架の謎(1932)
著 者:エラリー・クイーン
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-1-9
出版日:1959.9.25 初版
    2006.9.15 70版
  新版 2009.1.9 初版

評価★★★★★


【※以下ネタバレあり!最大限の注意を払うこと】





























【※以下ネタバレあり!最大限の注意を払うこと】

一番おかしいのは、第一の事件において、死体が着ていた服はアンドルー・ヴァンのものだった、ということです(ルーデン巡査は、着ていたものでヴァンと判断した、と言っています)。道標に死体がくくりつけてあったとすると、少なくともくくりつける前にすでにヴァンの服を死体が着ていたことになります。もしヴァンが主張したとおりに事件が起きたのだとすれば、なぜクリングはヴァンの服を着ていたのか。①クリング勝手に着ていた。ないとは言い切れませんが、知能の低くおとなしい召使であるクリングが、主人の服を勝手に着て家の中に居た、というのは、まぁないでしょう。②犯人が着せた。しかしクロサックが犯人ならば、そんなことをするわけがありません。ヴァンのものと信じている死体を、よりヴァンらしくする必要なんかないからです。
つまり犯人は、死体をヴァンのものだと見せかけようとしているわけになり、また上記より、ヴァンは嘘をついていると考えられます。

また妙なのは、第二の事件でトマス・ブラッドが人払いをしたことです。相手がだれにせよ、エラリーの推理ではブラッドの知り合いが来ることになっていたのは確実です。しかし、なぜその人物が家族に見られてはいけないのでしょうか?と考えると、該当する人物は一人しかいないように思えます。少なくとも、登場人物一覧には一人しかいないように思えます(笑)

さらに、作中でエラリーが指摘していたとおり、クロサックが犯人だとすると、どうやってアンドルー・ヴァンの居所を突き止めたのか、という疑問が生じます。どう考えても、田舎にいたヴァンよりも、とりあえずは共同経営者であるスティーヴン・メガラとブラッドの方が見つけやすいでしょう。たまたま近くに来ていたクロサックがヴァンに気付いたのかもしれませんが、そもそもまだハラーフトの一団はアロヨに来てすらいなかったのです。ヴァンが新聞に乗って知られるということも、おそらくなかったでしょう。クロサック犯人説は、少し無理があると思われます。


っというわけで、犯人はこいつだ!となったんんですが……動機が全く見当たらないんですよね。一応金かと思いましたが、犯人の行動を見るに、遺産目当てではなさそうです。
で、動機が解決編で明かされましたが……いやいや、これはいかんでしょう、クイーンさん。もうちょっと凝って欲しかったなぁ。純粋なるフーダニット作品に、ホワイダニットを求めるのは酷なのかもしれませんが。
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