大鴉の啼く冬
『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス(創元推理文庫)

新年を迎えた凍てつく夜。孤独な老人マグナスを訪れたのは、ふたりの女子高生だった。ひとりは金髪、もうひとりは黒髪――そう、まるで彼が助けた、傷ついた大鴉の羽根のようにつややかな。だが四日後の朝、黒髪のキャサリンは死んでいた。大鴉の群れ飛ぶ雪原で、赤いマフラーを喉に食い込ませて……。地元のペレスと本土のテイラー、二人の警部が見いだしたのは、八年前の少女失踪事件との奇妙な相似。誰もが顔見知りの小さな町で、誰が、なぜ、彼女を殺したのか?試行錯誤の末にペレスが掴んだ悲しき真実とは?英国本格派の新旗手が、冬のシェトランド島の事件を細密な筆致で描き出す、CWA最優秀長篇賞受賞作。(本書あらすじより)


前期試験終了記念第2弾!(前回は「弾」の字が間違ってた気がする)親が褒めちぎることこの上なかったこの作品ですが、果たして……。

結論。非常に面白かったです。何と言うか、まずこう、寒いんですよ。イギリス本土よか北なんですから。母親がそりを引いて娘を学校に連れてくんですよ(もちろんみんながやっとるわけじゃない)。この寒々しい空気が、作品の淡々として客観的な雰囲気にぴったりです。


この'淡々とした'というのが、作品が最大限に持ち味を出している所以ではないでしょうか。作者は、意図的に全てのキャラクターに対して中立的な立場を貫こうとしているように思います。真ん中を過ぎても、これといったミスディレクションが出てこないんです。また、基本的に誰か(四人いる)の三人称的目線で話が進行しますが、四人とも出来る限り他人を客観的にとらえようとしているように思えます。主人公のペレス警部ですら、非常に魅力的な人間ではありますが、ちょっと距離があるように感じます。

さらに、『大鴉の啼く冬』では、閉鎖的な町を舞台にしたよくあるミステリとは異なり、登場人物の関係がどろどろしていません。解説には、「誰もが知り合いという濃密な人間関係故に、ちょっとした行き違いから、それまで無意識のうちに封印してきた怨嗟や嫉妬、そして欲望といった情念が噴出し、殺人へと至る、そんなスモールタウンの犯罪」とありますが、そのような典型パターンとは少し違うような気がしますね。浮気や離婚関係もありますが、書き方が全く嫌らしくありません。どろどろした物が好き、という人もいるんでしょうが、個人的にはこうした雰囲気の方が、読んでいて安心出来るので好きですね。

もうひとつ付け加えます。いわゆる地元警察は、中央だか都市だかから来た警察(スコットランドヤードとか)と衝突すると相場が決まっています。そして、地方警察が主役ならば、中央警察は使えない連中だというのはお約束。ところが、そういった対立とかすら生じない。出てくる警官も、ペレスとテイラー(援軍に来た警部)だけといって構わない気がしますし、しかもテイラーはペレスと打ち解けてはいるものの、仲が良いというより、効率性と真実を求めているだけの実務的な警官、という感じ。一言で言えば、せっかちなんです。
ペレス警部自体がまた珍しい。彼自身には、周りを従わせるだけの力量や能力は確かにあります。ただ、フェア島出身、という点で、常によそ者扱いされるため、直接的には書かれないものの、警察内ではどうも居心地がよくなさそうなんですよ。人望がある、という感じはしません。かといって、一匹狼仕事の鬼ぃ、みたいなわけでもない。TYはこの人好きですけどね。


事件自体は極めて単純です。話の最初から最後まで島中から疑いをかけられっぱなしの老人がいます。もちろん、読者は彼が犯人なわきゃあねぇと思って読むわけです(笑)彼の事件への関わり度合いは、なかなか良かったですね。
読んでいて、作者はクリスティの『ABC殺人事件』を少し意識していたのかな、と思いました(ネタバレでも何でもないのでご安心を)。いや、どこがとはっきり聞かれても困っちゃうんですけど。


……というわけで、ひたすら雰囲気を味わえば、この作品はもう満足なんです。ミステリという点にのみ焦点を当てると、物足りないなという気がします。ペレス警部は正直何もやってないんじゃないかと思わないでもないし、過去の事件の解決に関してはちょっとだけ問題があるように思います(追記に記します)。が、犯人の意外性は無理なく十分ですし(大外れだった)、真相も伏線がきちんとはられたものとなっています。誤解を受けると嫌ですからきちんと言っておきますが、推理小説として何ら問題はありません。ま、作品の空気に浸っていれば、読んでいてあまり気にならないのではないかな、と思います。


なんだかんだで、個人的には大好きですね。CWA取るだけはあります、えぇ。

書 名:大鴉の啼く冬(2006)
著 者:アン・クリーヴス
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 Mク-13-1
出版年:2007.7.27 初版
    2007.11.16 3版

評価★★★★☆


【以下大きなネタばれあり、注意!】






























問題があるのは(問題といえるほどのことではないんですけどね)、8年前の事件の解決です。
もちろん、真相に問題があるわけではありません。問題は、自白のみでしか真相が明かされていないことです。しかも、8年間ずっと疑いをかけられていた老人の自白。証拠も何もないじゃないですか!
キャサリン殺しの犯人について、島の人々は納得するでしょう……が、8年前の少女殺しの疑いは、晴れないままになってしまう気がします。いくらなんでも気の毒だと思うんですよねぇ。
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