消え失せた密画
『消え失せた密画』エーリヒ・ケストナー(創元推理文庫)

デンマークの都コペンハーゲンで時価60万クローネの高価な密画が巧妙な盗難にかかった。好人物の肉屋の親方キュルツが、ふとしたことからこの大犯罪の渦中にまきこまれ、猪突猛進の大活躍がはじまる。作者ケストナーが、ユーモア犯罪小説と銘うった、あと味のよいブドウ酒のようにしゃれた香りと余韻を残すミステリの逸品。(本書あらすじより)

読書復帰企画第一弾!ちなみに、去年は確かアーロン・エルキンズの『古い骨』でした。って、んなことはどうでもいい。

とにかくがさつで田舎者、だけど正直で気のいい肉屋の中年おやじ・キュルツと、才気煥発かつ才色兼備な若い秘書・イレーネが、イレーネの雇い人(金持ち)の購入した超高価な密画(ミニエチュア)を守るため奮闘する話です。ちなみに肉屋のおやじは妻子持ちです(笑)じゃあ、若い女に対して若い男はどうしたんだと言えば、物語が始まってしばらくすると、この二人組に無理やり介入してくるのが、頭脳明晰なおかつ若くてかっこいいキザ男、だけどちょっと怪しい香りのするルーディなのです。要はこの三人が、ボスは有能なのに使えない手下ばかり抱えている(ようにしか思えないんですけど)、どこか憎めない強盗団と戦う、という話。しかも、あの『エーミールと探偵たち』のケストナー風味。ほらほら、もう面白いに決まってるじゃないですか。『エーミール~』の大人版、と言ったらいいのかな。ああいうユーモア犯罪小説(?)が好きな方には、間違いなくおすすめです。

ちなみに、密画というのは細密画のことです。高校世界史では、ミニアチュールと習いましたが、まぁおんなじでしょう。本作では、ホルバイン(ルネサンス期を代表する画家。エラスムスの肖像画なんかが有名)の作ったアンブーリン(ヘンリ8世の奥さんの一人)の密画が扱われます。いやもう、全然どうでもいいことなんですけど。


訳も何だか気合いが入っています。たとえば肉屋のキュルツが、どう考えても場違いなオサレなコペンハーゲンのレストランで給仕と話すセリフ。

「それから何か食うものがほしいんだがな。お手数でなかったら、冷肉の盛りあわせを一皿たのみます。ちいさい皿でいいんだぜ。いろんなソーセージを盛りあわせたやつをな。わっしゃ稼業(しょうばい)柄、デンマークのソーセージに興味を持っとるだ。わっしゃあベルリンで肉屋をやっとるでね」

……えっと、口調が軽く崩壊している気がしないでもないんですが(笑)「~でごわす」まで連発するんですよ、この男はっ!こういう、何だかのどかな訳は、読んでいてとても気分がいいです。


一応創元推理文庫から出てこそいるものの、内容的には「ミステリー」というにはあまりにお粗末。それよりも、このドタバタ喜劇を楽しめるか、というものでしょうね。個人的に、えてしてユーモア小説はなかなか読み進められないんですけれども(例えば、『ボートの三人男』なんかは、面白いのに一週間もかかったし)、この本は展開がわりあいスピーディで、読みやすかったように思います。軽く一気に読める良作。正直、内容はかな~りちゃちなんですけどね。まあ、こういうの嫌いな人には絶対無理でしょうが、この説明を読んで「面白そっ!」と思った人には、お勧めできると思います。


なお、未読の方に一つだけ注意を。登場人物一覧ですが、これはいかんやろ、という軽いネタばれが含まれています。読みながら、見なきゃよかったなぁとちょっと後悔しました。登場人物はそんなに多くないし、ケストナーはいちいち特徴を際立たせて登場人物を書き分けていますから、なるべく一覧を見ない方がいいかもしれません。

表紙の写真は、アマゾンのと違います。新版でしょう。登場人物一覧が、改善されているといいのですが。

書 名:消え失せた密画(1935)
著 者:エーヒリ・ケストナー
出版社:東京創元社
    創元推理文庫 508-A
出版年:1970.2.13 初版

評価★★★★☆
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