(このページへのアクセス数が非常に多いようなので、2016.04.30にちょっとだけ文章をいじりました。内容は6年前の高校3年生の時に書いたものと変わっていません)


毎週土曜日恒例(?)ミステリ語り、本日はコリン・デクスターについて語り尽くします。興味ない方は、どーぞスルーしてくださいませ。

デクスターは、個人的に非常に気に入っている作家です。アガサ・クリスティーしか読まなかった自分が、高1になって次に移った作家、とでもいいましょうか。
しかし、日本でも人気があるとは言え、イマイチ読まれていない気がしなくもありません(よね?)。新刊で買えるのは『ウッドストック行最終バス』だけという体たらく(※2016年現在、短編集『モース警部、最大の事件』以外の全長編がKindleで購入可能です)。というわけで、大いに褒めまくり、人気向上に一役買おう……というのが今日の目的(いやいや)。

デクスターの説明をちょっとだけ。1930年生まれのイギリスの作家で、男性陣ではラヴゼイ、ヒルと共に、現代英国本格ミステリの代表的人物です。イギリス陸軍通信隊・中等学校教師を経て、オックスフォード地方試験委員会に勤めます。クロスワードパズルのキー作りチャンピオンに3年連続して選ばれたことがあり、このこともあって作中のモース主任警部は大のクロスワード好きです。
1975年、本格長編『ウッドストック行最終バス』でデビュー。寡作で、25年間で長編は13しか書いていません。CWAのゴールド・ダガー、シルヴァー・ダガー賞を2回ずつ受賞。1997年、ダイヤモンド・ダガー賞を受賞。

以下、著作リストです。なお、日本ではシリーズ全作ハヤカワ・ミステリ(通称ポケミス)から出たのち、ハヤカワ・ミステリ文庫から出ています。翻訳は短編集内の数編を除いて大庭忠男氏。

長編

Last Bus To Woodstock(1975)『ウッドストック行最終バス』
Last Seen Wearing(1976)『キドリントンから消えた娘』
The Silent World of Nicholas Quinn(1977)『ニコラス・クインの静かな世界』
Service of all the Dead(1979)『死者たちの礼拝』……シルバー・ダガー賞
The Dead of Jericho(1981)『ジェリコ街の女』……シルバー・ダガー賞
The Riddle of the Third Mile(1983)『謎まで三マイル』
The Secret of Annexe 3(1986)『別館3号室の男』
The Wench is Dead(1989)『オックスフォード運河の殺人』……ゴールド・ダガー賞
The Jewel That was Ours(1991)『消えた装身具』
The Way Through the Woods(1992)『森を抜ける道』……ゴールド・ダガー賞
The Daughters of Cain(1994)『カインの娘たち』
Death is Now My Neighbour(1996)『死はわが隣人』
The Remorseful Day(1999)『悔恨の日』

短編集
Morse's Greatest Mystery(1993)『モース警部、最大の事件』(11編収録、なおポケミス版は10編)


……とズラッと並べましたが、実は『ニコラス・クインの静かな世界』のみ未読です。うーむ、なんておこがましいんだオレ。(※その後、大事にとっていましたが結局読みました)

デクスターの作品の特徴をあげるとすると、まずは二転三転するプロットがあります(アクロバティックな推理、なんてよく書かれます)。主人公のモース主任警部はいわゆる直感的推理をふりかざすタイプで、1つの長編の中で3つ以上は “真相”を述べます。その度に“らしい”推理なんですが、ま、たいてい外れます(だって、まだページが半分なのに解決するってことはないでしょ)。しかしこの振り回される感じが非常に楽しいんですよね。もともと念入りで緻密で複雑な事件だというのに、モースの推理が暴走するせいでさらにややこしくなってしまうのです。だからこそ、真の真相にたどり着いた時のカタルシスが堪らないわけです。このややこしさが、何回でも読める良さを作り出しています(何しろややこしすぎたので真相を読了後すぐ忘れてしまうっていう)。


さらに大きな魅力としては、モースやルイス部長刑事などのキャラクターにあります。モースは90年のCWA会員投票でホームズをしのぎ「好きな探偵」第1位になったほど、本国では人気があるようで。(※なおこれはドラマ化したっていうだけじゃないの?という疑いがあります。R・D・ウィングフィールドのフロスト警部についても同様ですね)

モースはオックスフォードのテムズ・バレイ警察署の中年独身主任警部。クロスワードを暇さえあれば解き、好きな音楽はワーグナーという高尚で知的な面を持つ一方で、酒も煙草も女も好き、ストリップ劇場に入るのにも躊躇せず、ときたまエロ本を読むという俗っぽい一面も持ち合わせています(そしてこの俗っぽい面を、自分でもやや恥ずかしいと思っているというのがまた魅力的)。非常に惚れっぽく、事件関係者にしばしば恋愛感情を抱きます。そして、どう見てもさえないこのおっさんは、なぜかよくモテるのです。そりゃあもう理由もなく(ここが大事)モテるのです(秘訣が知りたい)。ただし女性関係は、どうもついていない人です。

個人的に彼の性格で一番好きなのは、うまく言えませんが、短気だけど素直な所でしょうか。ときたまわけもなくルイス部長刑事や秘書にキレたりしますが、5分後くらいには心からそれを悔いていて、素直に謝ろうとさえします。読んでいてすがすがしいほど、素直な彼の態度には、どこか惹かれる所があるような気がします。まあ素直と言っても、知ったかぶりとかしますけど。とはいえ気分のむらっけが半端じゃないお方なので、正直な所何を考えているのかよく分からない……というのがまた面白いのかな。(※ところで女性でコリン・デクスター大好き!という方ってすごく少ない印象があるんですが、これもやっぱりモース主任警部のキャラ所以なのでは……と疑っています)

その部下でワトソン役のルイス部長刑事は、地道な捜査を重んじるコツコツ型で、いつもモースの直感に振り回されます。第1作の設定を見る限りではモースより数歳年上だという点が最大の萌えポイント。家庭的な一面も持ち、好きな奥さんの手料理はフィッシュアンドチップス。当初はモースをめんどくさがっていた彼ですが、次第にモースに対し心からの尊敬?それとも友情?のような感情を抱きます。二人の関係は、後期の作品ほど良いものになるんですよ。ラスト2作品の結末は、ミステリを読んでて初めて泣いた部分です。
その他のキャラは、長くなるのではしょりますが、まぁモース以外は好感が持て、感情移入出来る人物が多い気がします(笑)


そしてデクスター作品を語る上で欠かせないのは、非常に柔らかなユーモアでしょう。モースとルイスの会話や、事件関係者との会話もありますが、それよりも地の文での面白さが素晴らしいんです。ダッシュや( )などを多用する、はっきり言って英語らしい読みにくい文章なのですが、これが効果的で、知的でユーモアあふれるイギリスらしい文章を生み出します。この辺は読んでくれ、ほんとに。
この点に関しては、全作品を訳された大庭忠男さんによるところが大きいですね。大庭さん、普段は非常にこなれた訳なのですが、デクスターの時だけ若干直訳気味の、原文の雰囲気が残る翻訳をされています。これは名訳ですよ。もう90を越えた方だったと思いますが、お疲れ様でしたの一言に尽きます。
(※なお、大庭忠男さんは、2012年12月26日に亡くなられました。あの時はショックだったなぁ……心よりご冥福をお祈りするとともに、デクスターを翻訳してくださったことに感謝申し上げます)


とまあ、これだけ本格らしさもあり、適度なユーモアもあり、キャラ要素もあり、とウケる要素尽くしのはずなのに、なかなか読まれていません。どうも最近の傾向では、レジナルド・ヒルやコリン・デクスターのような(ちょっと地味でややこしい)作家は敬遠されがちなようです。うーむ、残念だ。

さて、最後にオススメの作品を。といっても、なかなか選びにくいのですが。デクスター作品の好みは人によって大きく分かれるようで、書評家さんたちの紹介を見ても、初期作(おおむね『死者たちの礼拝』まで)をすすめる方と、中期作(『ジェリコ街の女』から『オックスフォード運河の殺人』くらいまで)をすすめる方と、後期作(『森を抜ける道』以後の作品かな)が好きな方と分かれます。まぁ後期作を好きな人は、どちらかと言うとシリーズファンかなと思いますが。

まだ1作品も読んでいない方は、普通にデビュー作『ウッドストック行最終バス』から読みはじめるのがいいと思います。割り算のシーンは必見(笑)
その後、『ウッドストック行最終バス』だけ読んで続いていない、という方は、基本的にダガー賞を取っている作品が面白いのでそちらに読み進めれば。『ジェリコ街の女』『森を抜ける道』などですね。『オックスフォード運河の殺人』のみちょっと趣向が違うため(これはジョセフィン・テイ『時の娘』のオマージュである、安楽椅子歴史推理ものなのです)、いい作品だとは思いますが、デクスターらしくないという点ではイマイチかな。
また国内の新本格ミステリが好き!という方におすすめしたいのが『謎まで三マイル』。首なし死体が運河から見つかり、誰の死体か分からない、また容疑者も双子やら何やらで混迷を深める、という究極の犠牲者探し&フーダニットです。

『消えた装身具』『カインの娘たち』は微妙だった印象です。特に『消えた装身具』はテレビ用だったらしいので。また『悔恨の日』は言わば“モース主任警部最後の事件”ですので、なるべく後から読むのが良いです。基本的に読む順番は関係ないので、あとは気になったものから手に取ってみてください。

個人的にベスト3をあげるならば、『死者たちの礼拝』『森を抜ける道』『死はわが隣人』でしょうか。いずれも読みごたえ十分の傑作です。『死はわが隣人』をすぐに読むのは全くオススメしませんが、シリーズを通して見れば一番好きかもしれません。


といったところ。これで少しは知名度があがるといいなぁ。
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