『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ - 2018.03.25 Sun

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)
(本書あらすじ省略)
先日ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの代表作。以前『日の名残り』を読み、その「信頼できない語り手」ものとしての傑作っぷりに震え上がったわけですが、今回の『わたしを離さないで』の方がミステリの文脈で評価されることが多い気がします。東西ミステリー・ベスト100にも入ってるし。というわけで今回も期待して読み始めたところ……カズオ・イシグロが天才作家であることが分かりました。すっごい。
極力ネタバレなしで、むしろあらすじすら一切入れずに読んでほしい作品です。この世界のある仕組みが、「普通」と化している女性が語る、細かいエピソードの積み上げによって徐々に世界観を示していくSF作品。相変わらず淡々としていて、ストーリーも最後以外ほぼないような小説ですが、でも無限に読んでいられるのはなぜなんでしょう。
「こういうものだから」と受け止めていく少年少女たちをめぐる状況は、一見悲惨さはありません。ところが、垣間見える絶望や想像以上の残酷さがほのかにほのめかされていく様が、超絶上手いのです(このへん)。訳者あとがきで提示される疑問がめちゃくちゃ強いですよね……考えさせられる……。
とはいえ、そういった問題提起も大事ですが、学園もの、青春小説としての側面を前面に出して、この小説を作り上げたことが、『わたしを離さないで』が広く読まれた理由なのだと思います。非常に読みやすく、また強くおすすめできる小説ではないでしょうか。
ちなみに、ミステリとしてのカズオ・イシグロについてですが……なぜ、これが東西ミステリー・ベスト100入りしたのかは、結構謎ですよね。世界観の謎もありますが、割と通常のSFの範疇に入るものだし。むしろ、『日の名残り』の方が、圧倒的にミステリっぽさがないですか? 個人的には『日の名残り』の方が、ネタ的にも語り的にも好みですが、『わたしを離さないで』が青春小説寄りなのに対し、『日の名残り』は老人小説なわけで、ここらへんは好みで分かれるかなと思います。
原 題:Never Let Me Go(2005)
書 名:わたしを離さないで
著 者:カズオ・イシグロ Kazuo Ishiguro
訳 者:土屋政雄
出版社:早川書房
ハヤカワepi文庫 51
出版年:2008.08.25 1刷
評価★★★★☆
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