『伯母殺人事件』リチャード・ハル - 2018.02.05 Mon

『伯母殺人事件』リチャード・ハル(創元推理文庫)
アイルズの『殺意』クロフツの『クロイドン発12時30分』と並ぶ、倒叙推理小説三大名作の一つである。遺産を狙って、伯母を殺そうとたくらむ男がこころみるプロバビリティの犯罪! 一度二度三度、彼の計画の前に伯母の命は風前の灯となる……しかし、がぜん後半に至って話は意外な展開を示す。推理小説ファンが必ず到達する新しい境地。(本書あらすじより)
今の俺はいかなる地味なミステリでも行けそう、という確信から、なんとなく地味そうという理由でリチャード・ハル『伯母殺人事件』を読みました。三大倒叙ミステリの一冊として名高い本作ですが、『クロイドン』も『殺意』も未読なんですよね。なんか興味わかなくて。
……なんて言っていた自分を大いに恥じます。え、ちょっと待って、これやばくない? どえらい傑作じゃない???
1934年発表ということですが、当時としてはこれ以上ないってくらいのベストな長編ミステリだと思います。決して「三大倒叙」の枠におさまるようなもんじゃないのです。
自分では賢いと思っているけど、どう見てもダメっぷりがすごい甥が、伯母を殺そうと四苦八苦する、というまさに犯人側から事件を描いた倒叙な内容。シリアスさはほとんどなく、どちらかというとスラップスティックコメディっぽいです(『レディ・キラーズ』みたいな)。
ひたすら底意地の悪い英国ユーモアが全編を覆い、それが一筋縄ではいかない中盤以降の展開と実に効果的に結びついているのですが……いやぁ、倒叙も、殺して警察の捜査から逃げようとする話ではなく、そもそも殺すところからして上手くいかない話だとめちゃ楽しいものですね。
そもそも、甥が伯母を殺そうとした理由からして、メインは財産目当てではなく、うざいから、くらいの理由からスタートするのです。黄金時代のゲーム的本格ミステリは、やはりこうでなくっては。ユーモアたっぷりで、地味さなど全くありません。
とは言え、所詮刑事コロンボを経た我々が、今さら大昔の倒叙なんて読んでも……みたいな思いを抱いているそこのあなた、いやいや、少なくとも本作に関しては、古典と侮ってはダメです。はっきり言って、黄金時代の無限に存在する本格ミステリの中でも、21世紀に残り得る有数のミステリだと思います。すっげぇじゃんこれ、という感じは、『ビッグ・ボウの殺人』読了時の感覚に近いのですが、やっていることはあれ以上ですね。
先ほど底意地の悪い英国ユーモアとか、ゲーム的本格ミステリと言いましたが、本書のラストは、いわばその究極の着地点でしょう。ネタバレを食らわないうちに、ぜひ新鮮な気持ちで読み、そしてぶっ飛んでください。
というわけで、2018年、25歳にもなって、『伯母殺人事件』に大いに感心してしまいました。今さら興奮してしまって恥ずかしいので、『殺意』と『クロイドン発12時30分』も今年中に読んだ方がいいかな……まぁ、これを上回れるとは到底思えないけど……。
原 題:The Murder of My Aunt(1934)
書 名:伯母殺人事件
著 者:リチャード・ハル Richard Hull
訳 者:大久保康雄
出版社:東京創元社
創元推理文庫 Mハ-6-1
出版年:1960.01.15 初版
1992.06.12 16版
評価★★★★★
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